きょ年の服では恋もできない

きょ年の服では恋もできない
阿ト理恵


 テーブルの上で踊る若い女。「きょ年の服では恋もできない」バーバリーのTVCMだ。うさぎを撫でていた手が固まってしまった。深いため息とともに。結婚10年、35歳、女、去年の服どころか5年前の服を着ている。いいえ、問題はそういうことではないのヨ。「恋もできない」の〈も〉なのだ。恋も○○も○○も○○もできない!? あれもこれもそれも。押し寄せる〈も〉の大群。すもももももももものうち、の〈も〉とはわけが違う。ダメ押しに「できない」がくっつくのだから、してやられたりバーバリー。「○○はできない」の複数は怖い。膝を抱えてしまうではないか。洋梨(用無)食べて酔う蟻になっている場合ではない。〈も〉にポジティヴな動詞をくっつけなくっちゃ。〈は〉と〈も〉では、さらには、くっつく動詞の方向性でこんなにも明らかに違うなんて。〈は〉と〈も〉はあなどれない。てつがくのライオンが昼寝している暇はないのだ。わたしは、バーバリーの服〈は〉着ない。新しい服〈も〉買わない。去年の服で恋〈も〉できる。恋する相手は人とは限らない。わたしは5年前の服で詩に恋している。

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