俺たち演劇部B

F 久保はちゃぶ台で食事中。
久保 はい、わかってますよ。でもさ、僕にだって、いろいろつらいことはあるんだから。(途中からひとりごとのぐちになる。)そうそうニコニコばかりしてられないっての。せっかくさ、やる気出して演劇部入いったのに、変な先輩のおかげで、めちゃくちゃだよ。あー、やだやだ。(片手に茶碗を持ちながら、テレビをつけようとして)えっ、わかってるよ。でもね、ニュースだけは見ないと。社会の先生がうるさいんだよ。(テレビをつける。)
 
    
内海は自分の部屋に入ろうとして
 内海  うん、大丈夫。勉強もちゃんとしてるから。心配ないって。(中に入ってドアを閉める。)あーあー、早く大学入って自立したいな。(椅子に腰掛ける。突然思い出して)内海のやろう、なんだ、あいつ。あったま来るな。(腹が納まら ない。)こうしてこうしてこうしてやる! 
 
    内海、気
を落ち着けたところで、テレビをつける。
ニュースキャスター  はーい。みなさん、おばんです。「今日の街角」の時間が参りました。私は今、亀が丘一丁目に来ています。ここはですね、ご覧の通り、ごく普通の住宅街です。この住宅街で、今日の午後、ひとつの奇跡が起きました。私どもは、これを「亀が丘の奇跡」と名付けて、さっそっく取材を開始しました。まず、この事件のあらましを説明いたしましょう。 カメラさん、ここに寄ってください。ここです、この狭い空間に、一匹の子犬がはさまって出られなくなったのです。助け出すには、この機械を壊すしかなかったのですが、この不景気です、この家にとってそれは厳しいものでありました。そのとき通りかかったのが正義の味方、一人の少年、機械の修理代三十万円をぽんと出して、その子犬を助けたというのです。三十万円の現金ですよ。しかもその少年は、子犬を助けると、名も告げずに、逃げるように走り去ったというのです。どうも高校生らしいという現場にいた方々のお話でした。では、事件に立ち会った救急隊員の方にお聞きしましょう。(SO)
  
 久保は食事しながら、内海はマンガでも読みながら、同じ番組を見て   いたが、「あっ」二人は思わず腰を浮かす。
 

G

     部室。久保と玄崎。久保がドアの外をうかがっている。

久保 あ、来ました。
玄崎 よし、隠れよう。

 久保と玄崎、隠れる。内海、そっと入ってくる。犬の本を探し
て、手に取り、帰ろうとする。玄崎、内海、戸口をふさぐ。
内海 なんのつもりだ。
玄崎・久保 いいから、いいから。
内海 何なんだ、いったい。
玄崎 何だと思う?
内海 何?  
玄崎 教えねえよ。  
      
    内海、かちんときて、部室を出ようとする。止める玄崎。
 
内海  もう、いいかげんにしろ。  
玄崎 まあ、ちょっと待てよ。  
内海 おまえたちに用はない。
久保  先輩!
観たよ、テレビ。  
内海   何の番組?  
久保   「はーい、街角の時間」、ってやつですよ。  
内海 観たの?
玄崎   おまえも、なんで早く言わないのかな。ああいうことを。
久保 そうですよ。  
内海 俺も観たけどな。あれは俺じゃねえんだよ。  
玄崎 うそ言え。もうバレバレなんだよ。  
内海  勘違いするな。おれは、当てた金で犬を救うほどな、優しい男じゃないんだよ。どちらかと言うとな、危ない男なんだ よ、俺は。
玄崎   じゃあ、その腕に抱えているのは、何だ。  
久保 「かわいいワンちゃん大集合」「あなたの大好きなペットへの愛の調教」というタイトルが丸見えですよ。
玄崎  どうやら、お前の愛読書のほとんどは、ムツゴロウの本だそ うじゃないか。お前のペットへの愛情は、それが証明してる んだよ。
久保 あのニュースの少年が先輩じゃないとすれば、いったい誰だっていうんですか。  
内海   ・・・・・。
玄崎 この救出小僧め。
内海 そういうこと言うな。
玄崎 はあ、さ、部活始めるよ。
内海   俺はあやまらないから
玄崎  

打ち首だな。

    
    三人、軽い準備体操を始める。
 
久保  三十万円があって、犬がはさまっていなかったら、どうなってたんでしょうね。
内海  俺は約束を守っただろうな。
玄崎  ほう、言う じゃないか。それじゃ、聞くが、五万円入ったら、何に 使うつもりだ。
内海  んー、「犬の大図鑑」かな。
玄崎  あれっ、女の子に使うんじゃないの。
内海 ん、は、はははは。はははは。じゃ、お前は、どうなんだよ。
玄崎 おれか、何に使うか、ん、俺は、あれだな、もう金になんか、振り回されたくないな。ごめんだよ。そうだな・・・宇宙が誕生したとき、宇宙は何をめざしたか。宇宙は、何兆分 の一という確率の海の中を、ひたすら知的生命体を生み出そうとしていたのだ。その結果誕生した僕ら、人間に、宇宙は、何を、何を望んでいるのか。それは、それは、金ではない、金でないことは確かだ(むむ、と考え込んでしまう。)
内海 ま、一つずつ、一つずづだな。  
    
    久保と内海、軽い準備体操を再開する。
 
久保 これって、お芝居に成りませんか。
玄崎・内海  えっ?
久保  くじを買うところから、今のところまで、いいストーリーですよ。  
玄崎   ほう。  
内海  なるほどね。
久保 ぜったい、おもしろいですよ。
玄崎  いいアイディアかもしれないぞ。  
内海   三十万円が生んだ奇跡だな。
久保 そうですよ。書きましょうよ。  
玄崎  うーん、書くか。部長、紙はどこにある。
内海 なんだよ。  

    
    紙を探し始める内海。
 

内海 しかし、汚ねえ部室だな。なあ、ハロルド、うちの部室はなんでこんなに汚ねえんだ?  
   
ハロルド お前だろう。  
     
      思わずコケル内海
校内放送 演劇部の部長、演劇部の部長、すぐに校長室に来なさい。
内海 おれ?
玄崎 お前、今度は何やらかしたんた゜?
内海 おれじゃねえよ。
玄崎・久保 ・・・・・・・・・
内海 何見てんだよ。何もしてねえよ。疑ってるのか。
久保 一度裏切られてますからねえ。
玄崎 そうだよなあ。
内海 ひどいよ、それ。
校内放送 演劇部の部長、聞こえてるか。よけいなおしやべりなんかしてないで、すぐに校長室に来なさい。テレビの取材が入ってるぞ。
三人 えーっ!
内海 どうしよう。
玄崎 どうしようって、とにかく行けよ。
内海 行ってどうすんだよ。やだよ、俺。
玄崎 やだって言ったって、なあ。
久保 そうですよ。
玄崎 内海、何やってんだよ。
内海 ここに来るかもしんないから。
久保 先輩、やめてください。
玄崎 そんなとこにバリケードなんかはるなよ。
内海 来たら、どうすんだよ。
玄崎 来たって、いいだろ、っと、ちょっと汚ねえよな。
内海 そうだよ。みんなに見られるんだぞ。全国ネットだったらどうすんだよ。全国に恥さらすんだぞ。なあ、ハロルド、どうしよう。
ハロルド んふふふふふ。
久保 ハロルド、なんだよそれ。
ハロルド んふふふふふ。
放送 演劇部部長、部長、早く来なさい。新聞社の記者も来てるぞ。あ、また別のテレビ局だ。うわっ、ななな、なんだ、どんどん来るぞ。お前ら、何やったんだ。早く来い。来ないんなら、こっちから行くぞおおおお。
三人 そんな、わっ、わわっ、どうしよう、どうしよう。わーっ!
    
    部室のゴミを拾いながら、わけもなく走り回りだす三人。
                             
                                   
                                                          ・・・・・・・・・・・・・幕。