西南海観光鉄道
私説・乗工社盛衰記

・鉄道風景
 乗工社の次なる新製品はストラクチャー群でした。TMS誌75年5、6月号の広告(珊瑚模型店)によると、給水塔、機関庫、駅本屋・待合室、詰所・大小倉庫の4種類(いずれもペーパー主体のキット)が発表されています。初期製品群にストラクチャーが加わったことは、乗工社の創業理念と深く結びついていると思われます。その源流をたどると、73年の1年間、TMS誌に8回連載された「DACHS STORY」という記事に行き当たります。この記事は、理想とするナローゲージの鉄道風景を「心象鉄道」と呼び、車両、ストラクチャー、シーナリィ、運転のバランスをとりながら、その風景を実感的に再現する試みであり、提案でありました。記事を発表したグループ87.PRECINCTの設計、企画で、珊瑚模型店から「DACHS」と名付けたナローの蒸機も発売されました。また、連載の最終回に収録されたあとがきには、続く車両、レイアウト用品の製品化にも触れており、乗工社の創業は87.PRECINCTの活動の延長と見なすことができます。それは、87.PRECINCTの主要メンバーと乗工社に密接な関係があることからも推察でき、製品群にストラクチャーを加えることは、「DACHS STORY」で示された理念を追求するならば自明のことだったのでしょう。

 TMS誌6月号の「製品の紹介」ページで取り上げられた際には、これらのストラクチャーを使った87.PRECINCT制作のレイアウト・セクションも紹介されました。後には、トンネルポータルやポイント転換機、窓枠・戸のセット、ターンテーブルを発売。セクション用の台枠が通販限定で発売されたこともありました。さらに、「ナローゲージ モデル&ジオラマ」(乗工社編著、企画室NEKO刊)や「軽便鉄道 レイアウトの製作」(87.PRECINCT著、機芸出版社刊)などの発行を通じて、乗工社は自社の車両製品を、購入者それぞれの「心象鉄道」を再現したレイアウトやジオラマの中に置いてほしい、という強いメッセージを発していたと解釈できます。


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