海上勤務のハンバーグ

海上勤務のハンバーグ



 肉体労働に従事していた若いころ、海上保安庁の巡視船のパイプラインの洗浄というのをやったことがある。塩で錆ついて頑丈になってしまったおびただしい数の接合部を、いちいち外したり装着したりする仕事はなまやさしいものではないのだが、問題は昼飯だ。船はいまで言う湾岸部に接岸していたので街からははるかに遠い。途方に暮れていると、厨房から昼食を出してくれるという。造船所などのメシを想像していたので、おそるおそる皿のハンバーグを口にしたらこれがすばらしかった。よく練られた上質の肉にはまだ赤みが残り、ナツメグをはじめとする香辛料の複雑な味わいは興奮するに値した。単調な海上勤務に耐えるためにはこれが不可欠なのだろうと納得する。そういえば昔の海軍などのメシは上級将校ばかりにではなくよろしいものだったと聞く。いまさかんに喧伝されているレストラン・クルーズは、窃かに伝えられるところでは値段ほどうまいものではないらしいし、実際うまいものではなかった。機関室あたりで油まみれになっている連中のほうが日々質実な美味にありついているのかもしれない。




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続 解酲子飲食 目次| 前頁(高ばしの泥鰌)| 次頁(ピザはドミノで)|