ポエジィな機械たち1 パソコン

ポエジィな機械たち1 パソコン
片野晃司


 僕は男女間の感性の違いというものをあまり意識しない人間であるが、機械に魅力を感じることでは男性にその傾向が多いようにおもう。もちろん女性にも高速で駆け抜けるF1マシンにたまらない魅力を感じる人もいるし、男性にも「機械はまったくダメ」と、機械を受け付けない人はいる。
 最近はテレビアニメの戦闘ものが人気を集めていることもあり、戦闘する機械に「カッコイイ」と魅力を感じる人が増えているのではないだろうか。(このことが好戦的な人間を増やしている、とか、戦争の悲惨さから目を逸らさせている、などの議論はするつもりはない)

 さて、これから連載の形で僕の身の回りにある魅力的な機械たちを詩的な空想も交えながら描写していくつもりである。初回はまず僕の目の前のパソコンから話を始めようとおもう。

 現在僕が使っているのは、コンパックのPROLINEA5100、スペックは現在ではやや時代遅れのペンティアム100Mhz、ハードディスク2G、メモリ40Mbである。話はこのマシンのことではなく、それ以前に使っていた、コンパックのプレサリオの話である。
 去年まで使っていたこのマシンのスペックは、インテルの486DX/2、66Mhz、ハードディスクは600M、メモリは16Mであった。はじめはWIN3.1でまあまあ普通に使っていたのであったが、やがてWINDOWS95をインストールしてからそのスペックの不足を折りに付け思い知るようになった。文字の変換にしてからが遅いのである。WINDOWS95の重さに耐え兼ねWIN3.1に戻してみると、一度便利な操作に慣れた僕は3.1にはもう戻れないことを知った。おそるべしマイクロソフト。
 ある日、妻が会社から「これ、余ってたから使ってみる?」と鞄から取り出したものを見ると、それはインテルのオーバードライブであった。今まで付いていたCPUには単に多数の突起の付いた冷却襞が石に乗っているだけであったが、妻の手の上にあるそれは、小さな冷却ファンがおもちゃのように乗っているのであった。
 さっそく取り付けてみると、しかしそれは効果を認められるほどの変化はなく、やはり処理は遅いのであったが、気に入ったのはその作動音である。パソコンの電源を入れると筐体の後部にある冷却ファンが「すぉ〜」と低い音を立て始めるのは変らないが、それとは別にオーバードライブの小さな冷却ファンが立てる「キィーン」という、それはまるでジェットエンジンを抱えた戦闘機が舞い上がろうとする音を思わせるそれが僕の耳を惹きつけた。
 処理としては全く遅いのであるが、にもかかわらず僕の指先は金属音を追いながら打ち込む詩までもスピード感を増して僕はモニターを突き抜けていたのであった。
 現在のペンティアムマシンは速度こそは以前の比ではないものの、あの「キィーン」という金属音はない。CPUの冷却ファンは部品として売っているらしいと知って、僕はあの快感を得るために、つまりはあの音を聞きたいが為に、特に必要でもない冷却ファンを買おうか、と真剣に考えている。

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