花日記(10)
花日記(10)
大森吉美
9月24日
老いる事は、そう悪いモンでもないと ふと思った。先日から「いのち」って言う言葉に捕らわれだして心の中にうずまくアレコレを文字にできずに、もやもやと過してきたが、今日、ぼんやりと向日葵を眺めていてわき出るように そう思った。向日葵、夏の間、太陽を追いかけて続けて咲き誇っていた彼らが秋になって、その顔を黒くしぼませてうなだれて朽ちてゆく。その姿を見ていて そう思ったのだ。枯れてゆく姿は、みすぼらしく、薄汚い。向日葵、アポロンに恋したギリシア神話のイメージから「届かぬ片恋」という花言葉も持つという。思えば、夏が終わった向日葵は人間が失恋してる姿にも重なるようなみじめな風情がただようばかりの姿だ。そんなに薄汚い枯れゆく花なら、早く抜いてしまえば良いものをと誰だって思いますよね。でもね、でも。その、俯いた顔には無数の黒い種が宿る。力強い生命をたくした子供らが眠っている。寄り添って・・・・・びっちりと。秋が深まり、冬になるころまで、向日葵は支え続けるんだろうな、自分の次の世代を。誰に誇れることでもない、でも、ひそやかに確実に「いのち」を支えている。重く頭を垂れたまま。
それを見ていたら、老いることもいい。なんだか、そう思えた。涙がでるほどそう思えた。
|目次|
前頁(花日記(9))|
次頁(花日記(11))|