◆7月23日<夜>◆
『花火見物』
「私たちも、何か花火を買ってくればよかったですね」
夜の砂浜で花火をする奴らを見て真澄ちゃんが言った。
食後の時間を持て余していた俺に真澄ちゃんから電話があった。暇なら少し会いませんかという彼女の誘いを受けて、こうして夜の天乃白浜を二人で歩いているのだ。
「いいじゃん。見るだけの方がお金かからないし」
「先輩って意外と現金…」
「でも見てるだけでもけっこう楽しいだろ?」
「そうですね。とても綺麗」
天乃白浜海岸。俺達は階段状になっているコンクリートの上に腰掛けて、夜の海と砂浜を見ていた。
思っていたより人が多い。あちらこちらで花火の炎があがってる。
俺の隣にチョコンと座っている真澄ちゃん。改めて見ると、ほんと可愛いなぁ。
「あれ? 真澄ちゃん、お風呂入って来たばかり?」
「え?」
「いや、石鹸の香りがするから。それに少し髪も濡れてるみたいだし」
「そ、そうですか?あ、あんまり見ないで下さい。恥ずかしいですから…」
顔を赤らめて俯く真澄ちゃん。
なんか凄くいいよな。風呂上がりの女性って。
真澄ちゃんをここまで異性として意識するなんて中学の時には考えられなかったよ。
「俺が卒業してから、時々は思い出してくれてた?」
「え?もちろんじゃないですか。忘れるはずはありません」
「それにしては最初会った時、気付かなかったねぇ」
俺は少しからかってそう言う。
「だって、眼鏡かけてなかったですし、こんな所で会うなんて夢にも思わなかったから」
「俺はわかったぜ。真澄ちゃんのこと」
「はい。嬉しかったです。あの時、先輩が気がついてくれなかったらあのまま別れていたんですね」
「こうして話をする事もなかった訳だ」
真澄ちゃんは少し頬を赤らめて膝を抱えた。
連発の打ち上げ花火を手持ちで打ち上げる奴らがいる。次々と海の方へ消えていく光の玉。一瞬辺りを照らす打ち上げ花火。
地面から火の粉を吹き上げる花火。派手さはないが綺麗な手持ち花火。
数々の光の芸術が燃えては消え、消えては燃えてこれでもかと言うくらいに夏の夜を演出していた。
真澄ちゃんと二人の夜。
肩を並べて、こんななんでもない夏の夜を眺めている事が不思議と自然に思えた。
昔からずっと一緒にいるような感覚。実際は3日前に再会したばかりなのに。
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