花日記(9)

花日記(9)
大森吉美


9月15日

 なんでも九州の方に台風が停滞しているらしい。雨が降る、というから、昨日夕方から水ヤリをしないでいたらこれが全然降らない。今夕、鉢植えを点検に出ると、アゲラタムの鉢がひとつ、見るも無残に枯れていた。犬のオシッコだろうか? それとも、昨日今日と水ヤリをしなかったセイかしらん? 悩んでいるとお向かいさんとお隣さんも出てきた。
「今日も降らへんたねぇ?」
「台風なんて嘘ちゃうか?」
「せやけどニュースでの九州南部はスゴイ水びたしやったで。」
「気の毒やなぁ。」
「台風なんかに停滞されたらたまらんもんなぁ」
「そやけど、雨が降るっていうて降らへんのも、たまらんわ。」
 三人でブチブチ言いながら、それでも手は忙しく、植木の手入れをしている。そう、手八丁口八丁(?)の人物ばかりなのだ。
 水ヤリに一段落すると、また、お互いの庭先の批評やらアドバイスが飛び交う。特に彼女ら二人のターゲットは、私の庭づくり、花壇づくりなのだ。
 お隣りサンが
「よしみサン、ココに絶対、テラスを作りぃな。」
「うーん、そうやね。」(でも・・・お金がぁ・・・)
 すると、お向かいサンが
「いーや、私やったら、コッチにアーチやわ」
「アーチって?」(いったい、いくらくらいの値段のスルもんやろ?)
「ほら、雑誌に載ってるような丸いような、薔薇とか、蔓系の植物をつたわしてある、アレ。キレイでぇ。」
 負けずとお隣りさんが
「ここにテラス作って、その横にトレリスを並べてハンギングするんよ。ソッチが道からも目隠しになって、キレイと思うけど・・」
「トレリスって、一枚、6000円はするよね?」
「そうそ、それをね、四枚はいるわね、ココとココにどーんと・・」
「ドーンとですか?」(ドーンとお金もイルよな・・)
「ハンギングやったら、アーチやってば。一万円くらいでホームセンターに売ってたで。」
「え? 一万円?」(う、それくらいなら、ナントカなりそう。)
 お隣りさんも一万円に心が動いたようだ。テラスの話はほうり出して
「アーチはいいわね? でもこのスペースにどうやって立てるのん?」
「ちょっと掘って、モルタルで根もとを固めると大丈夫よ。」
「モルタル?」(なんじゃ、それはっ?)
「あ、よしみサン、その顔はイヤがってるな? 大丈夫よぉ。簡単だから」
「そうよぉ。セメントと砂と水とちょこっと混ぜればいいのよぉ。」
「・・・・・」
「あ、私のとこにセメントは残ってるから、買うのは砂だけでいいで!」
「・・・・・・・・」
「アーチって、このさいだから、丸いのより鳥居みたいな木製のが変わってていいんとちゃう?」
「・・・・・・・・・・・・・」
「そうやわ、それイイ。」
「いいねぇ。絶対にいいわ!」
 黙り込む私を置いてきぼりにしてすっかり、我が家のアーチの相談はまとまり、近々ホームセンターに三人で出向くことになるのである。
(大蔵省は、私なんでアル。う、涙、嬉しいような悲しいような)

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