人称代名詞

CONTENTS



■はじめに


■例文と語訳


■文法と解説


■よく使う敬称


■トリワンソの見分け方

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●目 次


●第0回
 バリ語とバリ文化


●第1回
 発音と表記法


●第2回
 挨 拶


第3回
 人称代名詞


パ・デソと学ぼう、バリ語の基礎
第3回「Tiang saking dija Jepun
〜人称代名詞」

<プレビュー版>

■はじめに

 前回は基本的な挨拶の仕方を学びました。今回は、人称代名詞や敬称を使って、もう少し本格的な挨拶の仕方を学びます。

■例文イタリックの箇所がバリ語です)

Pada suatu hari Pak Desa membaca buku di teras dengan rumahnya.
Kemudian, I Nyoman datang ke situ bersama-sama tumannya.
Nyoman: "Selamat siang, Pak Desa. Ada waktu sekarang?"
Desa: "Selamat siang, Man. Aku ada waktu".
I Nyoman memperkenalkan tumannya kepada Pak Desa. Mungkin dia lebih muda daripada Pak Desa.
Nyoman: "Yan, dia bisa berbahasa Bali sedikit saja".
Wayan: "Napi orti, pa?"
Desa: "Becik-becik. Napi orti, pa?".
Wayan: "Becik. Jero saking dija?"
Desa: "Tiang saking dija Jepun, pa".
Pada waktu itu, ayah Nyoman memontong dekat tiga orang.
Wayan: "Napi orti, pa?"
Ayah Nyoman: "Becik. Kenken?"
Wayan: "Becik. Lenga kija, pa?"
Ayah Nyoman: "Icang luas kaja".
<和訳>
ある日、パ・デソは、部屋のテラスで本を読んでいました。
すると、ニョマンが友人を連れてきました。
ニョマン:「こんにちは、パ・デソ。今暇かい?」
デソ:「こんにちは、マン。暇だよ」
ニョマンはパ・デソに友人を紹介しました。パ・デソよりも若いようです。
ニョマン:「ヤン、この人は少しバリ語ができるよ」
ワヤン:「ご機嫌いかがですか?」
デソ:「変わりありません。あなたは?」
ワヤン:「変わりありません。どちらからいらしたのですか?」
デソ:「日本から来ました」
その時、ニョマンの父が三人の横を通りました。
ワヤン:「おじさん、ご機嫌いかがですか?」
ニョマンの父:「元気じゃよ。君は?」
ワヤン:「変わりありません。どちらへお出かけですか?」
ニョマンの父:「北じゃよ」

■文法と解説

 簡単な会話なので分かりにくいですが、ニョマン以外の三人の言葉遣いに注意してください。初対面のワヤン君とパ・デソは「普通語」+敬称、ワヤンからニョマンの父親に対しては「丁寧語」、ニョマンの父からワヤンへは「低位語」(目上から目下に話す言葉)がそれぞれ使われています。ここには身分の高い人は登場しないので、「尊敬語」は使われていません。
<人称代名詞>
 前回の会話では、一部を除き「人称代名詞」を用いませんでした。宿の人や知人と気軽に挨拶を交す程度なら、必要ないと考えたからです。しかし、面識のない人と挨拶したり、他の会話をしたりする場合には必要です。
人称代名詞は、いずれも単数・複数とも同形です。
一人称:「ぼく、わたし」「ぼくら、わたしたち」
  (普通)tiang ティアン
  (粗雑・低位)icang イチャン「俺、俺ら」
  (丁寧、中間)tiang ティヤン
  (尊敬)titiang ティティヤン
 一人称は、最も標準的な「tiang」を使うのが無難です。
二人称:「君、あなた」「きみたち、あなたたち」
  (普通・目下の男性に対して)cai チャイ
  (普通・同上だが粗雑)iba イボ「お前、お前ら」
  (普通・目下の女性に対して)nyai ニャイ
  (丁寧・面識のない人に対して)jero ジェロ
  (尊敬)ragane
      i ratu イ・ラトゥ(男性)、ayu アユ(女性)の方
      が一般的。
 厄介なのは、相手の地位や称号、位階(所謂カースト)によって呼びかけ方が変わることです。目上の人に対しては、「普通語」に敬称を添えるか、敬語を用います。これについては、次節の<よく使う敬称>をご覧ください。
三人称:「彼、彼女」「彼ら、彼女ら」
  (普通)ia イオ
  (丁寧)ipun イプン
  (中間)dane ダネ
  (尊敬)ida イダ
では、会話を練習してみましょう。
「(私は)パサールへ行きます」(インドネシア語"Saya pergi ke pasar".)
"Icang luas ka peken".(ka=keの発音)(普通)
"Tiang lenga ring pasar".(丁寧)
"Titiang lenga ring pasar".(尊敬)
「(あなたは)お寺へ行きますか?」(インドネシア語"(Anda) pergi ke pura?")
"Cai luas ka pura?"(ka=ke)(普通)
"Jero lenga ring pura?"(丁寧・面識のない人)
"I ratu lenga ring kayangan?"(尊敬)
(kayangan=ka-Hyang-an=神のおわす所=お社、お寺)
「彼は、本を読んでいます」(インドネシア語"Dia membaca bukunya".)
"Ia paca (baca/maca/mamaca) bukune".(普通)
"Ipun (nga)wacen kitabe".(丁寧)
"Ida (nga)wacen kitabe".(尊敬)
"Ida bawesin (mawesin) cakepane".(尊敬)
(彼は、ロンタルを読んでおられる=少し古風な言い回し)
<よく使う敬称>
 インドネシア語と同様、敬称で呼びかけたり、文末に敬称を添えたりすると、より丁寧になります。よく使う敬称には次のようなものがあります。まず、普通の人に対するものからです。
(ba)pa(バ)ポ=目上の男性、既婚の男性、または同等・目下でも敬意を表したい男性に対して。省略形でも失礼にはなりません。
(i)bu(イ)ブ=目上の女性、既婚の女性、または同等・目下でも敬意を表したい女性に対して。省略形でも失礼にはなりません。
beli ブリ=同年配か、少し年上の男性に対して。初対面の人には、pa/bapa を使った方が無難です。
mbok ンボッ=同年配か、少し年上の女性に対して。初対面の人には、bu/ibu を使った方が無難です。
adi アディ=目下の男女に対して。初対面の人には、pa/bu を使いましょう。
cening チュニン=男女を問わず子供に対して。
de デ=男の子に対して。
luh ルー=女の子に対して。
(pe)kak(プ)カッ=おじいさんに対して。北部バリでは kaki カキ または wayah ワヤー。
(da)dong(ダ)ドン=おばあさんに対して。
 バリやインドネシアでは、若い人に 「pa」「pak」とか 「bu」 とか呼びかけても全く構いません。これは、「年長者が尊ばれ」「年長者を敬う」文化的な下地があるからです。たとい、相手がパサールのおばちゃんで、こちらが客であろうと、この原理が優先されます。降車ベルの付いていないベモでは、運転手に降りる意思表示をしますね。注意して聞くと、学生等は「ストッパ」(Stop, pa(k)!)と言っているのが分かります。これが堂々と言えるようになれば、バリ人に一歩近づいたかもしれません。
 また、親しくないうちは「pa」「bu」を使い、親しくなるにつれ「beli」「mbok」を使うのがエチケットですが、同年配の友人から「この人は、"beli Oka" です」などと紹介された場合は、初めから使うことができます。ともかく、普段その人が何と呼ばれているかを的確に知ることが重要です。
 ちなみに、パ・デソ(Pak Desa)の Pak はバリ語で、bapa と同じ意味ですが、主として物語や架空の話の中で使われます。
 トリワンソ(身分の高い人)に対する敬称については、以下を参考にしてください。用語を間違えると、丁寧に言ったつもりが、かえって無礼に当たるので、注意が必要です。特に、「おじいさん」に対しては、中部と北部とでは用語が逆になるので、ブレレンへ行く人は注意してください。
bapa に相当する人、既婚者=i ratu イ・ラトゥ(ブラフマノ)、gusti グスティ。
ibu に相当する人、既婚者=ayu アユ、dayu ダユ(ブラフマノ)。
beli と mbok に相当する人、独身=raka ラカ。
adi に相当する人=ari アリ、rai ライ。
(pe)kak(おじいさん)に相当する人=中部バリでは kakiang カキヤン、北部バリでは pekak プカッ、ブラフマノに対しては kakiang カキヤン。
(da)dong(おばあさん)に相当する人=クサトリヨおよびブラフマノに対しては niang ニヤン、それ以外の低位のトリワンソに対しては nini ニニ。

■トリワンソの見分け方

 どこの国でもそうですが、特権階級の人は、些細なことにこだわるようです。インドネシア語で bapak と呼ばれて平気だった人が、バリ語で会話していて bapa と呼ばれたことに怒りを露わにすることもありえます(実話)。次の点を参考にして、要らぬトラブルを引き起こさないようにしましょう。
  • 素性の分からない初対面の人とは、バリ語で話さない
  • 敬語が使えないうちは、トリワンソとはバリ語以外で話す。地域によりますが、トリワンソの人口比率は全体の10パーセント程度です。
  • トリワンソの人から、バリ語を習う。その代わり、コテコテの尊敬語を仕込まれる可能性があります。
  • 他のバリ人からどのように呼ばれているかを知っておく
 もし彼/彼女が、ワヤン、マデ(カデ)、ニョマン、クトゥットと呼ばれていれば、普通の人です。
 もし、上の四つ以外、例えば、イダ・バグス、イダ・アリット、イダユ、イダ・アユ、ダユ、プトラ(以上ブラフマノ)、チョコルド、アナック・アグン、コンピヤン(お年寄りに多い)、オカ、ラカ、ライ、アノム、グスティ、プトゥなどと呼ばれていたら、トリワンソです。
 これらは、名刺や店の看板などに書き込んであるので、簡単に見分けられます。私の友人には「イ・グスティ・ニョマン・プトラ」などとややこしい人も時々いますが、一語でもトリワンソの称号が入っていれば、トリワンソです。
念のため、次の表現(インドネシア語)を覚えておくとよいでしょう。
"Saya masih kurang pandai berbahasa Bali. Minta maaf, kalau saya berbuat salah".
(私はまだバリ語が下手です。もし間違えたら許してください)
 なぜバリ語で言わないかというと、もちろんその言葉自体が間違っていたり、通じなかったりするのを避けるためでもありますが、それ以外の理由もあります。
 インドネシア語の "bisa berhahasa Bali"(バリ語が話せる)をバリ語普通体では "bisa mabasa Bali" と言いますが、「バリ語が話せる=敬語が使える」という意味を含み、「敬語が使えない=バリ語が話せない」ということになります。単に、「バリ語が話せる」という表現はないのです。

 今回も、ややこしい話に始終してしまいました。次回からは普通の文法と会話だけにします。

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