俺たち演劇部@
   作・宮城県仙台第三高等学校演劇部

登場人物 (このときの公演では、部員が三人しかいないので、全員二役をやった。)

内海優輔(うつみ ゆうすけ)演劇部部長・二年生   
      
玄崎 叕(くろさき てつ )演劇部副部長・二年生  
     
久保金作(くぼ  きんさく)演劇部カギ係・一年生  
     救急隊員  
     男

     ニュースキャスター

追加
     校内放送の声  (ここから追加の新バージョン)

   俺たち演劇部A    俺たち演劇部B

                    

@               

   演劇部部室。玄崎は新聞を読んでいる。内海はぼーっとしている。

内海 なあ。
玄崎 ん?
内海 部活…しないの?
玄崎 金作が来てないからな。
内海  そりゃそうだけどさ。・・・面白いか? 新聞なんか読んでて?
玄崎 面白いから読んでるんじゃん。
内海 そんなに読んで、何すんの。
玄崎   知りたいんだよ。
内海

・・・・・・

玄崎 俺は何すればいいのかなあって。俺って、何でここにいるのかなあって、さ。
内海 ・・・・・・
玄崎 どした?
内海 はいはい。・・・んじゃおれも、本でも読むか。
玄崎

またペットの本か。

内海 悪いかよ。
崎  ま、いいけどよ。ペットクラブじゃないんだから、あんまりペットの本ばかり置くなよな。
内海 ペツトペット言うな。俺の場合は犬なんだよ。犬。猛々しくもすてきにかわい・・・
   
    久保が入ってくる。
久保

おはようございます。     

内海 おはようございます。
玄崎 おはよう。
久保 先輩、今日は何をするんですか。
内海 ん、発声やって、エチュードかな。あ、でもその前にちよっと話し合わなきゃならないから。
玄崎 えーっ!
内海 なんだよ、そんなに部活したくないのかよ。
玄崎 そうじゃないって……わかったわかった。やるやる。
内海 いゝや、わかってないね。いまどんな状況か知ってんの?
玄崎 

女がいない。

久保 男子校ですから。
玄崎 部室がボロい。
久保 ウチの学校、お金ないですから。
内海 そうじやねえよ。もっと絶対的なものが足りてないでしょ。
久保 部員、ですか?
玄崎

ああ、なるほど。        

内海 なにが「ああ、なるほど」だ? どういうことかわかってんのか。三人なんだぞ。
久保 四人ですよ。
内海 何?
久保 (人形を指さして)ハロルドがいますよ。
内海

三人。さ・ん・に・ん! 部費だってたったの三万しかないじゃないか!これっぼっちでどうしろってのさ!

玄崎 まあどうにかなるだろ。
内海  

なんでそこまで楽観的になれるんだよ。

玄崎 希望は人生の糧だよ、演劇部長殿。
内海 本はどうすんだよ。本が決まってないで、コンクール申し込み、どうすんだよ。
玄崎

まあどうにかなるだろ。

内海 なるわけないだろう。
玄崎  

金作、何かいい本見つけたか。

久保 んー、さがしてるんですけど、男三人の劇って、ないんですよね。
内海 書けばいいって言ったの、どこのどいつかな。書いた本はどこにあるのかな。
玄崎

さて世界情勢は……(新聞を読みふける)

内海   これだもんな。部活、やる気なくすよな。
玄崎  

ほんじゃ、解散!

内海 ちげえって。これから発声とエチュードだっての。こうなったら、意地だ。いくぞ。
玄崎 はいはいっと…(腰掛けたまま新聞に目を読んでいる。)
内海 読書タイムは終了。(新聞を奪ってたたみ始める。畳む手を止めて)おっ、宝くじ一等が同じ店で二回連続で出たんだってさ。読んだ?
玄崎 なんかそんな感じの記事もあったな。
内海 ひゃ〜、一等、一億二千万!
玄崎 一億二千万か。そんだけありゃ一生遊んで暮らせるな。
内海 部費だけじゃなくて、この古い部室を建て替えてもまだ釣りがくるよ。
玄崎 ま、あたる訳ないんだけどな。その二回連続だって、どうせこの近くじゃないんだろうし。
久保 (いつの間にか新聞を手に取って)これって駅前のチケット売り場の隣じゃないですか?
玄崎  

……。

内海 ……。
玄崎

ま、まあ三回連続であたるわけはないからな。

内海  仏の顔も三度までって、三回までは確実にあるんだよね。それに別に一億じゃなくても、百万、いや、三十万位あれば部費なんて……。
玄崎   ウツミさん?
内海 ふむ、決定! 演劇部で宝くじを買います。
玄崎 はあ? 
内海   宝くじを買うって言ってる。
玄崎 金作!
久保 いいんじゃないですか、先輩。当たれば、予算は使い放題だし、部室を新しくすれば、だれか演劇部に入ってくれるかも!
内海  だろだろ。
玄崎 ちょっと待ってくれよ!そんなの部費で落とせる訳ないだろ。ただでさえ部費が少ないってこぼしてたのお前じゃん。
内海 別に部費じゃなくても、自腹切りゃいいだろ。あれって一枚三百円ぐらいだよね。

久保

そうですよ。
内海   んじゃ、一人三枚だな。そんでもしあたったら、半分を部費にしてもう半分を三等分でどう ?
玄崎 一枚三百円って言ったら、九百円じゃん。そんなに金払えねえよ。欲しい本だってたくさん……
内海 どう?
玄崎 一枚。
内海

二枚。

玄崎 ん……わかりましたよ、六百円、出しゃーいいんだろ、出しゃー。わかったよ。
内海 よし。
久保 いつ行きます?
内海 今からでいいんじゃない?
玄崎 いまから? 部活は?
内海 物事には流れというものがあるの。金がなくちゃ公演はできねーしよ。
玄崎 ったくもう! しょ〜がね〜なあ。
内海 ほれ、いくよ。

 

A

    駅前の通り。売り場まであとわずか。

内海 あの犬、可愛いいよな。
久保  

そうですね。ミニチュアダックスフンドですよね。

内海   うん。やっぱいいよなー、犬。金作んちってなんか飼ってるの?
久保  

えぇ、メスのパグが一匹います。

内海 パグって…あれだよね、「メンインブラック」に出てきたやつでしょ。
久保 そうですそうです。
内海  

あれも可愛いよね。

久保 ですね。
内海 あのつぶれたカオとか短足な所とか。
久保  あれっ、玄崎先輩は?
内海

また、その辺の店に入ってるんじゃないの。

久保   内海先輩は猫飼っているんでしたっけ。
内海   うん。俺は犬の方がよかったんだけど、住んでる地区で犬飼うの禁止って、決めててさ。
久保   地区で決めてるんですか。
内海   そうなんだよ。
久保 なんかけったいな地区ですねぇ。
内海   でしょ。俺も犬飼いたいな。
久保 何かコレっ、っていうものあるんですか。
内海  

そうだなー、さっきみたいなダックスフンドもいいけど、やっぱゴールデンレトリバーとか、ダルメシアンみたいなでっかいのがいいな。それでさ、休日なんかに海行って遊ぶんだ!あぁ〜、ぜって〜楽しいだろ〜なぁ。」

玄崎   金作、今日は二十二日だったよな。
久保 

そうですけど。

玄崎 おかしいな。この辺に本屋ってあったと思ったけど。
内海 なんだよ、また本の発売日か?
玄崎

そうだよ。「ぼくたちは星のかけら」って本さ、文庫本になるんだよ。

内海  

またそうやって無駄遣いを……。

玄崎  

ムダだと?いいか内海、この本はなあ……。

内海 ああ、はいはい。わかった、わかった。
久保 あ、あそこですよ、きっと。
内海

(新聞と見比べて)うん、確かにそうだな。

玄崎 (横から硯き込んで)ホントだ。んじゃ内海、まかせた。
内海   なにゆうてんですか。何で俺が。
玄崎 部長じゃん。
内海 こういうときばっかり頼んなよな。金作、お頼い。
久保 えっ…
玄崎 

おいおい、そりやあ、ないだろう。お前行け、お前。

内海 んじゃ、ジャンケンだ。ジャンケン、最初はグー、ジャンケンポン。
久保 あー。
内海 よっしゃ。はい、俺の分ね。
玄崎 可愛そうに、ほい、六百円でいいんだろ。
久保 はあ。一人二枚ですから六枚でいいんですよね。んじゃ行ってきます。
内海   行ってらっしゃい。
    
    久保、退場。
玄崎 ううっ。俺のなけなしの六百円が。
内海   ええい、うっとおしい。たかが六百円、本を一回買わなきゃ済むことだろーが。
玄崎   お前なあ、限られた予算でいかに多くの知織を蓄えるか、考えたこともないだろう。
内海   ああ、ねえよ。
玄崎  

昼飯二回、抜くんだぞ。いいのか。

内海 そ、そいつは困る。
玄崎  だろう。おれの気持ち、わかるだろう。
内海

だけどさ、俺だって金には苦労してるんだ。

玄崎 何に遺ってんだよ。
内海 ……。
玄崎   ひょっとして、これか?(小指を突き出す。玄崎そっぼを向く)図星…だな。
内海  

玄崎にはいねえのかよ、そういうの。

玄崎   俺の場合、そういう対象は、ゲームの中の女の子だな。ソフト代以外はほとんどタダだし、何より自分の理想の相手を見つけることができるからな。
内海 本に対する情熱を語ってた人間が、そういうこと言うのかよ。まったく…
玄崎

でもさ、実際いくらぐらいかかるんだ?

内海 何が?
玄崎   だから、デート。そういうことをするとさ。さっき金がねえってぼやいてたじゃん。
内海   例えば彼女とデートしに行くとするよ。どこへ行く?
玄崎   まあベタな線で映画館、とか。
内海   んじゃ映画を見に行くとするよ。映画を見るのにいくらかかるか知ってるか?
玄崎   千…五百円ぐらいじゃないのか?
内海

それは男友達と見に行くときだろ。女と出かけるときっていうのは、基本的に男が支払いを持つからな。

玄崎  

そういうものなのか。

内海 ただ映画を見るだけで三千円、パンフ買って菓子、ジュースもつけりゃ、大体五千円ってとこかな。
玄崎 映画一本で五千円!
内海 当然映面が終わってハイサョナラって訳にもいかないから、街に出て昼飯を食うだろ。その後ショッピングを愉しんだりなんかすると、一日で約二万円が吹っ飛ぶことになるかな。
 
 
玄崎 二、二万!二万!
内海 ホント困るよな。誰がデートの時は男持ちって決めたんだか。
玄崎 あっ、だからお前、宝くじ買って当てようなんて。
内海   まあまあまあまあ。頼むよ、なっ、なっ。
玄崎   当たったら約束通りにしろよ。
内海 わかってるって。さすが演劇部副部長殿、話が早い。
玄崎 ま、当たるわきゃねえんだけどさ。そんなに賞金が出たら、宝くじなんてモノが残ってる訳ないからな。
内海   冷静に現実を解説すんなよ。人がせっかくキボウにすがりついて
  いるってのに。
玄崎

ふん。

久保  

ありがと、おばちゃん。

   
    久保登場。
久保 どうもすいません、遅くなっちゃって。
内海 混んでたの? 
久保   ええ、やっぱり二回連続で一等が出たってのにみんな惹かれているみたいです。
玄崎 ふゝん…で、それが問題のブツか。
久保 はい。で、誰が保管しますか。
内海   そうだね、変にもめてもいやだからね。
玄崎 もめるって?
内海   知らん顔して独り占めしたりさ。
玄崎   それはないでしょ。まあ各自、自分の分を自分で保管する。それでいいいんじゃないの。
久保 じゃあ、一人二枚ずつですね。はい、はいっと。
玄崎 こんな簿っぺらいのに三百円も。
内海 ぶつくさ言わない。いつ当たったかどうかわかるの?
久保

明日の新聞には載ってるらしいですよ。

内海 速いな。んじゃ、明日部室で確かめることにするか。玄崎、明日の朝刊を買ってくる事を命じる。
玄崎   え、なんで俺が。部長が買ってくれば。
内海  

どうせいっつも読んでるんだからいいだろ。

玄崎  へいへい、わかりやした。
内海 じゃあ、明日も部室集合ということで、お疲れ様でした。
久保 お疲れ様でした。
玄崎 お疲れ様でした〜。んじゃ、おれはこれから本屋によってから帰るとしようかな。

玄崎、退場。

久保 玄崎先輩って、どんな本を読むんですか。
内海 ああ、この間はね、「宇宙には意志がある」ってのを読んでたな。
久保 「石がある」ですか。宇宙に石っころがあるなんて、あったりまえじゃないですかね。むしろ岩石ですよね。
内海 何言ってんの、お前。「石っころ」じゃねえよ。「目的を達成しようとする意志」だよ。
久保 意志と目的ですか。
内海 そうだよ。
久保 宇宙にどんな目的があると言うんでしょうね。
内海 ・・・・・。
久保 ・・・・・。
内海 帰ろうか。
久保 あ、はい。
内海   金作ってどこに住んでるんだっけ。
久保 えっとですね……


    内海と久保、玄崎と反対方向に退場。  

      

B
 翌日。部室。玄崎が上機嫌に(口笛など吹きながら)新蘭を読んでい  る。  
玄崎 ララララララ・・・
      
      内海・久保、一緒に登場。
久保 おはようございます。
内海 おはようございまーす。
玄崎 やあやあ、おはよう諸君。ゆうべは、よく眠れたかね。
内海 うわ、しきなりキメてやがる。
久保 なにかあったんでしょうか。
玄崎 どうかしたかね。さあ、部活を始めようではないか。
内海 ええい、一晩でキャラを変えるな! トチ狂ってるとしか見えねえんだよ!
玄崎 ふっふっふっふ。見たまえ!
       
      新聞と宝くじ1枚を見せる。
内海 ん、どれだ? ん、おーっ! 確かに千円大当たり。約束は半分部費
  で・・・
玄崎 そんな堅いこと言うなって。あ、そうだ! 学食で何かおごってあげるから! なら文句ないでしょ。
   
内海 そういうことって、ありなの?
玄崎 だって、俺の金で買った俺の宝くじだもの、法的に何の問題もないっしょ。んじゃ、さっそく行きましょう! 掛けそばくらいなら、ご馳走してやろう。
内海 ん〜、俺も当ったかどうか見たいんだけど。
玄崎 金作、行こう。
久保 あ、あの、僕も当っちゃいました!
玄崎 え?
内海 へー、いくら?
久保 すいません、さ、三千円です。
内海 すげえ、どれどれ!(久保から受け取った宝くじを、新聞と見比べる)おおーっ、五倍の配当じゃん!  やったね。(久保へ宝くじを返す)なあ、玄・・崎・・?
久保 先輩?
      
     玄崎、部室を出ようとして凝固、ふらふらと椅子に倒れ込む。
玄崎 うそだ、まさか、ありえない、でたらめだ。いや、しかし、現実だ。ユング的解釈をすれば、どうなる? 確率は天文学的だ。天文宇宙の、宇宙の望みは何だ? おれは、おれは、とどうすればいい?
久保 ああっ、せ、先輩、だ、大丈夫ですか? しっかりしてください。ダメですよ、死んじゃ! ほら、息吸って! し、深呼吸を。
内海 なまじ喜びが強かったために、落ち込みようも尋常じゃないね。
久保 どうしましょう、僕、人を殺してしまいました。
内海 まだ死んでいないって。でも限りなく死に近い感じだよね。
久保 そんな。
内海 ま、ほっときゃそのうち割り切るだろ。(落ちていた新聞を拾ってもう一度目を通しながら) ぶっ!
久保 どうかしましたか。
内海 あ、い、いや、外れてるんだ。俺だけ、外れてるんだ。なんでもない ! 
  なんでもないから !
久保 そうですか。玄崎先輩、起きてくださいよオ。このままじゃ、僕は。
      
   内海、あらめて新聞を見、財布から宝くじを取り出して、確かめる。
内海  き、金作 !
久保 な、なんですかあ ! 
内海 ゴメン! 俺ちょっと用事思い出したから帰るわ。あと、よろしくね。そいじゃ、お疲れさまでした!
                  
    内海、あわてて退場
久保 あ、ちょっと、先輩。


  久保少し追いかけて、玄崎の方に引き返し、何度かドアと玄崎見返してい  る。

玄崎 (起き上がりながら)どした?
久保 あ、先輩、大丈夫ですか。よかったあ。
玄崎 部長は?
久保 用事思い出したとかって、急に。
玄崎 なあ、金作。
久保 はい?
玄崎 一億、当るやつもいるんだよね。
久保 ・・・・・。
玄崎 腹が立ってきた。この国によ、一億あたってるやつがいるかと思うと、腹が立つ。なんでよ、俺たちは千円で喜ばなくちゃならないんだ。
久保 そうですよね。
玄崎 いくらくらいから腹立つ?
久保 へっ?
玄崎 お前は、いくらくらいから腹立つ?
久保 ん、百万くらいからっつすね。
玄崎 百万当ったやつって、どんな顔するんだろう。
久保 ずっと、顔、ゆるみっぱなしてでしょ。派手な服着たりするんですよ、きっと。
玄崎 さっきより憎しみが増したね。
久保 そうっすね。
玄崎 なあ、金作。
久保 ハイ。
玄崎 三千円、何に使うの?
久保 そうすっね、約束っすから、半分部費にして、半分はみんなで分けるんですよね。
玄崎 一人五百円か。定食食えるな。
久保 あと、ジュースも飲めますよ。
玄崎 んー、待てよ、元手は、一人六百円の三人で、千八百円。収入が四千円。差し引き二千ニ百円のもうけか。ふーん、えれしいもうけだけれども、(久保退場、玄崎、気づかない。)百万当ったやつもいるんだよな。それに、一億だって。一億、信じられるか。頭、変になるよな。何に使うんだろ。な、金作? 金作、金作?

つづく

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