彼岸のモロコ

彼岸のモロコ



 どうしたはずみでか友人と二人で奈良のもう一人の友人のところへ遊びに行ったことがある。大阪を経由したのだがとんだ弥次喜多道中で、法善寺横丁の焼鳥屋で異様に上質のコモカブリを出すので警戒しながら杯を重ねていったら(鶉や鴨や地鶏で)、二人で二万円弱という変なボラレ方をした(もしかしたら、ボラレてはいなかったのかもしれない)。そんなこんなで翌日は二日酔いで、酒は飲まないのに車で案内をするのが大好きという、われわれにとっては神様のような奇特な奈良の友人のハンドルで大津へ行った。石山寺や三井寺を回る途中「ここ、知っとる」という私設運転手のひと声でモロコの炭火焼きを食わせる店に入ったのだが、ざるに並べられたモロコは銀の腹にコを持っていて、あぶったやつを酢醤油だけでほおばる昼酒の趣は、「湖水朦朧として春を惜しむに便あるべし」(去来抄)だ。おりしも彼岸中日、モロコは罰当たりたちの酔眼に消えた。
      
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