深夜鬱勃

深夜鬱勃



 深夜になって鬱勃と沸き起こってくる小腹の食欲については、諸兄姉の誰しも身にお覚えがあるのではないか。その大抵が飲んだあとで、という場合が多いようで、体によくないことは解っていながらこの欲望には大方が抗しきれず、深更の台所でなにやら音を立てる仕儀となる。このとき比較的大活躍するのは殿方のほうで、ご婦人方はねだる側か、でなければすでにお休みになっているケースが圧倒的なのは、芸能人でいえば立川談志や石坂浩二の例を見ても判る。深夜の食欲にそぐうのは、あっさりとしていてしかもちょっとした油っ気のあるもので、たとえばビーフンやそうめんに少々の具を入れて炒めた一皿などそこに胡麻油等を利かせれば申し分なく、スパゲッティなんかではやや重い気がする。わが家で試みた変わったところでは、なんにもないことが判明した冷蔵庫を諦めて探った戸棚から蟹フレーク缶を見つけ出し、少し考えてから玉葱の微塵とマヨネーズで和えて、有合わせのパンをガーリックトーストにしたやつに塗ってみた。丁度赤ワインがあったのは僥倖で、こんなのは小規模なパーティだが、いつか母親と二人暮らしのときに襲われた深夜の空腹に、辛い搾菜だけで食った一杯の冷や飯も、これもしみじみとうまかった。


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