ピーマンの深淵

ピーマンの深淵



 ここで言うのは焼鳥屋でネギマや獅子唐焼きと同列に並べられるピーマンのことではない。近頃よく見かけるおおぶりの赤ピーマン、青ピーマン、黄ピーマンの類で、イタリア料理などに出てくるあれだ。そのなかでも青いやつは熟し方が足りず、赤いやつは唐辛子とイタリア語で同語源のペペローニという言葉が物語るごとく、ときに飛び上がるほど辛いことがあって、わが家で晩飯の菜といえばもっぱらイエローピーマンに決めている。料理の仕方はまず焼いている当人が心配になるぐらいまで真っ黒に焼くこと。それから流水のなかで炭化した部分を取り去り、あとはドライバジルとオリーブオイルをかけてできあがり。これだけの簡単なものだが、味わいはいろんなことを連想させて深遠だ。だいいちに熟成タイプの濃厚な赤ワインに合う、ということひとつ取っても下手な牛肉どころではないのが解る。その匂いは青黴チーズとか熟し切った果物を思わせ、われわれと異なった肉食人種の味覚のふるさとのようなものを遠く想像してしまう。そういえば沖縄のほうで泡盛の極上の古酒を評するのに山羊の香とか白梅の香とかの表現があって、あそこも肉食の盛んに行われる島嶼であることを思うと、なにか共通する嗜好があるのかもしれない。



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