ポエジィな機械たち2 機関車

ポエジィな機械たち2 機関車
片野晃司


 前回はオーバードライブの冷却ファンの音がなかなかポエジィであるという話であった(という結論だったはずだがどうも書き損ねたらしい)。今回は身近な機械とは言えないが、蒸気機関車もなかなかポエジィであるというこれはやや凡庸な話をしてしまおう。
 蒸気機関車と言って想起させられるイメージ....銀河鉄道999、銀河鉄道の夜、そのほか蒸気機関車の登場する数多くの文芸作品、それらに描かれた黒い巨体、吹き出す蒸気、熱、音。
 しかして、僕自身、蒸気機関車が走行しているところを実際に見たことがある訳ではない。いや、ずっと昔、小さな頃に見たかもしれないが覚えていない。映像やテキストであたかも見たような気がしているだけかもしれない。

 スピードと言えば新幹線だろう。時速300キロを越える最高速度、新型が現れるにつれ鋭利に突き出される先端部。あまりの高速に、トンネルを脱出する瞬間大砲を撃ったかのような爆発音がするそうだ。
 だが、イメージとしてはどうか。
 昔、子供の頃に読んだ本に未来の機関車として載っていたのは原子力で動く蒸気機関車だった(実現したら恐ろしいことだが)。おそらくは僕の生まれる前の版だろう。しかしそれも明らかに蒸気機関車なのだ。なぜならそこには熱があり、焼けた鉄があり、重い動輪があり、蒸気と共に吹き上げる警笛があり、地響きを立てて驀進する迫力があった。
 たとえば婦人服バーゲンの会場に詰め掛ける人々は新幹線のようには駆けつけない。たとえば、ラグビーの選手はラグビーボールに向かって新幹線のようには突進しない。いのししは、サイは、象は、亀は(いや、亀はちがうな)どれも「機関車のように」目標に向かって驀進するのだ。力強さの象徴だ。新幹線はただ「シュー」と走っていくだけだ。機関車はその「ガッシュガッシュ」という音一つ一つが「現在」にピッケルを立て「未来」を力ずくで引き寄せる
のだ。
 100年後の詩人たちは蒸気機関車を想像できるだろうか。力強さの象徴は何にたとえるだろうか。その頃は「銀河鉄道999」を見ても、何の乗り物をモデルにしたのか分からないようになっているのだろうな、おそらく。

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