肝白譜
肝白譜
魚の肝と白子は冬の味覚の双璧だろう。肝なら鮟鱇、皮剥。真子鰈もいい。白子はむろん味の極致ともいえる河豚のそれは別格としても、鱈の白子が出てくる冬の初めは毎年待ち遠しい。鮟鱇の肝はどういうわけか上手に蒸し上げた良品に出合ったことがなくて、生のものを鍋にそのまま入れて豆腐と交互につつくという、さもしくも見える食い方がいつのまにか習い性となってしまった。皮剥ならトモ和えにとどめをさす。肝和えとも云うようだが、皮剥の淡泊で綺麗な身が、肝のひと刷毛でなんとも艶冶で濃厚な味となる。ここに酒が無いとしたら私はぜったいに嫌だ。真子鰈の肝は、いつか寿司屋に行ったとき、タネのケースのなかにたったひとつあったのを見咎めて軍艦巻にしてもらった。肝にしては非常に軽く甘い味で、旨かったこと以外のすべてを忘れてしまいそうだった。河豚の白子の塩焼きに関しては、言えば言うほど今食えない悔しさがつのるのでここには書かない。さいごに、鱈の白子はビニール・チューブ状のものに詰めてあるのは当然駄目で、あれは魚屋の現場で本体を捌いた上でのやつを買わねばならない。新鮮であるのは必要にして十分な条件で、ある天婦羅屋でその焼き物を出されたが、それは旨いというより凄かった。
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