ファグラ大根の恥ずかしさ

ファグラ大根の恥ずかしさ



 道場センセイあたりが始めたのかどうかは知らないが、昨今ファグラ大根というメニューは少し気取った店ならば置いてあることが多いようだ。おでんの一変種と思えばたいてい間違いないようで、モノがほんもののファグラである以上たしかにうまいにはうまい。ただしロケーションというのはあるもので、お台場やディズニーランドのある舞浜や横浜のみなとみらいあたりで夜景を見ながらということになると、幽かだがなにか戦慄すべき恥ずかしさがそこには隠されているような気がする。独身だったらぜったい食わないやこんなもの、と思ったことは正直いって一再ならずある。いつだったか、都内のホテルの最上階で女房と一杯やったことがあるが、そのときの肴がニョッキのトマトソースと例のファグラ大根で、弦楽四重奏の生演奏が入っていたと記憶するが、その高潮部の歌うようなふるえるような弦に女房の顔色がだんだん変わっていった。彼女は子供のころ、家族と見ているテレビの画面に、「浪曲子守唄」の一節太郎とか「骨まで愛して」の城卓也とかが登場すると耳と目をふさぎながら部屋から逃げて出たそうだ。そんなことを思い出していたのかもしれない。




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