"Tales of Matsumoto"

Symbol-3 : Houses of the Holy Glory Night(その2)



「あれが我々が目指していた『聖なる館』です...」
霧に浮かぶ聖なる館

「聖跡、なぁ。こんな妙ちきりんな塔、ワシは見たこたぁねーな」  管理人の山田が、例の写真を見ながら首をひねる。コテージの居間は12畳はある広々と  したもので、荷物を運び込んだ一同がビールで乾杯した直後であった。 「たぶん、この松本にあるはずなんですけどねー」  ズッキーは落胆でがっくりと肩を落とした。 「どうしてこのコテージは『聖なる館』と呼ばれているんですか?」中村嬢が尋ねる。 「うーん、じいさんの時代からここの管理人をやってるけど、昔からずっとそう呼ばれていた  みたいだな。どんないわくがあるのか、ワシにも分からんよ」  山田はのんびりとした口調で答える。ダンガリーシャツの胸ポケットからハイライトの箱を  出し、ゆっくりと火を点けた。人の良さそうなゴマ塩頭の男で、ウソをついてる様子は全く  感じられなかった。

「おや、あんたら、楽器をやるんかい?」  居間の隅に置かれていた、一行の持ち込んだギターケースを見て山田が尋ねる。 「ええ、どれも電気をつかわない楽器ですから、ご近所に迷惑はかけませんので」  本多があわてて答える。夜の楽しみに持ってきたのに、演奏禁止などと言われたらたまら  ない。 「そう言えば、20年以上前になるかな?外人さんが大勢で、ひと月近く泊まっていったこと  があってな。毎日ギターを弾いたり歌ったりして、テープレコーダーに録音してたよ」 「へー」一同は興味を示す。 「なんでも、お国の方では有名な連中らしくてな。このコテージの名前をレコードの題名に  したい、なんて言ってたよ。まぁ、いいかげんなホラ話だと思うけどな」 「...そのグループ、なんていう名前か覚えてますか?」  妙な予感がして、ズッキーがおそるおそる尋ねる。 「なんてったけな?....そうそう、レッドなんたらって言ってたっけ。  金髪のにーちゃんの声が変わっててな。キーキーとトリみたいじゃったよ」

「おいおいおい!! どーいうこったよ?これ」  山田が引き上げた後、Yasが大声で叫んだ。 「簡単よ。ZEPPのメンバーが、ここでセッションをしてたってことじゃない?」  沼田女史がこともなげに言う。 「さっき、もう一度確認してもらったんですが、時期は1970年の初頭らしいですね。  これって、『III』のリハをBron-Yr-Aurでやってる頃じゃないんですか?」  柴田の報告に、一同は言葉を失う。 「...つまり、定説ではウェールズにあると言われていたコテージが、実はここ松本に  あった訳だ。ふ〜む」  大西がようやく言葉を発する。 「やっと、つながりましたね...。  聖跡の場所はともかく、『聖なる館』の場所はここに間違いないですよ。  このコテージこそ、名作『III』を生み出した、本当のBron-Yr-Aurだったんです!」  ズッキーが目を輝かせながら言った。

 とりあえず、一同は夕食を作ることにした。  メインディッシュは、JimmyとRobertがボンベイセッションで食したと言われるエビカレー。  柴田シェフの総指揮のもと、全員が力を併せて共同作業に勤しんだ....。 「...って、少しは手伝って下さいよ!」  居間でくつろぐメンバーに、青柳が怒鳴る。   「いやいや、手伝いたいのはやまやまなんだが...」大西がギターを弾きながら答える。 「我々が手伝うと、却って足手まといではないかと思って、ね」  Yasも、家から担いできた楽譜集のページをたぐりながらギターをかき鳴らしている。 「そうそう。箸より重たいものは、持ったことがないんですよ」  本多がマンドリンを奏でながら言う。意味不明な言い訳である。 「...いいですよ。その代わり、後かたづけの方をお願いしますからね!」  こいつらには何を言っても通用しない、と青柳はあっさり諦めた。  連中に混じって沼田女史が居間でくつろいでいるのは解せなかったが、返り討ちに合うのが  怖かったので、あえて見ないフリをした。
おくつろぎ4人衆

「うまいじゃん!このカレー!」エビカレーは、マジでうまかった。 「新小岩あたりに店出しても、充分やっていけるよ、うん」  本多が2杯目を平らげながら、賞賛の声を上げる。 「ありがとうございます。お代わりいっぱいありますんで、どんどんいっちゃって下さい」 「いや〜、こんなにうまいカレー食ったのは初めてじゃ!いくらでも入るわい」  管理人の山田が、3杯めのおかわりに走る。 (なんで、このジジイが、ここでメシまで食ってるんだ?)一同は同じ言葉を飲み込んでいた。

 腹もくちた一同は、当然、飲みに入っていた。2万円分のアルコールが秒オーダーで消費  されていく景観は、圧巻の一言である。  で、酒のつまみはお馴染み! Yasの持ち込んだ『ZEPP/出せね〜ビデオ』100連発である。 「おおお!これは!」 「凄すぎる!!」 「どっからこんなものを....」 「ここはRobertばっかりなんで、先に進めましょう」 「やめて〜〜!進めないで〜〜!!」中村嬢の悲痛な叫びが響く。

 沼田女史の変化に最初に気付いたのは、弟子1号を自認する本多であった。 (妙だな? 変わったヒトだとは思っていたが、こんなに○○騒ぎをするヒトではなかったハズ  だ...) 「ほらほらほらほら!!!」ポコポコポッコン...  沼田女史はコンガを小脇で叩き、ビデオの音楽に合わせて部屋中をねり歩いていた。  Robertが画面に現れると、画面の前で一緒にエスニック・ダンスを踊る。 「やめて〜〜!! Robertが見えない〜〜!!!」落涙する中村嬢があわれであった。  
女王様、ねり歩きの図

  「沼田先生は、そんなに飲んでいるのかね?」本多は小声で横の佐々木に尋ねる。  沼田女史の常軌を逸した行動は、既に一同の知るところとなっていた。 「いえ、御自分のアンズ酒をキープしてはいますが、まだボトル半分も飲んでいません」 「ふむ、それではまだホロ酔い程度のハズだ。解せないな....」首をひねる本多。 「『もののけ』じゃな」  タダ酒をたらふく飲んでいた管理人の山田が、ゆっくりと言い放った。 「昔、土地のお姫様が浮世絵集めにハマってな。珍しいものが出たって聞くと、城を抜け出して  買いに走る有り様でのぅ。ついに雲助共にかどわかされて、命を落としたって話じゃ」 「....」沼田女史を除く一同が、山田の話に聞き入る。 「それ以来、物への執着心が強過ぎる者がおると、この姫様の霊が乗り移って悪さをするんじゃ。  このあたりじゃ『もののけ姫』と言って、恐れられておるわ」   (どこかで聞いたような名前だ....)一同は即座に心の中で思った。 「あの赤毛の娘さん、何か心当たりがあるんじゃないかね?」 「そりゃ〜、もう!」全員が、嬉しそうに答えた。

「で、どうしたら、その『もののけ』とやらを追い払えるんですか?」木村女史が尋ねる。 「さぁな。とりあえず、夜風にでもあたって、頭を冷やしたらどーじゃろか?」

 一同は、酔い覚ましを兼ねて表に出て、花火をすることにした。 「あれ、Yasさんは?」大西があたりを見回す。 「飲み過ぎでぶッ倒れまして。部屋にブチ込んでおきました」ズッキーが答えた。
ありし日のYas氏(絶唱フレディー)
 (...ったく!『もののけ』の次は泥酔かい!これも陰謀のひとつじゃないのか!)  本多は夜空を見上げながら、大きくため息をついた。

 線香花火の淡い光と火薬の匂い。それは、疲れ果てた都会の大人達に、幼い頃の夏の日々を  懐かしく思い返させる、タイムカプセルのような優しいひととき....の、はずだった。 「んな、チビチビ辛気臭い!花火ってのは、こうやるのよ!」  そう叫ぶなり、沼田女史はドラゴン花火を手に持ちながら、そのまま導火線に火を点けた。
ブッシューーーー!!!!
 吹き出す火花をものともせず、筒を持ってグルグルと振り回す。 「ほらほらほら〜!!! ファーザー・タイムよ〜ん!!! ひゅんひゅんひゅん」 「いかんな....まだ、完全にイってしまっておられる。下手に逆らわない方がいいぞ、みんな」  本多が一同に小声でささやいた。 「もっと派手なのは無いのか〜?本多〜!!」 「はい、女王様! ここに打ち上げ花火が少々」 「よーし、そこへ並べろ〜〜!ワタシが点火するのじゃ〜〜!」 「でも、このあたりは草木が生い茂ってるし、打ち上げものは火災の危険がありますから....」 「口答えするな!青柳ィ〜!!!」沼田女史のローリングソバットで青柳が沈む。  本多は電光石火の早業で、打ち上げ花火を地面に設置した。 「センセ
、着火をお願いします!」チャッカマンを捧げ持ちながら、うやうやしくひざまづく。 「よしよし」おぼつかない手つきで、沼田女史は導火線に火を点ける。
ヒュ〜〜....ドッカーーン! バリバリバリ!
「たまや〜〜」ジンを飲みながら、木村女史が叫ぶ。 「最近の打ち上げ花火ってのは、本格的なんですね」柴田が感心して、深々とうなずく。 「いーのかなー」中村嬢は不安げな表情である。 「よーし、次は宴会芸だ!おら、お前!こっち来い!」沼田女史は青柳を手招きする。 「え〜〜!」青柳は一同に助けを求める。 「青柳さん、ここは、グっとこらえて!」大西が励ましつつ、青柳を足で蹴り飛ばした。  沼田女史は嬉々として、青柳に極太のドラゴン花火を咥えさせる。 「....どうするつもりでしょうか?」佐々木が脅えた顔で尋ねる。 「見て分からんのか?! 世界に羽ばたく『電撃ネットワーク』さんの十八番じゃないか?  ね、センセ?」 「そのとーりだ、本多! よーし、そこを動くな青柳! 火ィ点けるぞ〜〜」 「フガーー!!!!!!!」

 あわや、青柳が火柱になる、その刹那である。  暗闇の中から、ひとりの子供が飛び出してきた。  闇夜にもそれとわかる金髪の巻き毛で、見た目には男の子か女の子か見分けがつかなかった。 「ちょっと、君!そこに立ってると危ないよ」  ズッキーがあわてて声をかけるが、子供は気にする気配がない。 「くぉら!! おねえちゃんの前衛芸術を邪魔するか? そこへ直れ!手打ちにしてくれる!」  沼田女史の脅しにも表情を変えず、子供は一同をゆっくりと見回している。  その時、ベンチで居眠りしてた管理人の山田が目を覚ました。  山田は子供をまじまじと見つめ、目を大きく見開いて、こう叫んだ。
「お、おぬしは....ホーリー・チャイルド?!」

続劇


[次回予告] ええ、また伸びます(笑)もう、開き直ってます。 ホーリー・チャイルドとは? 第参の教典とは? 遂に解き明かされる、聖跡へと至る謎! 次回をお楽しみに〜。
第3話その3に続く ひとつ上に戻る