ロンドン憶良見聞録

道路が教室



憶良氏はそろそろ不惑の年になるが、日本での自動車運転免許を取得
していなかった。いやソッと読者諸君に告白をすれば、独身の頃熱に浮
かされて自動車教習所に通ったことはある。
しかし、「テメエ何シテルンダ!」とか「頓馬!」とかどなりつけては、憶良
氏の足を蹴飛ばす男を、「先生」と呼ばなくっちゃならない馬鹿馬鹿しさに、
「憶良の顔も三度だ!」と、三回ポッキリで止めてしまった。

だから憶良氏は、罵詈雑言をジッと我慢して、見事日本の運転免許を取
った友人たちの忍耐力を、心から敬服している。
もっとも、教習所の先生の中には親切な方もいよう。たまたま運の悪かっ
た憶良氏の(それも30年も前の)ささやかな経験をもって、日本の教習所
の先生方を粗暴だと評しては大変失礼になろう。
現に、女性方にはこの上もなく親切で、スキンシップのサービスもあるや
に週刊誌で読んだこともあるから、その点ではまさに騎士道精神を持たれ
ているフェミニストという方が適切かもしれない。

さて、これから多分数年間をロンドンで生活するようになった憶良氏は、
ロクサンのアドバイスに従い、勇を鼓して運転免許を取得する決心をした。
まずは教習所すなわちドライビング・スクールに申し込まねばならない。



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