"Tales of Matsumoto 2"
Symbol-1 : Together Again
長野県松本市.....。
そこはLed Zeppelinゆかりの里、日本のネブワース。
2年前、10人の使徒達が「祭典の日」を過ごしたコテージ「聖なる館」。。
ズッキー鈴木は、誰もいない「聖なる館」のバルコニーから、遥かに広がる新緑の風景を
眺めていた。
聖跡オベリスクを目指し、ZEPPマニアとして究極の快楽を体験をしたあの2日間。
やり残した「マニアとしての夢」に気付き、世俗にまみれた現世に戻って来れた使徒達。
でも「果たしてそれで良かったのか」。今でも時々疑問に思うことがある。
鈴木はあの日以来、懐かしさと少しだけの後悔を感じながら、このコテージで週末を過
ごすことが何度かあった。
確かに、出るか出ないかでファンが振り回されたPage/Plantのセカンドアルバムを
聴くことはできた。日本公演こそ延期されたものの、ワールド・ツアーが敢行されて、
マニア市場には山のように高品位の音源が出回っている。
まさかと思ったBBC音源の正規リリース。Jimmyの手によるリミックスは、数多ある
海賊盤を駆逐する程のサウンド向上を見せていた。「天国への階段」のくぐもったアル
ペジオの音は「これぞJimmyの狙ったサウンド」と、マニアさん達は騒いだものだった。
沼田先生はテレビ/ラジオに出演する文化人タレントになってしまった。
肩書きは「美人コレクター」で、楽屋には警備員が付くというVIPな待遇であるが、
実はレコード室に忍び込んでおいたをしないように見張られているだけ、という噂だ。
Yasさんは更にコレクションに磨きをかけて、Yas氏からYas師にステージ・アップして
しまった。MR.JIMMYの桜井/大塚両巨頭をバックに人前でALL MY LOVEを歌ったことで
自分を見失い、最近では「プラントのソロをバンドで演ろう」などと言い出す始末である。
柴ちゃんはYas師に続いて、顔出しNGの崇高な商売に就いてしまった。まわりは思春期
の男の子ばかりで、道を踏み外しそうで少しだけ心配している。「もう少ししたら彼らを
ZEPP漬けで洗脳してやりますよ」という言葉にも、やや危なさを感じている。
CB本多は「出張/提案の嵐」とかで、ホームページは開店休業状態だった。たま〜に
更新しているEditor's Talkの方も、食いしん坊万歳な通俗グルメ日記と化していた。
サブ青柳は転職して超忙しの営業さんになった。身入りの方はウハウハのようであり、
愛車シビックを捨てて、あろうことかBMWを買ったらしい。
最後のやつだけは許せないなと思いつつ、バルコニーからリビングに戻った。
そろそろ管理人の山田が来て、チェックアウトの時間だ。
泊まり客は鈴木ひとりであり、片付けと言っても大したことはない。
忘れ物がないかどうかリビングの中をチェックしている時、テレビの脇に1本のビデオテ
ープが置かれていることに気付いた。コテージにはビデオデッキは無いため、前の泊まり
客の忘れ物と思われる。
鈴木はケースにも入ってない裸のテープを手に取った。ノーブランドで、時間数の記載す
らない。ディスカウントショップで1本100円くらいで売られている安物と思われる。
管理人の山田に渡しておけば、必要であれば持ち主の元に戻るであろう。多少の面倒さを
感じながら、基本的に人の良い鈴木はビデオテープをテーブルの上に置いた。
その時、光の加減であろうか? テープの表面、通常はラベルを貼るスペースのところに
何か文字が書いていることに気付いた。ペンや鉛筆ではなく、爪で引っ掻いた感じである。
鈴木はメガネを人差し指でずり上げながら、殴り書きされた文字を一文字ずつ追った。
「Z」
「E」
「P」
「P」
「???? ZEPPだぁ〜????」
「沼田さん!!例のビデオ、どうでしたか?」
「ズッキーねぇ....」沼田女史はすこぶる不機嫌な声で答える。
「あたしゃ徹夜明けなのよ。朝の7時にいきなり電話かけてきて、いきなりそれはないでしょ?
まずはこう、季節の挨拶とかじゃないの?『今年はカラ梅雨ですね』とかさぁ。
それとも『いつもお奇麗で』とか『素敵なお声で』とか、色々あるじゃないの?」
「鼻声ですね。風邪ですか?」
「これは地声よ!失礼なヤツね!もう切るわよ!」
「すみません!すみません!ところで、例のビデオなんですが....」
「あー、あれね。.....うん、見たわよ(笑)。面白かったわ、とても」
「そうですか!やっぱり何かいわくのあるビデオだったんですね!」
「少なくとも、私は一度も見たことが無いわね。多分、初流出の映像じゃないかしら?」
「そんな貴重なものだったんですか!黙って持って帰るなんてマズイかなと迷ったんですが、
結局正しい判断だったなぁ!」
「ところで、あれはマスターテープなんでしょ?何で私のところに送ってきたの?」
「それがですね、あいにく私のビデオデッキが2台とも修理中でして。
それで、とりあえず沼田さんに先に見てもらおうと思いまして」
「いい心掛けね。じゃ、午後にでも送り返すから」
「あれ?ダビングしなくていいんですか?」
「内容が内容だからね〜。どうしようかな〜」
「そんなに危ない内容なんですか!僕なんかが持ってても大丈夫でしょうか?」
「そうね。ひょっとしたら、当局の手が入るかも知れないわね」
「何ですか!当局って!」 鈴木はパニックになる。
「それくらい腹をくくらないと、あのビデオを持つ資格が無いってことよ。ズッキーどうする?」
「ええええええ!!!!どーしようどうしよう......」
- 1999年6月5日 10:40AM 京王堀之内駅前-
「遅いなぁ、本多さん」サブ青柳が今日2箱目のタバコの封を開けた。
サングラス&サンダルに加え、ZEPPのメンバーの顔が大書きされた派手なTシャツ姿の
青柳は、通行人の奇異な視線を小一時間近く浴び続けていた。
「あ、来た来た!」青柳の知り合いと思われないように少し離れていたYas師が、改札口の
方向を指差した。
「いや〜すみません!ちょっと遅れたかな?」
CB本多が悠然と二人の方に歩いてきた。右手にはマンドリンのソフトケース、左手には
道中読んでいたのであろうヤングジャンプを手にし、すっかりおくつろぎムードである。
「も〜〜!!何やってたんですか!!10時集合って言ったでしょ!」
青柳がここぞとばかりに喰ってかかる。
「珍しいですね、本多さんが遅刻するなんて」相当ムっとしていたハズのYas師は、怒りを
押さえて発言する。
「ちょっとですね、よんどころのない事情がありまして。
やっぱ、都会ってところは『一寸先は闇』、ってことが判りましたよ」
全く悪びれる様子が無い本多に対し、青柳は何度目か分からない殺意を覚えた。
「しかし楽しみですな!そのビデオってのはかなりヤバいブツなんでしょ?
その上映会を『聖なる館』でやろうなんてのは、ズッキーにしてはなかなか気の効いた
趣向じゃないですか?」
「そうそう!オレもすんごく楽しみなんですよ。昨日なかなか眠れなかったスから」
本多の誘導にあっさりと引っ掛かった青柳は、一瞬で上機嫌となる。
「ところで沼田先生は?あの方も東京組で、我々と一緒に行くハズでしたよね?」
「それがね、どうもドタキャンらしいんですよ」Yas師が苦々しい表情で言う。
「え〜〜!!!そんな〜〜!!!
だって、そのビデオを持ってるのは沼田先生ご本人じゃないんですか??」
「いえ、ビデオをダビングしたやつは、今朝早くにオレのところに届いたんですよ。
こんな手紙が付いてたんですが....」
『万一私が行けなかった時のために、Yasさんにダビングしたのを送っておきます。
Yasさんだったら、このビデオを持ってても大丈夫でしょう。
でも、見たらつまんないから、松本に着くまで見ないでね。 from ぬまお』
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Swansongのロゴが入った便箋に、達筆な丸文字でそう書かれていた。
「あんまり遅いんで、さっき家に電話してウチの奥さんに掲示板を見てもらったんだけど、
『今日は行けなくなった、ゴメン!』っていう沼田さんの書き込みがあった
そうです」
「まぁ、仕方がないですな。先生がいないのでは酒席の盛り上がりに欠けるでしょうが。
じゃ、さっさと行きましょう。あ、ドライバーの青柳くん、車を出してくれたまえ!」
絶対殺す!と青柳は殺意を深めた。
続劇
[次回予告]
聖地松本を再び目指す、12名の使徒達。
BMWが爆走!!携帯オヤジ青柳!!重量オーバー・エリック!!
今回は意外にマジ展開なのか??
とりあえず、次回を御楽しみに!
松本物語II 第2話に続く