怖い話(2)

怖い話(2)
大森吉美


 お正月早々、怖い話をすると その年中 怖い目にあわないだろうか? と心配しながら、また、はじめてしまいます。

 ところであなたは「霊」って本当にいると思いますか?
 私は幼い頃に、それらしきものを二回見ています。
 一回目は、夏、お盆の頃でした。
 夜中にふっと目がさめると、(その頃の私の実家は狭くて、居間兼寝室から台所が見えたのですが)台所に男の人が立っていました。暗闇なのにどうしてその男の人が見えたかは、今ではよくわからないのですが、その男の人の立っているあたりだけが薄ぼんやりと明るかったのです。私は怖くてお布団をかぶり、それでも、まだ居るだろうか? とおそるおそる布団から首を出したり引っ込めたり、しておりました。そのうちに、また眠ってしまったのですが、朝、一番に、今は亡き母に話しました。
「昨日の夜中、台所に男の人が居て、こーんな風に電気の紐を持ってたっていたよ。あれ、だぁれ?」
 母は、泥棒が入った様子もないし、と私が夢でも見たと思ったのでしょう。
「おやおや、そんな人はいないよ。夢を見たんだね。」と言ったくらいでしたが、私が何回も「夢じゃないよぉ。見たんだもん。ぜんぜん知らない人が立っていたんだってば。」むきになって言うもんですから母はその日の井戸端会議で近所の奥さんたちに、「この子ったら、おかしな夢を見てねぇ・・・」と話し出したのです。
 その話を聞いていたうちのすぐ裏の家の奥さんが真っ青になって、悲鳴をあげたのでした。
「う、、うちにも出たのよ、その幽霊。」
 なんでも、その家もまず子供が目をさまし、台所に立ってカメラを構えている男の人を見たのだそうです。その子供は私とは違って、すぐに隣で寝ている母親を起こしたのだそうです。母親の「泥ぼうっ!」と言う声で目が覚めた、ご主人も、その男を見て「誰だ!」といいながら明かりをつけたそうです。すると、さっきまで三人にカメラを向けていた男が目の前で消えたそうです。
 私の母も井戸端会議の途中で、青くなっていました。
 それから、しばらくして 昔はその辺が松林で、その裏には精神病院があってそこから逃げてきたノイローゼの男の人が何人か続けて自殺した場所だったという話を聞きました。幼心に、あれはやっぱり「幽霊」だったのかなぁと、思ったものでした。

 さて、今までの話は私の体験談ですが、人から聞いた怖い話の続きを、始めましょう。

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「おっかぁは、どこに?」

 ある山深い里に、父親と母親と子供と、三人で住んでいたごく平凡な家族のお話です。
 暮らし向きも普通の農家だし、子供もこれといって特徴のない子でした。田舎であまり人との接触のない山奥で育った子ですから、ちょっと薄ぼんやりとした子であったかもしれませんが。
 その子が五才になったころです。刺激のない生活に嫌気がさしたのか、それとも もともと相性が悪かったのか?酒を飲むと夫婦はケンカばかりするようになりました。
 ある夜のことです。父親はいつもの諍いの果てに、母親をナタで殺してしまいました。殺してから父親も慌てましたが、そこが人里離れた場所であること、しかも、真夜中で子供もぐっすり眠っているのを、いいことに母親をさらにナタで切り刻んで、父親は畑に埋めてしまいました。血みどろになった衣服はかまどに入れて燃してしまいました。
 明くる日は、朝早くから何食わぬ顔で畑しごとに出ましたが男の心配はただひとつ、五つになった子供が、いつ、「おっかぁはどこ?」と言い出すだろうか? ということでした。
 ところが、三日たち七日たち、しても子供は何も申しません。
 とうとう、男は子供に聞きました。
「おまえ、何か、おっとぉに聞きたい、と思ってることはないかい?」
 子供は、父親のほうをぼんやりと見ていいました。
「いーや? 別に、何も聞きたかないや。」
「でも、おまえ、何かあるだろう? 変だなと思っていることとか気になることとか・・・」
 子供は、じーーっと父親を見ていましたがしばらくして、言いました。
「そう言えば、おっとぉ、この間からなんで、おっかぁをずーーっと背負っているのさ?」

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 考えるに、幽霊って子供には近いものなのかもしれません。幼い目で見回すと、大人には見えない不思議なものが、この世には溢れているのでしょう。
 私も、そう言えば最近は、幽霊っていうのを見ませんもの。大人になると、いろんなものを背負い込むから、そして背中に背負っているものは自分では見えないから、なんでしょうか? 怖いですね、あなたも肩のあたりが重くありませんか? それって、知らない間に背負っている霊の類かも。

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