"Tales of Matsumoto 2"

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「.....んだから、今どこにいるのよ!周りに何が見える?」  青柳が携帯電話に向かって怒鳴っていた。  黒のBMWを片手で運転しながら、時々周りの車をにらみつけてる。
素敵な彼のプロフィール
 どこかで見たようなキャラだな.....助手席に座る本多は軽い既視感に襲われたが、それが  「暴力を伴う非合法な商取り引きに従事する自由業の方々」と気付いてがっくり来た。  スモークフィルムで真っ黒な窓も威圧感充分で、周りの国産車は全く近寄って来ない。  信号待ちで大きく吹かすエンジン音にあおられ、小走りに横断する老人の姿が哀れであった。


 本多が遅刻した時間を挽回すべく、青柳は休憩も取らずにひたすら運転し続けた。  結局40分程の遅れで松本市の待合せ場所に到着したが、なぜか先行組の姿は見えない。 「あ、お昼の予約しちゃったんで、とりあえず先に入っていようかなと思いまして」  携帯で明るく答えるズッキー鈴木の声に、疲労困憊の青柳はキレてしまった。
本多の野郎!40分も遅れて来やがって!  Yasの野郎!『途中で運転替わるね』はどうしたんだ!  ズッキーの野郎!なんであと10分待てねえんだ!
 
許さん!
 
許さん!
 
許さん!
 
許さん!
 
許さん!


 という訳で、車で移動中の先行組を停止させ、青柳は必死に追いつこうと懸命になっていた。  携帯電話で停止位置を確認しているのだが、鈴木の説明は全く要領を得ない。 「....え〜とですね、ビルが一杯あります」 「そりゃあるかも知れないけどよ!どんなビルだって言ってるんだよ!」 「キレイなビルですね。あ、通り過ぎちゃいました」 「停まってないんかよ!いいからその場所に停まれって!」 「だって、交差点の中なんですよ。  『交差点の中に停車した者は、罰金2000円以下か市中引き回しの上獄門に処す』  って決まってませんでしたか?」 「どこの自動車学校で習ったんだよ! いい!もう、中村と話す!」  青柳はズッキーとの不毛な会話を諦め、埼玉組の車に乗っている中村嬢の携帯を鳴らした。 「あ、中村さん?今ね、キミの周りに何が見えるのかなぁ〜?」猫なで声で青柳は尋ねる。 「え〜とねぇ....ビル!とってもキレイなビルですよ〜」



 鈴木に優るとも劣らない不毛なやり取りを繰り返し、ようやく一同に会することができた。 「みなさん、今日は遠い所をお集まり頂きまして、大変お疲れ様でした」  一同がそば屋の座敷に腰を落ち着けた頃、鈴木が咳払いをして話し出した。 「まずはこの名店『深志門』さんで、長野名物手打ち蕎麦の神髄を心からよく味わって.....
って、やっぱり誰も聞いちゃいねぇ!
「おらおらおら〜〜〜!!!!」
 蕎麦のオーダーもそこそこに、昼間っからビールをあおる面々。恒例となった光景である。  やがて運ばれて来た蕎麦も、味わう間もなく胃袋に直行となる。
手打ちそば「深志門」にて

「....さて、腹もくちたところで、今回の趣旨でも説明してもらおうか?」  オヤジ・モードで爪楊枝をシーシーいわせながら、尊大に本多が話を振る。 「えーとですね。メール等でも概要はお伝えしたんですが、改めてご説明します。  実は私こと鈴木めが、Led Zeppelinの非常に貴重な映像を偶然にも入手致しまして。  ご存知沼田大先生にご鑑定頂いたところ、これはもう、一般庶民の目には触れさすこと  はできない幻の逸品と御墨付きを頂いた訳でして。  そこで、ZEPPマニアの中でも群を抜いて変わった皆様方にですね....」 「今のところ、よく聴こえなかったぞ!」Yas師が鋭く突っ込む。 「失礼、造詣の深い皆様方にですね、是非ともご覧頂きたいと、こう思いまして」

   というのは表向きの話で、実は自分独りで見る勇気が無かったからであった。  「連中と一緒なら、自分にかかる災いも少なかろう」というのが鈴木の打算である。

「なんでも、トレードできないくらい危ない映像だって話じゃない?  そんなの私達が見て、ホントに大丈夫なの?」中村が鈴木にお約束のキツイ言葉を投げる。 「ご心配なく!そういうこともあろうかと、私、仕込んで参りました」  本多はバッグからゴソゴソと紙袋を取り出し、その中から一同に何物かを配り始めた。 「こ....これは!!」ビート佐々木改め、ビスタライト佐々木が目を輝かせる。 「護符です」本多がキッパリと言い放つ。  一同の手には、前回の松本大会で使徒の命を守ったあの護符が握り締められていた。 「今回も、やんごとなき方々の念をたっぷり込めてもらいました。  これで、どんなに危ないお宝であっても、我々に罪が及ぶことは無いかと思います」 「あのぉ、先生、いいですか?」 「はい、青柳くん」なぜか学校コントのモードに移行している。 「オレの気のせいでしょうか?これってケースだけで、護符の中身が入っていないように  見えるんですが.....」 「青柳!歯を食いしばれ!」言い終わらない間に、本多の平手打ちが炸裂した。 「お前の心がすさんでいるから見えないんだ!この護符は、言わば『魂の写し鏡』!  ZEPPを本当に愛する心があれば、自然とその本当の姿でみょ〜んと見えてくるものだ。  ねぇ、Yasさん?ちゃんと見えますよね?」 「え?....ああ!見えます見えます。って言うか〜、素晴らしいデザインですね!  ねえ、近江さん?」 「あ?....そうそう!私もはるばる大阪から出て来た甲斐があったゆうもんですわ」  一同は深々と何度もうなずき、首から下げた護符をうやうやしく捧げ持った。  青柳も鼻血をぬぐいながら、みんなと同じポーズを渋々取っていた。

 いや〜、まいったまいった。  護符の中身は沼田先生に持ってきてもらうハズだったからなぁ....。  青柳さんには悪いことをしたが、この場は丸く収まったので良しとしよう。  確かに危ないブツらしいが、まぁ、護符なんか無くても大丈夫だろう。  何にしろ、単純な連中で助かった....。  本多は心の中でつぶやいた。

「そ、それじゃ、買出しに行きましょう!みなさん、忘れ物の無いように....」  鈴木の言葉を合図に、一同はそそくさと店の出口に急いだ。




続劇

松本物語II 第3話に続く