■ARTIST FILE : Matsutoya Yuming
Album Review 1996-1998
※失望のKATHMANDU。そんな状況を打開する最終兵器...伝家の宝刀を抜く時がきました。かねてから噂のあった「荒井由実」の復活が、この年に遂に実現します。過去は振り返らないと言いつつも過去に拘り続けてしまう、そんな弱さに気づいた時に、いっそ思いきって過去と対峙してみたらどうなるのか。「過去は遠いところにあるのではなく、振りかえればいつでもそこにある...」。過去は捨て去るのではなく、ましてや囚われるものでもなく、常に今との係わりのの中で捉えるものなのだと教えてくれているようです。そして発表された『Cowgirl ...』と『スユアの波』は、今までのメッセージをより具体的に表現して、時空の旅人としての本領を発揮します。セールスは今ひとつでしたが、彼女の作品の中で重要なポイントとなる好盤と位置付けて良いでしょう。さらにユーミンはこの千年紀を来るべき21世紀を見据えた助走期間として、更なる底力を見せつつ作品を発表し続けていきます。

Album Review
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"The Concert with Old Friends"(VHS/LD/DVD)
(R:1996/12/20)
DVDジャケット
伝説のライブの映像がこれで永久に残ります。どんなに素敵なコンサートだったかは、ステージ上のミュージシャンの表情が全てを語っていると思います。禁断の伝家の宝刀を遂に抜いたYuming。ここ何年も噂になっていた荒井由実時代の曲だけでのパフォーマンスが遂に実現しました。しかも、たった三日間の中野サンプラザ公演だなんて...多くのファンが涙を流したことでしょう。
 Yumingにとって、ミュージシャンとしてのキャリアをちょうど折り返した...そんな感じでしょうか。それでも、ここ数年の彼女の低迷を考えると、こんな奇策で対処するしかなかったのかもしれません。それでも、当日演奏された曲は、実はここ最近のコンサートで一度も選曲されなかったものは少なくて、ある意味では「焼き直し」の感は否めません。どうせだったらもっとコアな曲を...と望むのは当然のこと。やはりどこか中途半端な、この時期のYumingでありました。
※とうとう1996年はオリジナルアルバムの発売がありませんでした。彼女自身が何かに区切りをつけたくて「荒井由実」時代を総括し、96年は終わってしまいます。マーケテイング的に考えれば、ライブ盤の発売が急遽決まったために年内の発売を見送った...という事情は理解できますが、やはりファンは、常に新しいYumingを求めてしまいます。
 何故今荒井由実なのでしょうか...。東芝EMIが版権の無い荒井由実時代の楽曲を何曲かでも、自社制作の盤で発売したかったのでは...などと推測していますが果たして真実は...???。でも、このこだわりって、とってもよく分かります。何せあの頃のユーミンも良いのですもの。
"Cowgirl Dreamin'"
(R:1997/02/28)
2年ぶりのオリジナルアルバム。先行シングルとなった<告白>の勢いをそのままに、アルバム全体にスピード感を感じさせてくれる好盤です。特にM1の<ありのままを抱きしめて>から<Cowgirl Blues>、<告白>、<Moonlight Ledgend>と続く前半は秀逸の出来で、未だにその魅力に取り付かれたままの私です(笑)。荒井由実コンサートで聞かれた<まちぶせ>は正直蛇足か。それでも良い意味での開き直り感で、もっと自由に飛び出せ!って感じの開放感タップリで、Yuming復活を予感させる作品だと思います。
"Wave of the Zovuya"
(R:1997/12/05)
結果的にこの年2枚目のリリースになりました。タイトルとなった「スユア」とは古代マヤの言葉で時空を超えることのできる扉のこと。「時空を越えて...」はYumingのお得意のテーマだけれど、ここまでストレートに表現したのは久し振り...『リインカーネーション』以来のことでしょうか。時の流れを波に見立てて、ジャケットも怪しい模様に彩られたサーフボードがいかにも象徴的。バートバカラック調の<Sunny Day Holiday>などは、サウンド的には新境地開拓か。個人的には苦手ですけど...。<君無き世界>で聞ける透明感のあるサウンドは、エンジニア陣の確かな技術を実感させてくれます。メロディをガラリと替えた名曲?<時をかける少女>はアイデア勝ち。イントロで聞ける懐かしい響きのオルガン?も雰囲気を盛り上げてくれて、とても良い感じに仕上がっています。Dean Parksのキレ味抜群のカッティングギターは聞きところの一つです。
"Neue Musik"
(R:1998/11/06)
Yuming初の公認ベスト?。選曲にあたってはファン投票の結果も反映されています。全曲リマスタリングが施され、さらには担当D氏の拘りで全曲参加ミュージシャンのクレジット入り。ここ注目です。お疲れ様でした>Gさん。リマスターにあたって起用されたのは巨匠バーニー・グラッドマン。彼の音にホレ込んだスタッフは、その後、EMIで権利をもつアルバム全曲のリマスタリングを敢行します。そしてその成果がまずBox Setで発売され、その後、全てのカタログがリマスター版へと切り替えられます。いずれにせよ、アルバム制作のペースがめっきり不規則になってしまった以上、レコード会社としてはあの手この手と新作をリリースしなければならないので、ほんとご苦労でしたね...。でもね、ファンはあまり関係無いんですよね、正直に言えば。ヘタなカタログを頻発させるって、あの悪名高きアルファの専売特許だったじゃないですか。世紀末の近づく中で、何か相当なエネルギーの乱れをYumingは感じていたのではないかと、今更ながら思ったりしますが...。
 でも実際は、99年に開催された一大スペクタクル・ショーShangrilaの準備でアルバムの制作どころじゃなかったというのが本当のところなんですよね、きっと。ステージとアルバム制作が両立できなかった...やっぱりYumingも人間だったということでしょうか。
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