"Tales of Matsumoto"
Symbol-3 : Houses of the Holy Glory Night(その1)
(ズッキー消失?....これも、仕組まれた罠のひとつなのか?)
「あ、あれ、ズッキーの車じゃない?」
中村嬢の指差す方向には、確かにズッキーの愛車、ダークグレーのラングレイが駐車場に入って
来るのが見えた。運転席から降りてくるのは、まぎれもない、ズッキー鈴木その人である。
「遅かったじゃない!事故ったんじゃないかと心配したんだから」
木村女史は、初対面のズッキーに容赦ない。
「すみません!すみません!」
ズッキーはいきなり地べたに座り込み、米つきバッタのように土下座しまくった。
アスファルトに何度もこすりつけた額に、うっすらと血がにじむ。
「いやいや、そこまでしなくとも...遅刻なんて、大したことじゃないよ。な、みんな?」
Yasの脳天気な言葉に、『お前が言うな!』と八王子組の表情が一瞬険しくなる。
「ホント、心配したんだから。何があったの?」中村嬢が厳しく追求する。
「そ、それがですね、家を出た途端に大渋滞に巻き込まれまして!
いつもは、こんなこと、まずないんですけどねー」
「...これは、やっぱり何かあるんですよ。我々を聖跡に近づけまいとする」
本多は腕組みをしながら深々とうなずいた。一同もそれに従う。
「そ、そうかも知れませんね、うんうん。
と、とにかく、腹ごしらえしましょう。うまいそば屋があるんですよ、皆さん」
挙動不審な鈴木
ズッキーは額の血をぬぐいながら起き上がり、そそくさと早足で歩き出した。
一同はズッキーの後を小走りで追う形となった。
最後尾を歩く青柳は、鼻にティッシュを詰めながら納得がいかない。
(松本で渋滞だぁ?こんな田舎で、あまりに不自然な話じゃないか?
単なる、でっち上げの言い訳じゃないのか?)
ズッキーは道案内をしながら、ひとり胸をなで下ろしていた。
「笑っていいとも」を見てて家を出るのが遅れた、とはとても言えない。
単純なメンバーで助かった、と。
「この店がうまいんですよ」
「...って定休日じゃないの?」木村女史が突っ込む。
店の前には、確かに『本日、定休日』の札がでかでかと下げられていた。
「ですね」涼しい顔でズッキーが応える。
「ですね、じゃないだろ!どーすんの!」Yasがキレかかる。
「いえいえ、長野は『そば処』ですからね、街中そば屋だらけだから大丈夫です。
ジモティーの僕について来て下さい!」ズッキーは踵を返してまた歩き出た。
「...あー言いながら、手に持ってる『るるぶ/長野編』が気になりますね」
佐々木が流れる汗をぬぐいながら、細かいチェックを入れる。
「店、知らないんじゃないの?」
大西は薄れゆく意識の中で、そうつぶやいた。
さまよえる使徒達
「この店、どうです?」
炎天下の中を散々歩き周り、ようやくそば屋らしい一軒に辿り着いた。
「しなびた、良い店がまえですな」うちわで扇ぎつつ、本多が厳かに言った。
「ひなびた、でしょ?確かにしなびた感じもありますけどね」
柴田はあくまで冷静である。
「もう、ここでいいよ!入ろう、ズッキー」
沼田女史はそう叫ぶと、ひとりズンズンと店に突入して行った。
「うまいわ、これ」そばをすすりながら、口々に賞賛の声をあげる。
「いやいや、確かにそば処だけのことはありますね」グルメの柴田も絶賛する。
「みなさん、これから1時間くらい車で走りますので、ドライバーの方はアルコールを控えて
ください....って言ってる端から飲んでやがるし、こいつら!!」
ズッキーは既に宴会に突入している一行に、憮然とした表情を向ける。
「じゃかーしい!飲まずにいられるか、おらおらおら!!」
青柳は取り憑かれたかのように瓶ビールをラッパ飲みしている。
それを煽る、無責任なメンバー達。
「こらこら、キミ達(^^;)。彼は、我々の車の運転担当なのだからにして....」
手酌でちびちび飲んでいる本多が、盛り上がってる一団に水を差す。
「いーじゃんいーじゃん」聞く耳を持たない、野獣のような方々。
「ま、い〜か。他のドライバーも飲ませてしまえば、条件は同じだし」
という俺理論で勝手に納得し、本多は木村女史/佐々木のグラスにビールを注ぎに回った。
もちろん、ズッキーのグラスにもナミナミと注ぐのを忘れない。
昼間っからフルピッチの宴会で盛り上がった一行は、小一時間でそば屋を後にした。
「こんなところに中古レコード屋があるよ!」中村嬢がオドロキの声を上げる。
その店は、そば屋のすぐ近くにポツンと建っていた。Early American調の洒落た雰囲気である。
「あれ、この店って....妙だな。最近、またできたのかな?」
ズッキーは眼鏡をずり上げて、ガラスドア越しに店の中を覗きこんだ。
「『YOIKO-YOIKO』....変わった店名ね。看板にカエルのマークっても、うさんくさいわ」
そう言いながらも、沼田女史は何のためらいもなくズカズカと店に入って行った。
一同はそれにおずおずと従う。
狭い店内には、所狭しとLPやCDが並んでいる。西新宿も真っ青の品揃えであった。
絞りのTシャツを着たヒッピー風の店員が、暇そうにカウンターの中でテレビを見ている。
「あれ、ひょっとして、ZEPPの『PLEASE PLEASE ME』じゃないですか?」
柴田が、壁の一角に貼ってあるBoot CDを目ざとく指差した。
「....それより、レジの奥の壁んとこ、あれ『HEINEKEN』ですよ。オレ、初めて見ました」
青柳が目を丸くして驚愕の声を上げる。
「ちょっと、みんな、お店の外で待ってて頂戴!」
そう叫ぶなり、沼田女史は有無を言わさずメンバーを店から叩き出した。
少しだけ抵抗した青柳であったが、沼田女史の踵落としであえなく沈んでしまった。
「やっぱり、地方にはあるのね〜!全部定価だったわ〜」
カエルのイラストが入った大きな紙袋を手にして、沼田女史はニマニマ顔であった。
駐車場へ向かう足取りは、ひとりだけ軽やかである。
「でも、怪しいな〜。ホントにホンモノだったんですか?」
柴田は疑いのまなざしを向ける。
「私の鑑定眼を疑うの!? 間違いないわ、全部ホンモノよ」
「あれ、青柳さんは?」Yasが一同を見回す。
「そば屋に忘れ物をしたそうで。すぐ追いつくから、って言ってました」佐々木が答える。
「たしか、この辺りだったんだけどなぁ....」
青柳は、沼田女史の買い残しを漁るべく、先程の中古レコード屋を探していた。
しかし、先程あんなに簡単に見つかったハズの、あの店がなぜか見つからない。
しびれを切らして、先程のそば屋の暖簾をもう一度くぐった。
「いらっしゃ....あんれ、さっきの騒がしいあんちゃんだべ。なんか、わすれモンかえ?」
「あの、つかぬことをお聞きしますが、この近くに中古レコード屋がありませんか?」
「あー、あんの、ハイカラな店さかね?うちのハス向かいだったなぁ」
「でも、見つからないんですよ。そこは何度も探したんですが」
「当たり前だぁ。去年、キレイに燃えちまったからな。
あそこのにーちゃん、まりはな、とかいう妙チキリンなクスリさヤッて、気ィ持ち良くなって
店に火ィ点けたんだぁ。にーちゃん、その中で踊りながら死んだってーから、迷惑な話さー」
青柳は店を飛び出し、そば屋のオバさんの言ってたあたりに駆け寄った。
そこには、雑草の生い茂る中、カエルを形どった石像が建てられてるだけであった。
「あのにーちゃん、カエルが好きだったからなー。化けて出んように、ここらの人間で石像を
建てたんよー」
そば屋の入り口から顔だけ出して、オバさんが叫んでいた。
「遅いじゃない、青柳さん!またご休憩なの?」駐車場で、木村女史があきれ顔で言う。
「忘れ物、見つかりました?」佐々木がくったくの無い笑顔で尋ねる。
「いえ、見つかりませんでした。でも、いいんです、もう...」
一行は、駐車場近くのスーパーで、食料と酒をしこたま買い込んだ。
ひとつ失敗だったのは、沼田/Yas/本多という酒類調達班の人選だった。
「これ、かなりアルコール度がキツそうですよ」「じゃ、買っとこう」「....」
「ちょっと、多すぎないですか?」「多いくらいがちょうど良いのよ」「....」
優柔不断な本多では、豪快な両巨頭を押さえることは到底不可能であった。
買い物後、本多から2万円近いレシートを渡され、会計係のズッキーはめまいを覚えた。
「い、いろいろありましたが、これからコテージを目指します。
小一時間の山道ですので、くれぐれも気を付けて。私の車が先導しますから、はぐれない
ようにお願いします」
ズッキーの号令に従い、一同は散開した。
ちなみに、ズッキーのラングレーには沼田女史が同乗することとなった。そば屋でズッキー
のグラスにやたらビールを注いだことを、沼田女史は今更ながら深く後悔していた。
「青柳さん、顔色が悪いよ。トイレだったら、もう一回行ってきたら?」
後部座席の大西が、バックミラー越しに心配そうに声をかける。
本多はBGMのテープ選びに余念がない。
「大丈夫です。さぁ、行きましょう」そう言って、青柳はシビックを発進させた。
(この旅は、マジに何かあるぞ。気を入れて当たらねば....)
青柳は、先を走る黄色のビートのテールを見つめながら、心の中でつぶやいていた。
ジャカジャカジャンケンをしながら盛り上がってる本多/大西の極楽コンビを横目で見て、
皮肉な笑顔を浮かべる。
(こいつらは、あてにならない....。いざと言う時には、オレがみんなを守らねば...)
山道は、思っていたより急で曲がりくねっていた。ズッキーの車を見失わないように、後続
の3台は必死に運転を続けた。
山道を疾走するアコード
「なんか、霧が出てきたわね」
八王子組のドライバー、木村女史は眉をひそめた。Yas、中村嬢も不安げな顔つきである。
「霧が出てきましたよ」
千葉組のドライバー、佐々木は、緊張のため乾く唇に、リップクリームを塗り始めた。
柴田は、その姿を恐ろし気に見つめていた。
「霧が...って、お前ら寝てるんかい!!!」
東京組のドライバー、青柳は、騒いだ挙げ句に熟睡に入ってる二人を見て、ダッシュボ
ードに入ってる非常用のウィスキーを出した。一気に半分くらい飲み干すと、少し落ち着
いた気持ちになった。
どのくらい走り続けたか分からなくなって来た頃、ズッキーのラングレーのテールランプ
が数回点滅し、ゆっくりと速度を落としていった。あたりは霧で視界がほとんど効かなく
なっていた。
路肩に車を寄せ、一同は車を降りて集合した。
「ねぇ、これ以上進むのは無理だよ。しばらくここで休憩した方がいいんじゃない?」
木村女史は、タバコに火を点けながら、そう提案した。
「いえ、御心配なく。ここが目的地なんです。ほら、あそこに見えるでしょう?」
ズッキーが指差す方向には、うっすらと、丸太作りの大きな建物が見えた。
「あれが我々が目指していた『聖なる館』です...」
続劇
[次回予告]
結局、終わらなくて3章は持ち越し
終わりに行くと長くなるのは、CBのお家芸ってか?
今回はとりあえず、YOIKO-YOIKOのネタまで
次回こそ、例の謎に突入!(の予定)
第3話その2に続く
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