6CW5 島田式cspp試作機 T






  前章までにマッキントッシュタイプとCI

 RCLOTRON方式のCSPPアンプを組

 んで来たのですが、もう一つ、同じCSPP

 方式に島田式というのがあります。この方式

 は名前からも分かるように日本人が考案した

 回路で、さらに複雑な電源や特殊なOPTを

 必要としない方式です。それなのに製作例が

 無いようなので、どのような特性になるのか

 試作機を組んで見る事にしました。

 島田式CSPP回路というのは以下のような回路で、出力段を見るとプレートから反対側のカソードに

タスキ掛けにコンデンサーが渡されていて、CIRCLOTRONの場合の上下独立電源の代わりに、こ

のコンデンサーを擬似的な電源として単電源でCSPP動作をさせようという回路です。

 このような回路を組む場合に前提条件となるのは「RL<RK」か、せめて「RL=RK」となるよう

な出力管を選ぶ必要があるという事です。カソード側の負荷がプレート側より同一以上でなければ、交流

的に並列接続された実際の負荷インピーダンスが大きく低下してしまって、効率がさらに悪くなってしま

うからです。


 島田先生の元回路では水平出力管を使っていましたが、前章で使った6CW5でもこの条件をクリアす

るのではないかとロードラインを引いて見たところ、何とか行けそうなので、まずは「RL=RK=90

0Ω」で試して見たのですが、これはRKによる出力ロスが大きいようなので「RL=RK=600Ω」

として組んで見ました。

 そのときの回路は以下のようになりました。




 前段の回路は前章のcirclotronアンプとほぼ同じで、ただ負電源だけ簡略化してドライブ段

のカソードは普通に接地としています。またOPTはcirclotron試作機に使った900Ωのが

あるので、2次側に5.3Ω(8Ω+15Ω並列)として1次側590Ωとして使っています。一方、擬

似電源となるケミコンは手持ちの関係で330μFとしましたが、本当はもっと大容量の方が低域特性が

良くなるようで、ラジオ技術誌2005/6月号で黒田徹先生がシミュレートした回路では470μFと

していました。ちなみにオリジナルは僅かに40μFでしたが、これは時代を考えると致仕方ない数値で

当時としてはそれでも精一杯の容量だったのだと思います。この方式のCSPP回路が考案されたのは、

それほど古い時代の話だった訳で、世界で一番初めにCSPP回路を考案したは、島田先生だったのでは

ないかという説もある程です。

 それはともかく、本機出力段の電圧電流関係を表に纏めてみました。

動作状態   無信号時  クリップ(7W/5.3Ω)時クリップ(7W/8Ω)時
カソード電圧 27V52V49V
カソード電流 46mA88mA83mA
プレート電圧 268V242V247V
差引きPK電圧 241V190V198V
差引き電力 11W16.7W16.4W
プレート損失 11W11.3W11W

 当初「差引き電力=プレート損失」と勘違いしていて、K先輩よりご指摘を頂き、出力として出て行く

電力とSG電流を考慮に入れると、クリップ時でも6CW5のプレート損失12W以内に収まっているよ

うです。ただカソード抵抗は割と大きな容量の抵抗が必要となるようで、また「クリップ(7W/8Ω)

時」というのは後ほど説明します。

 という事で一通りの特性が採れましたので以下にレポートします。


諸 特 性


 カソードに大きな抵抗が入って

いるので、最大出力が制限される

のは予想していたのですが、何と

かノンクリップ出力7Wを得る事

が出来ました。

 またそのクリップポイント付近

で歪率の上昇が鈍り、それを超え

ると一転して急上昇しているのが

目を引きます。


無歪出力7.0W THD6.4%1kHz

NFB  9.5dB

DF=8 on-off法1kHz 1V

利得 24.2dB(16.3倍) 1kHz

残留ノイズ 0.15mV



 上記のグラフの2Wから5Wにかけて歪率が上昇しているのは、クロスオーバー歪が発生しているのが

原因のようで、その出力近辺の正弦波形でもクリップする前からクロスオーバー歪が見られ、クリップポ

イントの7Wでは、はっきりとした段差が観測されます。この歪の改善には擬似電源用のケミコン容量を

増やすのが有効なようで、先の黒田先生のシミュレーションでもこの容量を増やす事により歪が下がった

と書かれています。(ただ黒田先生は、この歪をクロスオーバー歪と言ったり、ノッチング歪と言ったり

して一貫性がないのです。あるいは別々の歪の事を指しているのか?イマイチよく分かりません。)

 このクロスオーバー歪についてS先輩からご指摘を頂き、島田式ではRKとRLが並列負荷となるので

この回路の負荷が6CW5の最適負荷より低い所為ではないかとの事でした。並列となると約400Ωの

負荷となるので、確かに最適負荷よりかなり低い数値となっています。




 次に周波数特性で、これは見事といって良いほど高域まで素直に伸びています。こういう特性が出せる

からこそのCSPP方式なのだと思います。って、前章のcirclotronアンプの時と全く同じ事

を書いてしまったのですが、今回はさらに全く補正を必要としないフラットな特性で、何もしないでこの

特性が得られるとは驚異的とさえ思ってしまいます。なお、RL8Ωの特性については後で説明します。

 くどいようですが、何もしないで10〜190kHz/−3dBの広帯域特性が得られました。




 方形波応答では僅かにオーバーシュートがありますがリギンクなどのない整った波形で、負荷開放でも

乱れは全く無く、むしろテスト信号とほとんど同じ波形のように見えます。





 負荷8Ωの場合の特性


 ここまでは、RL600Ωとする為に2次側の負荷を5.3Ωとして特性を採ってきたのですが、私は6

Ωスピーカーを持っていませんので、実際に音を聴く場合の負荷は8Ωとなってしまいます。そこで負荷

8Ω/RL900Ωの場合の特性も採ってみる事にしました。


諸 特 性


 RK590Ωに対してRL90

0Ωとなるので、両者の合成負荷

が約500Ωに上がり最適負荷に

近づいたのと、また負帰還が増え

た所為か数字的には良い値を示し

ています。

 それでもやはり最適負荷よりは

低いのですが、特性を始め肝心の

音も、他方式のCSPPアンプに

迫るように思います。


無歪出力7.0W THD5.1%1kHz

NFB  11.1dB

DF=13 on-off法1kHz 1V

利得 24.5dB(16.8倍) 1kHz

残留ノイズ 0.15mV


 また上記の周波数特性でも、NFが増えた成果か高域がさらに伸びていて、10〜230kHz/−3

dBの広帯域特性が得られました。一方、先に掲げたの電圧電流関係表のように、最大出力時のカソード

電流も8Ω時の方が僅かですが低い数値を示しています。既に述べたように、本機では最大プレート損失

いっぱいの動作となっているので、例え少しでも電流値が下がるのは好ましいと思います。


 雑 感

 以上のように、出力こそ前章のcirclotronアンプの半分になってしまいますが、回路は簡潔

でも紛れも無くCSPPの音がしますし、特性的にそれほど遜色もなく捨て難い回路という印象を持ちま

した。ところが今までに製作例が見当たらないのは、島田式に適合するような低インピーダンスOPTが

市販品に無い事もありますが、何よりも出力の半分が単にロスとなってしまうのが、一番の原因だろうと

思います。そこで、次ぎはロスの少ないカソードチョーク式に変更してみようと思います。


 なお、日頃からアドバイスを頂いているAyumiさんのページに、昭和27年11月のラジオ技術誌

に発表された島田式CSPP回路のオリジナル記事が掲載されていますので、参考になると思います。


  「クロス シャントPP回路を使った6A3BPPと6AR6PPの試作」