食事も終わってすぐ帰るのかと思いきや、姉貴達はレストランの隣にある展望台で二人だけの世界に入ってしまった。
俺も憎たらしい姉貴とはいえ新婚の夫婦の甘いひとときを邪魔するほど無神経じゃない。仕方なく俺は離れた所でフェンスに背中から寄りかかって夜景を見ていた。
「あの…宇佐美先輩?」
「あれ? 真澄ちゃん。一人?」
振り向くと、真澄ちゃんが上目使いで遠慮がちに俺ほうを見ていた。
「はい。…あの〜隣、いいですか?」
俺は頷くと、真澄ちゃんは俺の横に来て夜景を見つめた。
「さっきはごめんなさい。由希子姉さん、いつもあんな感じだから…。先輩、明日は本当に大丈夫なんですか? 用事とかあるなら、私から言っておきますけど…」
「真澄ちゃんは俺が来たら嫌?」
「そ、そんな事ないです。全然。…宇佐美先輩が来てくれた方が、私は、その…嬉しいです」
小さな声で、少し恥ずかしそうに言う真澄ちゃん。
「じゃあ、問題ないよ。俺も海に来たのに一人じゃつまらないって思っていたんだ。それにせっかく真澄ちゃんと出会えたのに、もったいないじゃん。俺は大歓迎だよ」
「本当ですか? よかった」
真澄ちゃんが俺の方を向いて嬉しそうに微笑む。
その笑顔に俺は少し胸が高鳴った。いや、ホント、真澄ちゃん、綺麗になったなぁ。
「でも、あたしびっくりしちゃいました。また宇佐美先輩に出会えたなんて。もう先輩とは二度と会えないって思っていたのに」
夜景を見ながら、しみじみとそんな事を言う真澄ちゃん。
「なんか、けっこうインパクトのある再会だったよな」
「こんな偶然もあるんですね」
真澄ちゃんはすこし顔を赤らめながらそう言った。
「そういえば真澄ちゃん。何処の高校に行ってるの?」
「聖華院女子です」
うわ、聖華院女子高って、けっこう難しいんじゃなかったっけ?それに地元ではかわいい娘が多いって有名なお嬢様学校だ。
「それなら近くだね。俺は…」
「響谷高ですよね」
難なく言った彼女に俺は少し驚く。
「なんだ知っていたのか」
「卒業式の時、先輩、あたしに教えてくれました」
「そうだったっけ? でも、よく覚えてたね」
「ほら、第二ボタン、くれましたよね。私、凄く嬉しかったから…」
「ああ! 思い出した。わざわざ校門で待っていてくれたんだ。でも、俺なんかのもらったってしょうがなかったろうに」
そうだ。俺は中学の時は特に部活などをやってなかったから、後輩の知り合いが少なかった。そんな俺に卒業式の日、唯一声をかけてくれた後輩が彼女だったのだ。あの時は少し嬉しかった事を覚えてる。
「そんな事ないですよ。先輩、優しかったし…。あたしいつも迷惑かけてばっかりだったけど一緒にいろいろやった事、ほんとうに楽しかった。だから、なにか形を残しておきたかったんです」
両拳を胸の前で握りしめ、熱心に俺に言う真澄ちゃんの姿に少し驚く。
「それは光栄だね」
「あ…あたし、なに力んじゃってるのかな。…ごめんなさい」
顔を真っ赤にして俯く真澄ちゃん。
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