二日酔いの朝の食欲

二日酔いの朝の食欲



 二日酔いの朝には独特の感じがあって、あれは経験した者でないと解らないと思う。まずいちばん駄目なのはなんにも食わないことで、体内のアセトアルデヒドの跋扈を容認することにもつながり、まず悲惨な夜を迎える結果となる。そんなふうにならないためにはカラダが求めているものを注意深く探る観察力を要し、私の経験では、それはたいてい辛いもの、汁気のあるもの、そして少々脂っぽいものを摂ることに尽きる。ちょっと元気が残っていれば中辛よりややきつめのカレーライス、そんな元気のないときには(ここが重要だが)かなり辛めのスープの中華麺、できれば具は野菜のみのやつが望ましい。蕎麦はあまりお薦めできない、というのはあれはあまり消化がよくないし、だいいち蕎麦をたぐっているうちについ迎え酒の誘惑に克てなくなる事態にしばしば直面するからだ。若いころ、友達の下宿でかなり強度の二日酔いの朝を迎えたことがあるが、まず最初にしたのは一本のトマトジュースを飲んだことで、しばらくしてそいつを吐血のごとく戻したら猛烈な空腹に見舞われて、昼の高円寺の街を卵を載せたハンバーグや天婦羅蕎麦やとんかつを貪りながらさまよったあげく、盥ほどの器に盛ったバナナパフェでシメたのを思い出す。



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