豆腐礼賛

豆腐礼賛



 豆腐についてはどこの何と言いたくない心持ちだ。雑誌ライターの磯山久美子姐さんの持論では豆腐屋が二軒以上ある街はいいところだそうだが、豆腐屋でなくとも近ごろのスーパーは選択肢が増えて少し出せばかなりの佳品が手に入るようになった。ただし一丁千円というのはあれは豆腐じゃない。また、夏のざる豆腐の甘さや冬の湯豆腐の滋味はわざわざ店へ行って味わう性質のものではない気がする。青木正児*まさる*先生によって知ったのだが、明代の文集のなかに「豆腐三徳賛」というのがあって、そのどこから食べてもよいのが徳の一、その思う存分噛めるところが徳の二、さっぱりして生臭くないのが徳の三だそうだ。最後のさっぱりしてというのも注釈が入り用で、モノによっては下手なチーズどころではない味を持つ類がある。こうなると、久保田万太郎翁のかの「湯豆腐やいのちのはてのうすあかり」の豆腐もなんだか濃厚なものに見えてくるのは当方のひがめか。

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