飲酒歳時記
飲酒歳時記 ――味噌可なり菜漬妙なり濁り酒 四方太
歳時記で酒の例句を眺めてみるのは一興を誘う。私が持っているのは講談社刊の四分冊のやつだが、四季折々の酒があって、白酒は春、冷酒や焼酎は夏、秋には新酒に濁酒があり、冬に燗酒・鰭酒と続くのだが、酒だけで何かの季として取り扱われることはないようだ。春のそれは「白酒や姉を酔はさんはかりごと 草城」と可愛らしくていわゆる酒の句らしくないのだが、秋の新酒となるとさすがに呑ん兵衛の句が揃い、「生きてあることのうれしき新酒かな 勇」のとりたてて言うところのないような句も勇の姓が吉井であることが判ると俄然違った光を帯びて見え、「膝がしらたゝいて酔へる新酒かな 櫻坡子」や「肘張りて新酒をかばふかに飲むよ 草田男」は十分に酒飲みの悦びと意地汚さが俳となって伝わる。古俳諧の「八九分に新酒盛べし菴の月 几董」「杉の葉のぴんと戦ぐや新酒樽 一茶」の句は櫻坡子や草田男よりももっと私を飲みたい気にさせて、「憂あり新酒の酔に托すべく 漱石」は理が勝り、先生下戸であることをむしろ偲ばせよう。冬の「熱燗や八十過ぎし書生酒 梧逸」と晩秋の「どびろくや而も藩儒のなれのはて 草城」の対比も面白いが、夏の酒には「焼酎に死の淵見ゆるまで酔ふか 康治」なんて凄いのもある。
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