甘辛考

甘辛考



 むかしから付き合っている友人・知己には信じられない話だろうが、結婚して菓子を食うようになった。砂糖で誤魔化す似非料理は唾棄するところだが、それで勝負している食い物には評価すべきものがある、というのが現在のだいたいの、まあ、心境だ。御酒のいただきすぎで斃れるドランカーもあれば羊羹一本平らげて頓死する糖尿病患者もいるというわけで、魔味という点では甘辛に善悪のモノサシはあてはまらない。ただ、酒で暴力を振るうことはあっても、羊羹の棹を振り回して狼藉に及ぶことがないだけの違いはあってこれで悠久のむかしから女子供は(例外的に亭主たちも)泣いてきたのだろう。けれど酒をやらないからといって必ずしも女子供を(例外的に亭主も)泣かさないかというとそうでもなく、それから先は当人の心掛け次第ということになる。この問題は古来からのアポリアなので深入りしない。甘辛の合戦の記録なら江戸期にままあって、文化年間に催されたそれを見ると「鯉屋利兵衛三十歳 酒一斗九升五合」はそんなに驚かないが、「伊予屋清兵衛六十五 まんぢう三十 鴬餅八十 松風せんべい三十枚 沢庵の香の物丸のまゝ五本」には鬼気迫るものがある。私だったら群林堂の豆大福を三月に一個で、もう、いい。

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