酒飯論

酒飯論



 九州が地元の友達の話では、彼の叔父さんはカレーライスで清酒をやるそうだ。これはかのチャーハンをおかずにして飯を食う話に匹敵するが、ただちに悪食と断を下すまえにこれほど極端な印象を与えることはなくても、類似の例は蕎麦及び寿司という立派な正統的和食のなかにないこともない。蕎麦と酒とはどういうわけか切っても切れない関係になっているが、ふつう酒を飲ませるほどの蕎麦屋なら、蒲鉾や焼き海苔で数献やっていい機嫌になったところを見計らって「おそばにしますか?」とくる。けれども歌舞伎の直侍などは、かけそばをたぐりながらかつ熱燗をすする。観劇のあとの夜の蕎麦屋でこれを真似る御仁も多いのではと察しられ、じっさい高品質の蕎麦ならば、かけならずともせいろなどで一献というのは実によろしいものがある。おなじことは寿司にもいえることで、刺身の酒から握りの食事に移るという定法以外に、ばらちらしを摘みながらちびちびという手があるそうで、それはやったことがなくても小ぶりのやつを直接握ってもらいながら飲むのはまことにしみじみとした味で渋い。ついでに、突出しに汁物というのも現在では高級料亭のみに残る遺風だが、太宰の小説が描く戦前の居酒屋にはちゃんと出てくる。   

|
続々 解酲子飲食 目次| 前頁(酒を酢にする美徳)| 次頁(ビフカツ)|