足長おじさん

足長おじさん

 部屋をかたづけていたら古いビデオがたくさん出てきた。ずっと以前、BS放送がまだ試験放送だったころに放映された映画を録画したものだ。状態の良いものをDVDにコピーすることにした。時間がかかるので放っておいても良いのだが、ついつい見いってしまう。

 そのなかに「足長おじさん」があった。おじさん役がフレッド アステア、ジュディがレスリー キャロンというキャストだ。フレッド アステアが出ているくらいだから内容は原作からはほど遠い。ヘラヘラした物腰は見ていると腹が立ってくるほどだが、タップダンスのすばらしさは言うまでもない。筋だてがめちゃくちゃであろうと、ヘラヘラおじさんであろうと、そんなことはどうでも良い楽しさだ。

 そしてレスリー キャロンの輝くような魅力。孤児院のお仕着せを着て、同じギンガムチェックの子供たちに勉強を教える少女。初々しいというには少々魅力的すぎる笑顔だ。足長おじさんの庇護を得て過ごす大学での生活。卒業パーティの華やかなドレスへと変貌していく姿は、アメリカが僕たちの夢だった時代そのものだ。

 もちろん、あの時代、アメリカのすべてが光り輝いていたわけではない。まして、1955年といえば、すでに世界のいたるところに暗い影がさしていた。旧植民地、東西の対立、人種差別、拡大する貧豊の差。そんな矛盾などどこ吹く風の輝かしい世界。それがこの映画だ。

 それにしても、なんという楽しさ、なんという輝き、なんという楽天さ。これこそがフレッド アステアのすばらしさ、あの見事なタップの秘密だったのだろう。

 この世界には明と、そして暗がある。暗部から目をそらしてはならないが、それは明に目をやってはならないということではない。50年を経た、この楽しくも輝かしい映画を見るとき、覆いかくされていた影が一層強く感じとれる。そして今、僕たちはさらに多くの暗部に苦しんでいるが、それらをもひときわ強く意識することができる。おそらくは、それもまた芸術の力なのだろう。



Daddy Long Legs
 1955年の米映画
 主演 Fred Astaire, Leslie Caron


1950-1955年頃の出来事

1950-1954 マッカーシズム
1950-1953 朝鮮戦争
1955-1956 人種別のバス座席分離に対する反対運動。1956年の判決によりようやく座席分離は撤廃された。
1954 ベトナムの南北分断。1955年にアメリカが軍事介入開始。
1955 世界の原爆保有数が5000発を越える(USA:4000, USSR:1000)
1955 ジェームズ ディーン「理由なき反抗」

SEP/2004