西南海観光鉄道
私説・乗工社盛衰記

・新展開
 乗工社はTMS誌75年7月号に、初めての自社単独の広告を出稿し、ショールームの開設や通販の開始など積極的な事業展開を進めます。76年暮れには、Nゲージ機関車の下回りを利用してナローの機関車を簡単に作ることができるエッチング板のキャブセット(SL、DL、ELの3種を1セット)を発売。さらに翌77年秋、新たな路線に踏み出します。瞬間接着剤で組める真鍮製のボディにプラ製フレームの動力装置「パワーユニット」(PU)を備えた簡便なキット「ポーター亀の子」(4,800円)の発売です。小さなスペースでレイアウトを実現できる利点からナローゲージの人気が高まりつつあった当時、唯一のネックは日本型車両の少なさでした。乗工社はそのネックを解消すべく登場したのですが、それまでの製品は素人や初心者にはなじみの薄い真鍮の半田付け工作が要求されたうえ、価格も普及的とはいえませんでした。乗工社がACC(瞬間接着剤)シリーズと称し、ACCで組み立てられる車体とPUを組み合わせた製品展開に乗り出したのは、安価で簡単に取り組める製品を送り出すことでファンの期待に応えるとともに、ナロー市場の拡大という経営上の必要もあったのでしょう。また、木曽森林鉄道の車両図面集「軽便の譜」、頸城鉄道などの車両図面集「軽便の譜Vol.2」(いずれも87.PRECINCT著)も発行し、引き続きナローゲージモデリングのあり方についてメッセージを送り出しています。

 「ポーター」で使用されたパワーユニットは後に分売されました。ロッド類などの細部の造形を犠牲にしているうえ、走行性能の調整が難しく、モーターや伝動機構、集電能力の限界から低速がきかないため、「ロケットスタート」とも揶揄されました。しかし、パワーユニットの分売や、その後続いたボギー車の動力装置や床下機器、アーチバー台車などのパーツ分売は、自作派の要求にも応えようという努力であったといえます。一方で、多くの小売店がキットを組み上げた完成品を「特製品」として発売しており、乗工社の日本型軽便車両の完成品を求めるユーザーが一定層存在していたこともうかがえます。


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