「ハ長調」の海とパラソル★青木栄瞳

「ハ長調」の海とパラソル
青木栄瞳



純度の高い夢などあるのかしら?

〈見知らぬ他人(ひと)になら、僕は
 何でも しゃべることができそうだ〉


 海水浴のスケジュールどおり、
 1996・7・14は
「ハ長調」の真夏日でした。

    本なんか読んでも
    シャッター・チャンスはこないわ、
    週末は
    何しているの?


《「海」の印刷を開始します 》

    クラゲに刺されたわ
    クラゲに刺されたいわ、

 ワイド・スクリーンの海は
 足元を隠しながら、
 強い海風で
 パラソルを 3本も吹き飛ばしてしまったので、
 いま、
 透明クラゲたちを
 味方につけているのです。

 それで、
 ビキニのお嬢さんたちが
 笑い転げてばかりいるのですね、
 
    クラゲに刺されたわ
    クラゲに刺されたいわ、
    また、パラソルが吹き飛ばされたわ、
    ああいった負け方はしたくないね、
    物語だから。

    キャンデー売りがこないわ、

 夏に転調する
 僕の体温を焦がしてくれるのは、
 裸の海風と
「ハ長調」のおしゃべりばかりです

    クラゲに刺されたわ
    クラゲに刺されたいわ、
    あなたは、
    なに聞いても、答えられないし、

    改名したら?

 PM6:00
「変ホ短調」の夕なぎです。

    クラゲに刺されたわ
    クラゲにも刺されたわ、
    足元に気をつけてね
    燃えないゴミなどありはしないのよ。

    まだ理解していないの?

    携帯電話 使えるかしら、
    美容院は予約したのよ、
    どうしました?
    風上の先に
    海の「おへそ」があるはず――


《「海」の印刷を中止します 》

――満月のお客さま、ご注文をどうぞ。


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