西南海観光鉄道
私説・乗工社盛衰記

・最盛期へ(04/03/07補訂)
 輸出製品を主業務としていた乗工社ですが、TMS誌の90年9月号に1ページの全面広告を出します。その広告で、

 永らくご不便をかけましたが本年度より当社は本格的に日本型の製品を復活いたします。HOe製品は品切再生産に加え、新製品を順次お届けします

と宣言しました。とれいん誌の同月号にも小さいですが同様の広告が載っています。

 この広告通り、乗工社は90年代、実に精力的に製品を送り出します。パワーユニットを使った「エコノミーシリーズ」のSLやDLも種類が増加。ナローといえどもある程度長い編成を安価に楽しめるよう、木曽森林鉄道の運材車や、なべとろ(鉱石運搬車)を廉価なプラ製で発売し、改めてナロー市場の底辺拡大に努めました。床板を省いた一部の製品が不評を買いましたが、木曽シリーズの客貨車も抑えた価格帯で送り出しています。一方で、頸城鉄道や井笠鉄道、静岡鉄道駿遠線、草軽電鉄など代表的な軽便鉄道の車両の本格的な製品も発売が相次ぎました。井笠鉄道1号機や頸城鉄道2号機(いずれもコッペル)、木曽ボールドウィン、丸瀬布21号などの細密なディテールと安定した走行を誇る蒸機は、乗工社の技術の集大成といえるものではないでしょうか。完成品では、塗色違いのヴァージョンや、木曽や草軽、西武山口線の機関車、客貨車を編成したセットものを出すなどバラエティに富んだ製品展開が見られました。また、輸出品の製造で得た「シンガーフィニッシュ」という技法で、屋根や台車などに実感的な汚れをつけた完成品も送り出しました。

 ただ、初期製品群で重点を置かれていたといえるストラクチャーは、給水槽やデッキガーターがある程度で、新たな展開は見られませんでした。また、販売は小売店だけで、通信販売も中止していました(輸出品のフェロー・スイス製品について、一時期、直販を告知する広告がありました)。製品案内も雑誌広告での告知のみに徹し、創業期に見られたユーザーとのコンタクトに対する積極性が薄まったように思われます。


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