美容院嫌い(3)

美容院嫌い(3)
鳴門


 受付の手続きを済ませソファに腰かけて待っていると、しばらくして美容師が現れ、名前を呼ばれる。
「こちらへどうぞ」
 案内されるままに、例の特殊な椅子に腰かける。正面には大きな鏡。
 美容院の鏡は普通の鏡とはなにか違うような気がする。それとも照明のせいだろうか。実際よりきれいに映っているのではないかと思う。長時間自分の顔と対面させられるのだから、それくらいのサービスはあってもいいと思うけど、なんとなく胡散臭い。これって、私の偏見かしらん。
 こんなに大きな鏡なのに、隣のお客の顔は決して映らない。さっきから大声で自慢話ばかりしている隣の中年女性がどんな顔をしてるのかは、横を振り向かないと見ることはできない。周りには何人も人がいて、話し声やドライヤーや鋏の音などが確かに聞こえるのに、この大きな鏡に映るのが自分とその背後にあるものだけ、というのはなんとなく薄気味悪い。余計なものが映り込まないようにしてあるのは当然のことなのだろうけれど。自分はその大鏡の前に固定されたまま、美容師だけがその鏡の中と外を自在に行き来する。
 自分の顔の上、やや後方にある美容師の顔が話しかける。ああ。鏡越しの会話って苦手。気持ち悪い。美容師には私の後頭部も見えているのよねぇ?
「今日はどうなさいますか」
 私としては手入れが簡単で見苦しくなければそれでいいのだけど、一応希望の髪型を伝える。
 いつの時代でも流行の髪型というか、当たり前の髪型というのがあって、それに添わない髪型を注文するのはなかなか難しい。同じセミロングでも、ひと昔(以上?)前なら、ほとんどの場合「かまちんカット」(昔の松田聖子の髪型)にされたし、今ならまず波打つような髪型になってしまう。私の注文の仕方が悪いのかもしれないが、説明しても美容師がやりたいようにしかできないし、面倒なので半ばあきらめている。具体的に写真などを示して注文すれば別なのだろうけれど。
 でも、和服を着るから髪を結い上げてくださいと注文したとき、髪を小分けにして編み始めたのにはびっくりした。編み込みじゃなくて結い上げてくださいと言ったら、髪の長さが足りないのでできません、と言われた。そのとき私の髪は肩を覆う程度の長さだった。別に島田に結ってくれと言ってる訳じゃなし。実際もっと短い髪をきちんと結い上げてもらったことが何度もある。しかしできないものをやれと言っても仕方がないので、しぶしぶ編み込みでアップスタイルにしてもらったのだった。そういえば、近頃は着物を着ている若い女性を見ると、編み込みにしていることが多い。これも流行なのだろうか。結い上げるよりは編み込みにしてしまった方が美容師としては楽なのだろうけれど。
 さて、一応髪型について話し合いがついたとして、しかしまだ決めなければならないことがある。
「パーマは、Aコース6,500円、Bコース7,500円、Cコース8,500円となっておりますが」
 ……。

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