1日目【7月21日

 
 


 照りつける夏の暑い陽射しに俺は目を細める。

 改札を抜け俺は駅前広場に降り立った。
 蝉の声が耳につく。白く洒落た作りの木造駅舎から真っ直ぐに続く道路。歩道を飾る緑の桜並木。その脇には小さな商店が軒を連ねていた。 

 駅前のバス停で時刻表を見る。姉貴のファックスによれば、確か三本松海岸行きに乗ればよかったんだよな。…と時刻表を確認するまでもなく、丁度バスが来た。


 15分ほど、バスに揺られ、それから徒歩で10分。途中、迷子になりそうになりながら、なんとか姉夫婦の家にたどり着いた。

 姉の嫁ぎ先の長谷川家は新築二階建ての瓦屋根の和風建築。広い庭付きの立派な一軒家である。
 しかも、これはれっきとした姉貴の夫、長谷川康太郎のマイホームなのだからすごい。義兄はまだ20代半ば。田舎とはいえこの年齢で自費でこれほどの家を建てる事ができる人はなかなかいないだろう。

 「よっ!まこと君」

 不意に声をかけられて振り返ると、その康太郎義兄さんがいた。ちょうど愛車のBMWから降りてくる所だった。

 「こんにちは。お仕事だったんですか?」
 「ああ。今日は休みだったんだけど、ちょっと野暮用があってね。暑かったろう?とにかくあがってくれ」
 「はい。今日から一週間よろしくお願いします」
 「こちらこそ。自分の家だと思ってゆっくりするといいよ」

 康太郎義兄さんはそう言って微笑むと、玄関へ向かって歩いて行く。俺もその後に続いた。

 彼はこの三本松町の発展多大な貢献した実業家の息子だ。よく二代目はダメだとか言われるが、康太郎義兄さんの場合は別だ。天乃白浜ヨットマリーナの社長で、シーサイドパークの重役でもある。斬新なアイデアと努力を惜しまない姿勢でシーサイドパーク構想を発展させた実績が実力を示している。

 背は俺よりひとまわり高く、のほほんとした印象があるものの、なかなかの美青年である。結婚前はさぞモテたんだろうな。

 外見通りのんびりとした性格なのだが、いざ仕事などの真剣な場面になると普段の彼からは想像もできないような決断力と行動力で問題を解決してゆくという隠れた実力の持ち主である。
 よく、姉貴はこんな人と結婚できたもんだ。姉貴にはもったいない。きっと、あの強引な性格で押し切ったにちがいない。

 「ほぉ、迷わず来れたみたいだな。感心、感心。」

 出た…。玄関で俺を待っていたのは、長谷川博子、俺の姉だ。
 久しぶりに会っての挨拶がこれである。

 姉貴は腰までの長い黒髪が印象的な女だ。
 自分の感情なしで第三者的意見で言うと美人の部類に入る。大学時代、ミスキャンパスコンテストでも最終選考まで残った実績がそれを証明している。だが、せっかくの容貌も性格と男言葉で台無しだ。

 康太郎さんとつき合う前にも、何人か彼氏はいたようだけど、どれも長続きしなかった。たぶん原因はその辺りにあったのだろう。合理主義者で講釈タレである。

 「昼食を食べたら、すぐ海へ繰り出すぞ。ほら、この部屋を貸してやるから荷物を置いて、準備をしておけよ」

 俺は二階の六畳ほどの和室に通された。この部屋で一週間過ごすことになるわけだ。俺は荷物を部屋の隅に置くと、海水浴の準備をする。
 新調したサーフトランクスに、バスタオル数枚。水中メガネにシュノーケル、ビーチボールにサンダル。
 とりあえず、こんなもんだろう。

 「まこと〜!食事が出来たぞ!降りてこい」
 「へぃへぃ」

 さてと、昼飯が終わればいよいよ海へ出発だ。
 よし、張り切って行こう!