【 あ行 】


 愛する者よ、列車に乗れ  ★★★☆
【1998年 : フランス】
 監督:パトリス・シェロー
 出演:ジャン・ルイ・トランティニャン(ジャン・バチスト&
    ルシアン)、パスカル・グレゴリー(フランソワ)、
    ブリュノ・トデスキーニ(ルイ)、
    シルヴァン・ジャック(ブリュノ)、
    シャルル・ベルラン(ジャン・マリ)、
    ヴァンサン・ペレーズ(ヴィヴィアンヌ)  他


【現在VHS発売のみ】

亡き画家の遺言に従って集まった人々が過ごす二日間を、優しいまなざしで描いた一編。
強烈なカリスマ性と魅力で多くの人間を虜にしたバイセクシャルの画家、ジャン=バティスト・エムリックがこの世を去った。彼の遺言は“私を愛する者は(リモージュ行の)列車に乗れ”。
生前彼を愛し、また愛された人々が同じ列車で葬儀へと向かうが、複雑な人間関係やエイズ、ドラッグなどが絡んだ彼らの事情は一筋縄ではいかず、やがて小さな諍いをいくつも招く。残された人々が共に過ごす時間の中で、やがて見えてきたものは…。

フランス映画はむずかしい。この作品も登場人物多すぎで、人間把握するのがまず大変。
ビデオパッケージの裏面に相関図が出ていますが、それでもかなりわかりにくいです。
一応整理しておきますと、中心にいるのはジャン=バチストという老齢の画家兼美術教師。この人がお亡くなりになりまして、彼の遺言に従い、生前親しかった人たちがぞろぞろと集まってきます。
まずはジャン=バチストの甥ジャン=マリ。と、その奥さん。と、娘。ジャン=バチストの双子の弟。
ジャン=バチストの元恋人、フランソワ(♀)。フランソワの現在の恋人、ルイ(♀)。
ジャン=バチストの最後の恋人、ブリュノ(♀)。以下略。(まだまだいっぱいいる。)
君らの恋人は男ばっかしかい!・・・という感想はさておき、このうちのルイという男が実は三年前に偶然見かけた時からブリュノ青年に一目惚れをしており、事情を知らぬまま列車に乗り合わせたことで二人に恋が芽生えてしまうわけですね。複雑なのはルイの現恋人のフランソワ。なぜならブリュノはかつてフランソワの恋人でもあったからです。ややこしー!

しかし何度か見て筋が理解できると、その人間関係こそが面白いのですよ。父に愛されなかった息子、夫の愛に失望している妻。女に生まれたかった男、恋人を失いかけている男、新しい恋に踏み出せずにいる男。
ダメな人には全然ダメな感じの淡々とした雰囲気だし、 誰を主眼に置いて見るかで印象はかなり変わると思うけど、やっぱりルイとブリュノのカップルに目が行くのは仕方のないことであります。子どもっぽい青年ブリュノと、彼に振り回されて傷つくルイのやり取りがいかにもフランス流なんだな。遠回しとすれ違いとなんだか意味のはっきりしない会話の繰り返し。でも彼らにとっては少し希望の見えるラストだったのがよかった。フランソワのせつなさが気がかりではあるけど、まあ仏映画にしては心優しい方ではないでしょうか。
静かに流れるビョークの音楽も印象深くて、なんとなく繰り返し見てしまう不思議な作品です。
そうそう、何はともあれあのヴァンサン・ペレーズにはとりあえずブッ飛ぶと思うな。(笑)



 愛と野望のナイル  ★★★☆
【1989年 : アメリカ】
 監督:ボブ・ラフェルソン/音楽:マイケル・スモール
 出演:パトリック・バーギン(リチャード・バートン)、
    イエイン・グレン(ジョン・スピーク)、
    フィオナ・ショウ(イザベル)、
    リチャード・E・グラント(ローレンス・オリファント)、
    ピーター・ヴォーン(ヒューストン卿)  他


【現在VHS発売のみ】

ナイル川の源流を求めて旅をした探険史上に名高い2人のイギリス人、リチャード・バートンとジョン・スピークの冒険と愛憎を描くアドベンチャー・ドラマ。
19世紀。ビクトリア朝大英帝国は植民地開拓時代を迎え、領土拡大の野心に燃えていた。中でもアフリカ最深部ナイル川の源流発見には莫大な懸賞がかけられている。そこは多くの探検家が踏み込んでは命を落とした神秘の土地。1854年、ザンビアで出会った二人の探検家リチャード・バートン(パトリック・バーギン)とジョン・スピーク(イェーン・グレン)は、そんなナイル探検の中で結束と友情を深めていった。
そして1858年。二人は隊を率い、再度旅に出る。それはアフリカ大陸路4700キロに及ぶ大探険行、ビクトリア湖発見に繋がる苛酷な旅の始まりであった・・・。

いやー、探検家ってつくづく大変なんだねー・・・。
疫病や怪我や飢えや悪辣な気候。なんといってもあの、寝てる隙に耳に甲虫が入ったシーンは背筋が凍りました。だって虫は暗いとこに入ったら穴掘るもんじゃん・・・・うう、イタタ・・・。
エエトコの子なのでちょっとお坊ちゃん、そして迷信の類は全く信用しない現実主義者のジョン・スピークと、探検隊のリーダーであり土着の民の風習に自分から飛び込んでいくワイルドなリチャード・バートン。
この二人がナイルの源流を求め、アフリカの大地をまさに命がけで進んでいく様をシビアに描写しています。
いやいやホント、探検家の苦労って凄いな。そして探検そのものも大変だけど、帰国後にそれらの成果が誰の手柄かっていうことを決めるのも大変。研究者としては持論を証明したり、新しい発見によって富を得ることも重要な目的なわけですから。
旅の途中ではあんなにお互いを想い、支え合った二人ですが、いざ故郷に戻ってみると周囲の人間の思惑に翻弄されてしまいます。特にスピークの方は根が純粋というか単純というか、そこにつけこむ友人がちょっと悪いヤツだったもんですから、まんまと騙され、深い後悔に傷つくことに。
最後はなんかかわいそうだった。何でそういう手段しか選べなかったのかな。きっとバートンにとっても、一生残る傷になってしまったことでしょう。
撮影の規模からいうと結構な大作だったわりに、イマイチ評価は盛り上がらなかったらしい惜しい作品。
悪くはないんだけど、何かが足りなかったんだろうね。でも個人的には結構楽しめました。ああいう探検家の苦労があってこそ、現代人は色々な知識を得ることができたのですな。感謝感謝。



 悪霊喰  ★★★☆
【2003年 : アメリカ・ドイツ】
 監督:ブライアン・ヘルゲランド/音楽:デヴィッド・トーン
 出演:ヒース・レジャー(アレックス)、
    シャニン・ソサモン(マーラ)、
    ベンノ・フユルマン(イーデン)、
    マーク・アディ(トーマス)  他

恩師の謎の死に不審を抱いて解明に乗り出した若き司祭が“罪食い”なる異端の存在に行き着き、やがてその魔の手に追い詰められていくさまを描くゴシック・ホラー。
ニューヨークの若き司祭アレックス(ヒース・レジャー)は、 恩師であり 父親がわりでもあったドミニクがローマで急死したとの知らせを受け、 ローマへ飛んだ。そこで彼が見たものは、 かつてキリストが用いたとされるアラム文字。ドミニクがなにかの儀式を行っていたと直感したアレックスがその遺体を調べると、 そこにも謎めいた印が残っていた。
アレックスは独自の調査を進め、やがて"罪食い"と呼ばれる謎の存在に行き着く。"罪食い"とは、教会から破門され救いを失った人々や罪人でさえも天国に導くため、身代わりとなってその者の罪を食う古き伝説の使徒で、不老不死の命を持つという。そして彼はついに事件の鍵を握る男、イーデンに遭遇するだったのだが…。

脚本・監督共に「ロック・ユー!」に続く二作目となるヘルゲランド氏の作品。本来はこちらの企画が先にあったというだけあって、びっくりするほど前作とキャストかぶってます。監督はキャラの出会い方だとかキーワードだとか、あそこもここも「ロック・ユー!」と共通だ!と煩いくらいコメントしてました。そんなに好きか自分の作品。
またその「ロック・ユー!」で一緒にDVDコメンタリーを吹き込んだほど仲良しの友人ポール・ベタニーにも未練たっぷりらしく(本作でも交渉はしたらしいが出演は実現しなかった)、今回は一人きりのオーディオ・コメンタリーなのにその場にいもしないポールの話をしていた彼。さびしんぼさんなのかしら・・・??
さて、この作品はこれまた宣伝の仕方を大いに失敗したなあという感を否めません。犯人はまたしても日本の配給会社か?「あまりの恐ろしさと製作中に頻発した不可解な事故のため、全米で5回も公開延期になった」とかいう触れ込みで、相当おっかないオカルト・ホラーであるかのような宣伝をしつこく打ってましたね。
しかし実際は軽いゴシック・ホラーの範囲を出ることなく、私のようなホラー嫌いにすらちっとも怖くありませんでした。オカルトを期待して見た人にはさぞがっかりだったことでしょう。
しかし、本作のテーマである「教会から縁を絶たれた信者が死の間際に救いを求める“罪喰い”」というネタは個人的に非情に興味深かったです。中世ヨーロッパに実在したっていうのがなおさら面白い。舞台に教会を多用した画面のつくりも綺麗だったし、音楽もなかなかよかった。ただ、せっかくのネタがアメコミっぽい簡易的な収束に終わったことが惜しまれます。なんかもうちょっと、一捻りできそうな感じだったのになあ。
ヘルゲランド氏は「L.Aコンフィデンシャル」や「クリムゾン・リバー」等で非常に高い評価を受けている脚本家でもあります。そんな彼がメガホンを取ったとたん、時代物だのホラーだの、一気に趣味に走るとこが正直といえば正直。イマイチ成果は上がらないようですが・・・まあ脚本で稼いだゼニを趣味に使うってのも本人にとっては楽しいかもね。



 アタック・ナンバーハーフ  ★★★☆
【2000年 : タイ】
 監督:ヨンユット・トンコントーン
 出演:チャイチャーン・ニムプーンサワット、
    サハーパープ・ウィラーカーミン 、
    ジェッダーポーン・ポンディー 他

     ※写真は1&2のBOXセットです。→

オカマが5人とストレートが1人、オナベの監督という面々でバレボール県大会を勝ち進んでいった男子チームの実話を描いたスポコン(?)作品。

アジア映画は滅多に見ない私ですが、思ったより楽しめました。欲を言えばもうちょっと迫力あるバレーボールのシーンを増やして欲しかったナ・・・。でもまあその分、選手たちの関係やそれぞれのドラマ性に重点が置かれたつくりになっていたようです。「オカマに対する人権問題」はその道の先進国タイでもまだまだ大変なんですねえ。
映画のモデルになった実物たちはエンディングのスタッフロールのあたりに紹介されてまして、これまたソックリ。映画のキャラクタは外見からしてずいぶん忠実に再現してました。
ただし、試合の迫力は断然本物が上です。ドカッとアタックを決めた後、「きゃーッ」「イヤーンッ」てな具合になよめくオトメたち。さすがです。 敵はまずそこで怯む。
2004年には続編も公開しましたが、フィクションの度合いは本作よりもさらに高まっているとのこと。 開き直りと突き抜け感が愉快なエンターテイメント映画です。



 アナザー・カントリー  ★★★☆
【1984年 : イギリス】
 監督:マイケル・ストーレイ/音楽:マイケル・ストーン
 出演:ルパート・エヴェレット(ガイ)、
    コリン・ファース(ジャド)、
    ケアリー・エルウィズ(ハーコート)、
    マイケル・ジェン(バークレイ)  他

あるひとりの亡命スパイが過去を回想する形で語る、1930年代の英国パブリック・スクールでの寮生たちとその日々を描いた作品。
上流階級の選ばれた者しか入学できない格式高い全寮制スクールにおいて、今で言う生徒会のような役割を担う自治会「God」。その代表に選ばれればその後の人生でもエリートコースが約束されるこの学舎で、人望もあり自由闊達、ゆくゆくはエリートメンバーの仲間入りを約束されていたはずの主人公ガイ・ベネットは、ある日別寮の美しい男子学生、ハーコートに恋をしてしまい・・・。

主人公のガイはかつて実在したスパイ、ガイ・バージェスをモデルにしたと言われているだけに、なるほどねーというか、やるせない時代ですわねえとしみじみ感じ入ることでございました。学生とはいえ、自治会の権力闘争はまんま小さな政界という感じで非常にシビア。
迫りくる戦争の足音や共産主義思想を背景に、パブリック・スクールの一種封建的な掟や慣習が丁寧に描かれていて、この時代がお好きな方には興味深いかもしれません。
元々は有名な舞台作品で、ダニエル・デイ=ルイスをはじめ今やハリウッドでもお馴染みの英国俳優たちがガイを演じてきたようです。ルパート・エヴェレットやコリン・ファースも舞台からの出演者。
それにしても若き日のコリン・ファースはいい男だな。いかにもイギリス然とした頑固そうな感じは今とそう変わりません。ルパート・エヴェレットもね、ちょっと顔長いですが男前ですよ。そうでなきゃこういう作品は格好つきませんて。
美しい骨董品のような古き英国の空気を纏いつつ、お揃いの制服でさざめきあう学舎の若者たち。
ええ、目の保養でした。どうもありがとう。



  アメリ  ★★★★
【2001年 : フランス】
 監督:ジャン・ピエール・ジュネ/音楽:ヤン・ティルセン
 出演: オドレイ・トトゥ(アメリ)、
     マチュー・カソヴィッツ(ニノ) 他

子どもの頃から空想の世界で遊ぶのが好きだったアメリが、やがてちょっと風変わりな青年ニノに出会って恋をするうち、少しずつ現実の世界へと心を開いていくまでの物語。

アメリの悪戯はよく考えなくても犯罪スレスレです。てか多分もう犯罪。
でもあのキュートさに騙されて、見てる方もつい許してしまうのですよ。それはある意味おそろしいよな。
思い込みの激しいお節介を次々と焼き続ける彼女は、本当は世界のみんなが幸せであるように、できればその中に自分も入っていけますように、と切実に祈っているようにも感じられます。適度に混ざり合うファンタジーな描写は、まんまアメリの心の世界といった様子。
ちょっと変わり者だけど心優しいニノを演じているマチュー・カソヴィッツ、アメリにお似合いのなかなか可愛らしい好青年に見えますね。「クリムゾン・リバー」や「ゴシカ」等のおっかない系映画の監督としてもお馴染みの彼、多才でございます。
ジャケットからしてそうですが、部屋の内装や人物の服にまで緑と赤という反対色を多用することで画面そのものに独特の色彩と世界観を作り出してます。ちょっとした小道具や音楽、台詞回しといった演出がそれぞれ丁寧でオシャレ。見終わったあと、なんだかほんわかする映画です。



 アバウト・ア・ボーイ  ★★★☆
【2002年 : アメリカ】
 監督:ポール・ウェイツ、クレス・ウェイツ
 音楽:デーモン・ゴフ
 出演:ヒュー・グラント(ウィル)、
    ニコラス・ホルト(マーカス) 他

父の遺産でのんびり気ままに暮らしていた独身男性が、悩み多き少年やその周囲の人々と出会うことで他者へ心を開くことの意味を知り、自分の生き方を見つめ直していくハートフルドラマ。

コミカルで頼りなく、そのくせどこか憎めない小洒落た男が、まるで少年と一緒に成長していくかのように少しづつ変わっていく姿が好印象です。子役のニコラス・ホルトも上手い。向こうの子はやっぱ芸達者だね。
ヒュー・グラント演じる優雅なダメ男ははまりすぎるほどはまっています。こういう、一見いけてるけど中身はダメダメという男の役がさらに増えているらしい彼。いいことです。
そこはかとない笑いをちりばめつつも、マーカス少年が抱えている悩みは結構深刻で深い。ラブコメではなく、あくまでヒューマンドラマを目指してる作品なんだろうなあ。
男版「ブリジット・ジョーンズの日記」なんて言われてますが、独身を謳歌する者としてはウィルのお気楽な生活に「そうなんだよねえ・・・」とこっそり頷いてみたり。