酒徒志学

酒徒志学



 初めて酒を飲んだといえるような機会に巡り合ったのは、あれは高校に入ったその春のことだったと思う。上級生のいくぶんか手荒い歓迎会のようなもので、会とはいっても学校のプール下の斜面に一升瓶を持ち込んで夜陰に乗じて決行された非合法色のつよい酒盛りで、新入生の当方にはいかにも蠱惑的な彩りを持ったものだった。会のあと、校内中を校務員にこっちの正体を悟られないように逃げ回ったのは別として、そのときに酒はよいものだと知った。しばらくは飲んでは吐き、吐いては飲みの修行だったが、十九ぐらいのころには一升半をあけて翌朝のさわやかな目覚めというものを知った。当時の私の新鮮なレバーが目に浮かぶようだ。そのころから詩を書きはじめていて、先達の詩人や編集者に連れられて新宿のバーなどに出入りしたが、ある夜の夢に縁までなみなみと盛り上がった金色の桝酒に口を近づけてゆく自分を見て、詩と酒とが関係のないものだとはっきりと判った。酒の失敗は大抵内在的なもので、例外として昏睡したまま東横線を端から端まで三往復半したことを除き、概ね常人の矩を踰えず、酒は無量で悔しいことに乱に及ばない。 十五から酒をのみ出てけふの月          其角

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