MINAKO「X'mas Party'2004」
Report vol.4





あるアパートの室内で、ミナコが小銭を数えていた。
372円、373円、374円。あー、これが最後の一円玉だ。ご破算では375円。何度数えても375円だけ。
375円、それだけだ。しかもそのうちの半分は一円玉硬貨である。それだって、乾物屋や八百屋や肉屋で、
おっちゃん、これいくら?勉強してよ!なに?おっちゃん、なにさ、算数のドリルとかやってんねん。その勉強じゃなくて、関西弁で安くしてっていうこっちゃ。
いつもこんな風に、買い物をするたびに、しみったれた、ケチ臭さを信条としてちょっとの恥じらいを持って、1枚そして2枚とコツコツと貯めた硬貨なのです。
ミナコはそれを3度数えなおした
375円、375円、375円。
最後は、悲鳴ともつかぬ叫び声になった。
さんびゃくななじゅうごえん〜!!
明日はクリスマスだと言うのに。

ギターは、短調のジングルベルを弾いている。

ミナコはみすぼらしい、小さなベッドに身を投げて、わぁわぁ泣くよりほかどうしようもなかった。そうこうしているうち、ミナコは…
うぅ、うぅ。
むせび泣きと…、
あぁ、あぁ。
すすり泣きと…、
スッ、スッ。ニタッ
微笑みのつもりだ。成り立っていた。わけてもすすり泣くということが、一番多いということがわかってきた。ミナコは気持ちがだんだんと落ち着いてくると、なにかないかと部屋じゅうを見回した。そこは何度見ても、狭いだけの、月2万5千円、風呂なしのアパートでしかなかった。

ここで、生演奏は、フォーク調に。

ところで、ムラニシケンジ、ミナコ夫婦には、宝物が二つあった。ひとつは先祖代々続いている商売、洗濯屋のアイロンである。もうひとつはミナコの自慢の美しく輝く髪の毛だ。

ここで、シャラシャラシャラと効果音

ミナコは茶色のジャケットを着、古びた茶色の帽子をかぶり、ドアの外へと飛び出して、通りへ出た。

効果音 タッカタッカタッカ…

蝶々夫人、カツラ類一式」と看板が出ているところで、ミナコは足を止めた。女主人は大柄で、どう見ても、蝶々夫人というより、トド夫人という方がふさわしい感じでした。

あのー、私の髪の毛、買っていただけますか?
とミナコは言った。女主人は、いきなりの営業スマイルで、
ええ、ええ。買いますとも。では、帽子をとって、ちょっと見せてごらん。
と、女主人がミナコの茶色い帽子をそっとはずすと

シャラシャラシャラと効果音

褐色の滝がさざ波をたてて流れ落ちた。女主人は
ほぉぅー。
小さくため息とも感嘆ともない声をあげて、そして
えーっと、ちょうど一万円ですね。
慣れた手つきで髪の房を持ち上げて、女主人は言った。 ミナコは、顔をばら色に染めて
すいません。早くお金ください。
と、ミナコは小さく消え入りそうに言った。でも、その店を出た瞬間思わずスキップをして、贈り物を捜し歩いた。

効果音、タッカタッカタッカ…

家へ着くとあわててホットカーラーを取り出し、ミナコ自身の宝物の修理を始めた。

効果音、ギーギーギー

ミナコの頭はかわいい巻き毛になった。鏡に映った自分の姿を念入りに眺めた。
ケンジ
ミナコはひとり言を言った。
私を見て、怒らないと思うけど。仕方ないわ。だって、そうでしょ?たったの375円で何ができるって言うの?できるんだったら、教えてちょうだい。

やがてアパートの階段を上がってくるケンジの足音が聞こえた。
効果音、カツカツカツ

瞬間、ミナコの顔が血の気を失った。
オー、ジーザス。私が今でもきれいだとケンジに思わせてください。
そして、安普請の鉄にドアが不気味な悲鳴を上げた。

効果音 ギーーィッ

ドアがゆっくりと開いた。そして、ケンジが入ってきた。今日はなんだかひどくやつれている。ケンジは立ち止まると、ピタリと動かなくなった。ケンジの目はミナコに注がれたままだった。ケンジは複雑な表情を浮かべて、ミナコはケンジに近づいて叫んだ。
ケンジ!そんな目で私を見ないで。だって、贈り物のないクリスマスなんて、とっても耐えられなかったの。ねぇ、ねぇ、かまわないでしょ?ほかに方法がある?私の髪はすぐ伸びるわ。ねぇ、"ハッピークリスマス!”と言ってよ!そして、今日を楽しみましょう。ケンジはどんなに美しい贈り物を買ったか、知らないでしょ?知ってたら、そんな顔していられないわよ。
と、ミナコが言うとケンジは、たった一言。
つまり、髪を切っちゃったんだね。
ケンジがない頭で一生懸命考えても、事実がのみこめないらしく、やっとそれだけ言った。すると、ミナコは
切って売っちゃった。さっぱりしたわ。髪を切っても、今までどおり、私の事愛してるって言ってくれるわよね。髪の毛がなくても(かんじゃった)、やっぱりミナコはミナコよね。そうでしょ?
ケンジは複雑な笑顔で部屋を見回して
君のすばらしい髪の毛は無くなっちゃったんだね。キューティクルと一緒に。

ふぬけになって、ケンジは言った。
家中探してもないわよ。
ミナコは冷たく言った。
ねぇ、わかんないの?売っちゃったの。それと引き換えにお金をもらったの。ねぇ、考えてよ。今夜クリスマスイブよ。だから優しくしてよ。私は大丈夫だって。私の髪の毛は不幸にもオツムの薄い人の頭に乗って、自信と勇気を与えていると思うわ。
ふいに、とても甘い声になってミナコは続けた。
でも、あなたに対する愛情は、誰も理解できないことだわ。さぁ、ケンジ。ポークチョップ(また、カミカミ)が焼ける頃だわ。行きましょうか?
ケンジはとたんに我に返った。そしてケンジはジャケットのポケットから、小さな包みを取り出してテーブルの上へ放り出した。
ミナコ。勘違いをしないでくれ。髪の毛を切ったくらいで僕の愛がさめたりすると思うかい?それよりその包みを開けてごらん。なぜ僕がとまどったのか分かるさ。
ミナコの白い指は手早く紐や紙を引きちぎった。

包みを開けるミナコに(笑)

それから思わず我を忘れたような、喜びの雄たけびが巻き起こった。
わぁあ。
そして次の瞬間には涙と号泣に一変した。
きゃぁ、わぁー、、うー。
ケンジはどうしていいかわからなかった。その贈り物は、ミナコが憧れていた、かんざしだった。ふちに宝石をちりばめたべっ甲製のかんざしだ。しかし、このかんざしを飾るべき髪がもうない。彼女はかんざしを胸に抱きしめ、潤んだ目を向けて微笑んだ。
ケンジ、私の髪はとっても早く伸びるのよ。
ミナコは体中に電流が走ったかのように飛び上がって叫んだ。
そうよ、そうだわ。ケンジ、私のとっても素敵な贈り物を見て。
そう、ケンジはまだ、ミナコの髪と引き換えにした贈り物を見ていなかった。ミナコは贈り物を彼に渡した。ケンジは慎重にりぼんと包装紙をはずした。
それは、手のひらに収まる、鈍い金属の光がキラリ!
どう?どうなのよ、素敵でしょ?町中探して見つけたのよ。これからは毎日でも見て触りたくなるわ。ねぇ、とってもきれいでしょう?
ケンジは戸惑いを隠さず
う、う、う、うん。
なんともあいまいな返事しかできなかった。それに気付いたミナコは
えっ?何?気に入らなかった?
ケンジは苦渋に満ちた表情で
(なまり)おめぇ、なんで俺がラッパ吹くと思ったの

(会場爆笑)

ミナコは一瞬あぜんとしたが、はっと気付き慌てた。
何を言ってらっしゃるか、わかりませんわ。でもそんなことより、私の選んだ贈り物は気に入りませんか、って聞いたんですけど。でも、ピカピカしていてとてもセクシーな形がドキドキしない?
何かに慌てて話題を変えるが、すかさずケンジは
(なまり)でもね、ボグはね、ボグの大事なアイロンを質に入れて、そしてかんざしさ、買ったんだ。

怒ったように、ケンジが言うと売り言葉に買い言葉で
なに〜。商売道具のアイロンを質屋に入れただと!このボケナスが。何を考えとるんじゃ!われはあほか。アイロンなしでどうやって洗濯屋やるんじゃ。いっぺんす巻きにして道頓堀にしずめたろか!(笑)
言っておきますが、これは東京を舞台にしておりますので、いきなり大阪の話をしていただいてもねー。
なーに、横でゴチャゴチャいうとんじゃ!
そういう話は、別の場所でしてくれません?話が全然進まなくて困るんですけど。

そうだよ、この人の言うとおりだよ。ハナスを前に戻すと、オラはご存知のようにギターは弾くけど、オラはラッパは吹いたことはない。ただしラッパ吹きとはたまには一緒になるわな。

(会場爆笑)

あーあー、やだやだやだ。ほんとあんた男のくせに昔話を掘り返して、楽しいの?しつこいってんだよ。
そうなんです。ミナコは以前ラッパ吹きと暮らしていたのです。
(なまり)おー、言ってくれるさぁ。じゃあなんで、ギターしか弾かないオラにさ、ラッパ用のピカピカしていて、とってもセクシーな形にドキドキしなくちゃないの。なんで大事な大事な髪を切ってまで買ってるんですかって、聞いてるんだべ。

(会場爆笑)

そ、それはね、今日は1年に1度の神聖な、西洋の神様のお生まれになった日なのよ。素敵だと思わない? それになんか、きょうはいい天気だわ。えーと、そんなわけで寒さもますます深まった今日この頃いかがお過ごしですか?あ、そうそう、私のショートヘアもよいとおもわなくって?んふっ。
やれやれ、こうやって世の男性方は女性の方々にうまくまるめこまれるのでR。
なんか言った?
いえいえ。本当に私たち男性陣は弱い。
なんだって?
いや。(咳払い)
ミナコ、僕たちのクリスマスプレゼントはしまっておく事にしよう。オラたちには、(標準語にもどって)僕たちには上等すぎるし、今使うには早すぎるよ。さあさ、僕は。腹ペコさ。ポークチョップは焼いてくれないか。

再び「星に願いを」

ところで一番大事な宝物は互いに犠牲にした、愚かな
誰のこと?
(咳払い)なんの変哲もないお話を申し上げたわけでR。だが最後に一言、賢明な皆様に言っておきたい。贈り物をあげたりもらったりする場合は、誰も怪しまないものを贈りましょう。それがもっとも賢明なのでR。どこにいようとも、なんといっても、必ず嘘はばれてしまうものですから。Fin。

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