Morning has broken

Cat Stevens

Morning has broken

 1970年代のころだ。吟遊詩人を思わせるような風貌の若者たちが、彼らの歌を歌い始めたことがあった。ポップシーンの中心はすでにアメリカに移っていたが、それに抗うように、イギリスやフランス、そして北欧に、量産システムとは距離をおいたかのようなシンガーソングライター達が現れたのだった。彼らの多くは、数曲の佳曲を残しただけで音楽シーンからは消えていったけれども、シンプルなメロディに素朴な感情をこめた詩が多くの共感を呼んだ。

 そのような詩人たちのなかにあって、「雨にぬれた朝」という大ヒットを残したのがキャット スティーブンスだった。原題は "Morning has broken"という。そのまま訳せば「夜が明けた」というそっけないもの。まるで昔の小学校唱歌のような題だが、歌詞を読むとその通りだということがわかる。旧約聖書の天地創造を下敷きに、日々新しい朝を迎える喜びを歌うもので、もとはイギリスのトラディショナルらしい。おそらくは日曜学校で子供たちが声を揃えて歌ったのだろう。

 気恥ずかしいほどに素朴な感情をそのままに簡素な旋律に載せて歌う、そんなナイーブな音楽が共感をもって迎えられた、1970年代とはそんな一面を持った時代だった。あまりにも機械的で、人工的で、そして楽天的な未来像が、世界のあちこちに噴出した矛盾のなかで幻滅へと変わっていった1960年代末期への反動が産んだ、さまよえる詩人たちだった。

 これほどにも素朴な喜びを、明るくやさしい声で歌ったキャットだが、その後、イスラム教へと改宗し、音楽活動からは退いてしまったと聞く。矛盾と幻滅は、今も終わってはいないのだ。


Morning has broken

Morning has broken, like the first morning
Blackbird has spoken, like the first bird
Praise for the singing, praise for the morning
Praise for the springing fresh from the world

陽が昇る、はじまりの日の朝のように
ツグミが歌う、はじまりの空に舞う鳥のように
讃えよ、この歌を、讃えよ、この朝を
讃えよ、すべてのものの新しき芽生えを

Sweet the rain's new fall, sunlit from heaven
Like the first dewfall, on the first grass
Praise for the sweetness of the wet garden
Sprung in completeness where his feet pass

かぐわしき雨の滴、天からの日射し
はじめての露が、はじめての葉に下りる
讃えよ、露にぬれた園の甘き香り
神の踏みしきたまいし全(まった)き野の芽生えを

Mine is the sunlight, mine is the morning
Born of the one light, Eden saw play
Praise with elation, praise every morning
God's recreation of the new day

私にそそぐこの日射し、私に訪れたこの朝
ここに生まれし最初の光、エデンの園に戯れる
誇らかに讃えよ、めぐりくる朝を
神の御業(みわざ)なる新しき日々を

Morning has broken, like the first morning
Blackbird has spoken, like the first bird
Praise for the singing, praise for the morning
Praise for the springing fresh from the world

陽が昇る、はじまりの日の朝のように
ツグミが歌う、はじまりの空に舞う鳥のように
讃えよ、この歌を、讃えよ、この朝を
讃えよ、すべてのものの新しき芽生えを


Morning has broken 訳詩 庄野 健
注1) はじまりの朝   First morning 「神は光と闇を分け、光を昼と呼び、闇を夜と呼ばれた。夕べがあり、朝があった。第一の日である」(旧約聖書 天地創造)
注2) ツグミ   Blackbird(鳥)クロウタドリ Nursery Rhyme "Sing a song of six pence"でパイの中から歌いだした24羽の鳥がblackbird。黒ツグミと訳されているので、それに従った。早春に美しい声で鳴きはじめることから、first birdに擬せられたのだろう。
"Sing a song of sixpence"
A pocket full of rye;
Four and twenty blackbirds baked in a pie!
When the pie was opened the birds began to sing,
Oh wasn't that a dainty dish to set before the king?

ポケットいっぱいのライ麦
四と二十羽の黒ツグミを詰めてパイを焼いた
そのパイを切ったとき、鳥たちが一斉に歌い始めた
王の御前にふさわしい優雅な料理じゃありませんか?

注3) はじまりの朝に舞う鳥    First bird. 「鳥は地の上、天の大空の面を飛べ」(天地創造 第五日目) 「はじめての露」「はじめての葉」「最初の光」も天地創造を踏まえている。

(注4) 讃えよ、すべてのものの新しき芽生えを   "Praise for the springing fresh from the world" 末尾の"world"を"word"とした解説もある。"Word"は「原初に言葉ありき」の意。注意して聞いても、伴奏がかぶっていて語尾が聞き取れない。海外のlyric掲載サイトを調査したところ、両者は約半々だった。

APR/2011