俺たち演劇部A

C

      帰り道。夕日がさしている。内海、歩いている。久保、登場。

久保 先輩。
内海 (振り返る。)ん……ああ、金作か。どうしたの?
久保 先輩、あの、ちょっといいですか。
内海 あ、うん、用事はもう済んだから。
久保 その、用事ってのも、嘘なんですよね。
内海  え?なんだよ。その「用事ってのも」って、なんだよ。
久保   単刀直入に聞きます。先輩も当たってるんじゃないですか、宝くじ。
内海

は? 

久保 当たってるんですよね。
内海   な、当たってるわけないじゃん。何を根拠にそんな。
久保 先輩に渡した二枚の宝くじのうち一枚が、家の電話番と同じだったんですよ。
内海 それで?
久保 だから、さっきの新聞に載ってた当選者の番号に、ちょうど家の番号が載ってたんですよ。
内海

ふーん。

久保 ……。
内海 ……。
久保 先輩、これでも言い逃れするつもりなんですか。
内海 違うって。
久保 先輩!
内海 ほら、あれだよ。その、そう、あんとき、俺もよっしゃと思ったけど、そうじゃなくて、一番最後のケタだけ違ってたんだ、うん。
久保

・・・・・。   

内海 なに、その目は! 疑ってんの?
久保 いいえ、ただどうも、嘘臭くってあやしーなー、と。」
内海 そういうのを世間一般じゃ、疑ぐってる、って言うんじゃないのかな。
久保 いや、先輩が疑惑の宝くじを公開すれば、それで済むんです。さあ、見せてください。当たってるにせよ、当たってないにせよ、それで片が付きます。
内海

いや、その、わかったよ。見せるよ。見せますよ。あれっ、おかしいなあ、ちょっと、今見あたらないんだけど。

久保 ほーら、怪しい。当たってるんでしょ、先輩。さあ、白状して下さい。怒りませんから。
内海 違うって! ほら、えーっと、どうしたんだったかなあ。あ、そうだ、捨てちゃったんだよ。当たってないから。
久保 どこにです?
内海 あー、その辺に、来る途中、ポイッと。
久保  先輩を追っかけて来るとき、地面見ながら走ってましたけど、そんなの落ちてませんでしたよ。
内海 いや、あれだって、きっと、ヤギに食われたんだよ。
久保

やぎ!そのヤギはどこに行ったんです?

内海 んん、UFOが・・・
久保 今度は、UFO、ですか。  
内海 そう、そいつが拉致ったんだよ。今流行ってんじゃん。キャトルミューなんとか
久保 犯人は宇宙人とかいうやつですか。
内海 それそれ。やっぱ宇宙人にはかなわないじゃん。それにほら、こう いう場合、たいていやつらが出てくるじゃん、黒ずくめの 男たち。
久保 メン・イン・ブラック。  
内海 そういうこと。んじゃ俺は逃げるから。アディオス! あれっ?  
               
    逃げようとしたが、久保、内海のベルトを握っている。
  
久保 駄目です。逃がしませんよ。  
内海 意外としつこいなあ。  
久保  先輩は、いくらぐらいから腹立ちますか。
内海 何?  
久保  宝くじって、高額の当選者がいるんですよ。腹、立ちませんか。
内海 ああ、立つね。  
久保 先輩、上の空ですね。
内海 いや、そんなことないよ。  
久保 で、、何が立つんですか。  
内海 だから、腹が立つって。
久保 いくらぐらいから立つんですか。
内海 いくら?急にそんなこと言われたってなあ。  
久保 さっき、玄崎先輩と話していたんですよ。百万くらいから腹立つって。百万当たるやつがいるかと思うと、腹立つよなって。そいつが百 万独り占めしてニヤニヤしてるなんて考えたら、二人して憎しみが倍 増してきたんですよ。そう思いませんか、先輩。
内海 ままま、それはそうだけどよ。  
久保 (急に声を荒げて)百万出しなさいよ、先輩。
内海  な、ななな。  
久保 独り占めなんて、汚いっすよ。憎悪ですよ、憎悪。独り占めしてニ ヤニヤしてるなんて。  
内海 待て、待て。  
久保 憎悪っすよ。百万となったら、ただじゃすまないんだから。(更に声 を荒げて)出せよ。出せ。百万。こらっ!  
内海 待て、って言ってるだろう。
久保  何が待てだよ。  
内海 だから誤解だって。  
久保 嘘つくなっ。俺は知ってんだからなっ。百万当たったろうが。出せよ。
内海 だから、違うって。  
久保 何が違うってんだよ、今更。  
内海 百万じゃないんだ、百万じゃ。  
久保 何!  
内海 怒んないでよ、ね、三十万なんだから、たったの三十万。
久保 (突然ニコニコして)でしょ。やっぱり三十万円当たってたじゃな いですか。
内海  (唖然)なにっ!  
久保 だめですよ、嘘ついちゃ、先輩。  
内海 おまえ。百万円というのは。  
久保 ほほほほほ。  
内海 ……。  
久保 おこらないで下さい。みんなで分けるって、約束したじゃないです か。
内海 俺の金で買った俺の宝くじだぞ。
久保  お金がほしいのはみんな同じです。だから分けようって言ってたん でしょう、先輩。
内海  ……。  
久保 とにかく、三十万円の半分、十五万は部費に、残りを五万ずつ三等 分しましょう。  
内海 それは出来ない。  
久保 はっ。  
内海 悪いんだけど、それはできない。
久保 何言ってるんですか。今ならまだ玄崎先輩に黙っていてあげますか ら、ね。
内海   すまないな。
久保 ……ちゃんとした理由があるんですよね。
内海 ん、ま、まあね。
久保 聞かせてください。約束破るほどのことですから、相当のことだと 思いますけど。  
内海 彼女との仲がさ、ちょっと最近ヤバイんだ。ほら、最近部活にかか りっきりだったろ? それで「なんかくれなきゃ別れる」っていうか らさあ。
久保 (唖然)
内海  ま、そういうわけだからさ、ほんとゴメン!んじゃ。(いきな り走っ て退場。)
久保 せ、先輩……な、なんて人だ。

 

D

    昼。路上

声  おめでとうございます。大当たりですね。いかがでしょうか、この機会に当銀行に口座を開きませんか……そうですか、現金でお持ち帰りで。じゃ、少々お待ち下さい……はい三十万円です。ありがとうございました。またご利用下さいませ
   
 内海、三十万円入りの袋を持って、上手より飛び出して来る。うれしくてたまらない。ついつい観客に向かって、ゲッツ をしてしまう。くるりと廻って、おまけのゲッツまでしてしまう。
   
  手より、男と救急隊員が言い争いをしながら登場。

  内海、あわてて封筒をしまい込む。
いいか、さっきから何度も言ってるけどな、ここはオレんちなんだ!オ・レ・ん・ち!分かってるのか!  
隊員 まぁまぁまぁまぁ、やっぱ、犬だって命があるんだから、ね。
オレ、犬嫌いだから。  
隊員  そんなこと言わずに、ね、人間もペットも命は同じなんだか ら。ほら、聞こえるでしょう、助けをもとめてるんですよ。
男  いいや、聞こえないね。
隊員   聞こえないことないでしょう。助けなきゃ。
男    よけいなことするな。  
                
 ハンマーを持って行こうとする救急隊員を男が力づくで
 止める。もみ合う二人。内海、思わず二人の中に割って入る。  
 
内海 ストップストップストップ!何やってんですか!  
男  コイツがオレんち壊そうとするんだよ。  
内海 壊す?
隊員 違いますよ。犬がいるんです。犬がはさまっているんです。ちょっと見てくださいよ。
              内海、のぞき込む。
内海 うわ、ほんとだ。ポーチポチポチ、かわいそうにな。今助けるからな。待ってろよ。
ポチっていう名前か。
隊員 あなたが飼い主なんですね。  
内海   えっ、ち、ちがいますよ。
今ポチって呼んだぞ。
隊員   私も聞きました。
内海 例えば、例えばの話しですよ。ね、あの犬、困ってますよ。あの表情がなんともカワイイじゃないですか。助けましょうよ。
飼い主じゃねえんなら、よけいな事を言うな。
内海 ねえ、助けてあげてください。
隊員  私もそう思うよ。だから、この壁を壊して助けようと  ・・
                
 隊員、ハンマーを持ち上げる。男あわててその手を押さ             える。
 
じょ、じょうだんじゃねえ。この角んとこは、柱なんだぜ。柱も一緒に折っちまわあ。おれんちが壊れるじゃねえか。むかつく奴だな。
 内海 じゃ、この機械みたいなやつをカタしたらどうですか。
隊員 そうか、そういう手もあるな。
何言ってんだよ。この機械をカタしたら、今日の俺の商売あが ったりじゃねえか。冗談じゃないよ。
内海 いいじゃないですか、一日くらい。  
男  なんだと。生活の苦労も知らないガキは、黙ってろ。
隊員  

でも、小さな命がかかってるんですよ。

男  小さな命だ。
隊員 (唖然。)  
内海 (突然怒りに駆られる。)おい、なに言ってんだよ!それでも血の通った人間かよ!


内海、男に掴みかかろうとする。隊員、止める。

隊員 まままま、命にはね、大きいも小さいもないんですよ。
内海 そうだよ。ポーチポチポチ、かわいそうにな、いま助けるから な。
やっば、おまえ、飼い主だろう。  
内海  ちがいますよ。
飼い主なら、賠償金出すんじゃねえか、こういうとき。弁償するって言うならよ、話しは別だなあね。  
内海   ……。
隊員 僕はねぇ、救急隊員を二十年、続けていますが、こんなこと言われたの初めてですよ。
内海  一体いくら出せというんですか。
ま、いいとこ五十万、ぐらいかな。
隊員・玄崎 五十万!?
内海 そんな。払う人がなかったら、死ぬまでここにはさまってろと 言うんですか。
男  ま、それがポチの運命だな。  
内海 そんな。  
隊員  あなたね、少年相手にボリ過ぎですよ。値下げすべきです。
男    じゃ、正直なとこで、損得勘定なしに、三十万、どうだ。
隊員  何でそんなにするんですか?
機械の値段と、一日の営業保証だよ。掛け値なしのぽっきりだ。
玄崎  嘘だ。
男  さぁどうだ?思いっきり値下げしたぞ。役所で払ってくれるんだろうな。小さな命が助かるんだぜ。
                
 男のセリフを聞きながら、内海はその場を離れ、ポケットから金袋を出したり引っ込めたり、悩んでいる。

  
隊員 ……。  
男   

どうなんだ。

隊員   私の一存では。上司に相談しないと。
男  ほら見ろ。
隊員 クソッ、この畜生めが!
三十万、耳そろえて出してみろよ。そしたら、好きなようにさせてやるよ。大切な命なんだろ?ほら助けてみろよ。それと も、かわいそうだっていうのは口先だけか。
隊員 あんた人間じゃねぇよ!ひ、人の皮被った悪魔だよ!
失礼だな。これでも、仕事を大切にする善良な市民だぜ。
               次第に暗く、暗転。  

 

E

 部室。久保が一人、机に向かって黙々と何かを書き付けている。
 玄崎、登場。

玄崎  おはよう。
久保 おはようございます。
玄崎 あれ、部長まだ来てないの?
久保 ええ、来てません。あの、その内海先輩のことでお話があるです けど。
玄崎 ああああ、眠い。徹夜してしまったからな、これ(ゲームの手  
  つき)。 何?
久保 いえ、何でもありません。  
玄崎   そう。ああ、遅えなあ。どこで何やってんだか。ウチの部長殿は。 何書いてんの?  
  
    久保、無言で紙を手渡す。
 
 
玄崎  なに、これ!  
久保 見ての通り、退部届です。
玄崎   退部届って、えっ?
久保   止めさせていただきます。
玄崎   これ、ギャグ?
久保  本気です。
玄崎 (届を丸めて部屋の隅に放る。)  
久保 そんなことしたってムダです。何枚でも書きますから。  
玄崎 いや、でもさ、(届を拾う。)なんでまた。  
久保 もうここにはいられません。
玄崎 そうかもしれないけどさ、確かに部屋はボロいし、部員も少ないし、 お金もないよ。でもさ、3人で誓ったじゃん、あの日の夕日に!今度こそ全国大会に出場するって!
久保  

またまた。先輩は冗談が上手いんだから。

玄崎 まじにさ、久保君が抜けたら、二人じゃん。漫才でもやれっのて?
久保   見に行きますよ。  
玄崎   また、そういうこと言う。
久保  

とにかく辞めさせていただきます。

玄崎 ……。  
久保 ……。
玄崎 あ、ここ、字、間違ってるよ。直さないとやっぱ認められない  
  ね。
 
 久保、奪い取るようにして退部届を受け取り、瞬時に直して
差し出す。
玄崎  こんなグシャグシャの紙じゃ。
         
    久保、席について猛然と書き始める。
久保  できました。
玄崎  

早っ!

久保  

もう一分たりともここにいるわけにはいきませんから。

玄崎  そんな。俺だって辞めようと思ったことあったよ。でもさ、結局こうして続けてるわけじゃん。別に辞めるのは今じゃなくても
久保 この退部届けの、どこが不満なんですか。
玄崎   せめてキチンとした理由を聞かせてくれよ。
久保   聞きたいですか。  
玄崎 聞きたい。
久保 教えねーよ。
玄崎 ……
久保  ……。  
玄崎  どうしても辞めるの?  
久保  はい、どうあっても辞めます。
玄崎 ん、俺だけじや決めらんないからな、顧問のとこ行って相談してきた方がいいよ。どうせしばらく部長は来ないだろうし。  
久保 わかりました。顧問の許可を取ってこい、ということですね。では行ってきます。(早足で退場)  
玄崎  いや、そうじゃなくて……困ったなあ。
          
 うろうろする内海。人形のハロルドを取り上げる。
玄崎 ハロルド、どうする? 金作、やめるんだってよ。
ハロルド  誰か、いじめたんじゃないのか。
玄崎  まさか。たった一人の後輩だぜ。


内海、部室を覗き込む。振り返った玄崎と目がが合う。お互いにバツが悪い。
 

内海 おはよう。
玄崎 おはよう。なんで遅れるんだよ。部長だろ。
内海 なんだよ、いきなり。金作は?  
玄崎  そのことなんだけど。
内海

なんか言ってた?

玄崎

え?ああ、まあ爆弾発言を、ね、残していったよ。

内海 どんな?  
玄崎

(首を傾げてる。)なんだろうね。

内海

俺のこととか、宝くじのこととか言ってた?

玄崎

何言ってんの? これだよこれ。(退部届を差し出す)

内海

ん、なにこれ

玄崎  

退部届。

内海 

え!

玄崎 なんでだろうな。特にいじめた記憶はないんだけどなあ。なんで ろう。  
内海   なんでだろう、なんでだろう。
玄崎

なんか心当たりとかあるの?

内海

なんで?

玄崎

お前、おかしいからさ。

内海

いや、よぐわかんねえな。

玄崎

ホントか?

内海 

ホントだって。

玄崎  まあいいや。とりあえず顧問のとこに行かせて、時間稼ぎを図っといた。あの人なら引き止めるっしょ。んで、この間に対策をっと言ってね原因がね、わかんないんだよね。内海、おまえ、考えてる?
内海 ん、考えてるって。それよりさ、今日の化学の小テスト、ま 赤点 とっちまったよ。見る?
玄崎   いつものこったろう。そんなこと言ってる場合じゃねえって。  
内海 でもさ、ほら、見てよ。ここ、ここ。23+56=89だってさ。バカカじゃん、俺。
玄崎

知ってるよ。

内海

なんだよ。

玄崎 あのなあ、いま、演劇部が存続するか否かの瀬戸際なんだぞ。なんだよ、その態度! ふざけんなよ! ちったあマジメに考えろ!考えねえなら出てけ!
内海

……

 
    久保入ってくる。  
 
玄崎

おう、お帰り。どうだった?

久保

「先輩達ともう一回しっかりと話し合って来い」ですって。

玄崎  ふ〜ん。ま、ようやく部長も来たことだし、語し合いを始めますか。部長、ちょっとこっち来てよ。  
 
    内海
、壁の方を向いて何かごそごそやっている。  
玄崎  

おい、内海。

内海 あ、ちょっと今、探し物してるんだよ。  
玄崎 あっそ。んじゃ、とりあえず座って。  
久保

はい


 玄崎
、久保、共に腰をおろす。

玄崎 えっとさ、その、とりあえず理由、とか教えてくんないかな?
久保 

さっきも言ったけど、やはり言えません。

玄崎 

そこを曲げて。

久保

だめです。

玄崎

どうしても?

久保

はい。

玄崎 (こそっと)ひょっとして、俺に原因があったりしたりすんのかな?  
久保 いいえ、玄崎先輩は関係ないですよ。ええ。今までどうもお世語になりました。
玄崎 ってことは、内海になにか原因があるの?
久保

……。

玄崎 

ははーん。おい、内海部長、ちょっと来いよ。

内海  

……。  
玄崎 

おいっ!

内海

あいててて。(玄崎内海を引きずってくる。)

玄崎 

さてと…部長殿、あんた、心あたりあんじゃねえのか?

内海  

何のこと。

玄崎  しらぱっくれてもわかってんだぜえ? とっとと吐いて、楽になっちまったらどうだい。
内海 わかんないものはわかんないよ。  
久保 先輩、ホントに心当たりがないんですか?
内海 ああ、無いね。だいたいね、金作、おまえ、やめる理由を人のせいにするなんて、男らしくないぞ。  
   
久保 な、なな、なんという
玄崎   いいか、部長さんヨォ。あんた、真実を知ってんだろ? 何もかも吐いちまって、もう、ここいらで終
りにしねえかい?
   
内海

……。

玄崎   ……。
久保 先輩、ちょっといいですか?
玄崎   あ、うん。  
久保 この中に、僕が退部届を出さざるを得なくなった原
因を作った人がいます。その人は、自分のことだと
知っているにも関わらず、シラを切ろうとしています。そうですよね、部長。 
玄崎  やっぱりイッ!
久保 まま。さあ、自分の口から話していただけますね?そうすれば、私も気持ちよく部に残れるんですよ。
内海 何のことかな。  
久保  あなたはこう考えた。宝くじの賞金は、約束通り分配すればたったの五万円しか手に入らない。黙っていて、三十万円全部せしめてしまおう、と。それを、残念ながら、後輩の久保に、つまり私に知られてしまった。大きな誤算でしたね。でも、あなたは開き直った。自分の金で買った自分の宝くじだ。法的には何の問題もない。久保が何言っても無視してしまえ。私は無視されたんですよ。
玄崎 つまりあれか? こいつに三十万円当たったてのか。
久保 

 はい。

玄崎 約束を無視して、全部自分の物にしたというのか。  
久保 はい。
玄崎 そんな大金、何に使うというんだ。  
久保 本人は、恋人に使うと言ってます。  
玄崎 つまり、あれか、ただ自分の欲望のためだけに、この部まで連れにしようとしてるってのか?  
久保 はい。  
玄崎 本当なのか?  
内海 

 ……。

玄崎 嘘だろう。今からでも遅くはないんだ。ま、ちょっと心に迷いが出た、ということだよな。  
内海 ……。
玄崎  今から銀行に行って、演劇部の通帳に振り込めばいいんだよ。それで何もかも元どおり。
内海 もう遅い。
玄崎 えっ。
内海 使ってしまった。  
玄崎 なに!まさか、愛している者のために使った、なんて言うんじゃないだろうな。
内海 まあ、そういうことになるかな。  
玄崎 ふざけるな!  この! 
 
      殴りかかろうとする
玄崎。止める久保。
 
久保 部長、本当だったんですか。  
内海  

言い方の問題でな。そういう言い方すれば。

久保  本当だったんですか!  
 
    玄崎
、手に模造刀をもってくる。
 
玄崎 金作。
久保 はい?  
玄崎  そいつ、押さえといてくれ。  
久保 はい。こうでいいんですか?  
玄崎 よし。よおくきけエ! こやつ、何の罪もない部員たちを、己の欲望のために惑わせ、騙した罪、万死に値する。よって打ち首の刑に処し、以て此れを償いとする ! 
内海 ちょ、ちょっと待って。
玄崎  問答無用。  
久保   自分の罪を悔いて、死んでいくがいい。
内海  待て。  
玄崎  

死ネ。


 振り下ろされる刀。間一髪、久保を突き飛ばして回避する内海。そのま部室から逃げ出し、退場。  
玄崎 罪人が逃げたぞ!  
久保   逃がすな!
玄崎・久保 逃がすな。逃がすな。  
 
   言いながら、脱力感に襲われ、腰下ろす。
玄崎 あーあ。
久保 あーあ。
玄崎   あいつ、なんなんだ。  
久保 なんなんでしょうね。  
 

つづく

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