パ・デソと学ぼう、バリ語の基礎
第1回「バリ語の発音と表記法」
<プレビュー版>
■はじめに
- バリ語の発音は、隣の島で話されているジャワ語や、ムラユ語=マレー語(インドネシア語、マレーシア語)に似ています。
- アルファベットはインドネシア語(1974年新制綴字法)に準じています。( )内の音はバリ語にはありません。
大文字 |
小文字 |
呼び方 |
大文字 |
小文字 |
呼び方 |
A |
a |
a(アー) |
N |
n |
en(エン) |
B |
b |
be(ベー) |
O |
o |
o(オー) |
C |
c |
ce (チェー) |
P |
p |
pe(ペー) |
D |
d |
de(デー) |
(Q) |
(q) |
ki(キー) |
E |
e |
e(エー) |
R |
r |
er(エル) |
(F) |
(f) |
ef(エフ) |
S |
s |
es(エス) |
G |
g |
ge(ゲー) |
T |
t |
te(テー) |
H |
h |
ha(ハー) |
U |
u |
u(ウー) |
I |
i |
i(イー) |
(V) |
(v) |
fe (フェー) |
J |
j |
je (ジェー) |
W |
w |
we (ウェー) |
K |
k |
ka(カー) |
(X) |
(x) |
|
L |
l |
el(エル) |
Y |
y |
ye (イエー) |
M |
m |
em(エム) |
(Z) |
(z) |
zet(ゼット) |
■発音
<母音>
- 「a」:(1)日本語の「ア」とほぼ同じ音です。(2)「〜へ」を意味する「ke」や、接頭辞(ka-, ma, pa-など)の「a」、最終音節から二つ前(nagaraなど)にある「a」は、「e」(曖昧母音)と発音します。(3)最終音節にある「a」は、ほとんど「o」ないしは「e」(曖昧)と発音します。日本語の「エ」よりも口を大きく横に開けて「オ」と発音すると近くなります。本講座では、これを「a」と太字で表記します。これを「e」と発音するように解説した文法書もあり(バリでは、著者の出身地により書き方が異なることがある)、現地で実際に会話をする人の発音を聞いて確認してください。いずれにせよ、「a」と発音しないことでは同じです。
- 「e」: バリ語で最も重要で、注意すべき発音です。日本語の「イ」または「エ」の口をして(口を大きく横に開いて)、「ウ」と発音すると近くなります。インドネシア語の「e」(曖昧母音)と同じ発音です。
- 「e」: 日本語の「エ」よりも大きく横に開けて発音します。インドネシア語の「e」と同じです。たいがいの辞書では、「e」の上に「'」(ダッシュ)が付いています。
- 「i」: 日本語の「イ」よりも口を大きく横に開けて発音します。インドネシア語の「i」と同じです。
- 「o」: 日本語の「オ」よりも口をつぼめて突き出すようにして発音します。
- 「u」: 日本語の「ウ」よりも少し口を突き出すようにして発音します。
<子音>
- ほとんどがインドネシア語の発音と似ています。
- 「b」: 日本語の「バ」行と同じ音です。
- 「c」: 日本語の「チャ」「チュ」「チョ」に似た音です。
- 「d」: 日本語の「ダ」行と同じ音です。
- 「g」: 日本語の「ガ」行に近い音です。音節の最後の「g」は「k」に近い音(声を出さない)で発音します。
- 「h」: 音節の最後にある「h」は、日本語の「フ」ではなく、「ハァ」と溜息を付くときのように発音します。母音を伴なうとき(haなど)、「h」はほとんど発音しません。現代バリでは、「h」音はほとんど消滅しています。インドネシア語の「sudah」を大半のバリ人は「suda」と発音するのと同じです。
- 「j」: 日本語の「ジャ」「ジ」「ジュ」「ジョ」の音です。
- 「k」: 音節の最後にある「k」はほとんど発音しません。母音を伴なうとき(kaなど)は、日本語の「カ」行の発音と同じです。
- 「l」: 舌先を上の前歯のつけ根あたりに当てて発音します。
- 「m」: 日本語の「マ」行と同じ発音です。音節の最後の「m」は口をしっかり閉じます。
- 「n」: 母音を伴なうとき(naなど)は、日本語の「ナ」行と同じ音です。子音のみの「n」は「ン」の発音に近い。どちらも、舌先は上の前歯のうらに付けます。
- 「ng」:(1)音節の最後にある「ng」、例えば「ring」は、まず「リ」と発音してから「ン」と鼻から息を抜くように発音します。(2)母音を伴なうとき(ngaなど)は、鼻濁音(日本語東京方言)の「ガ」行に近い音になります。
- 「ny」: 日本語の「ニャ」「ニィ」「ニュ」「ニョ」の音です。
- 「p」: 日本語の「パ」行の音です。音節の最後にある「p」は、日本語の「プ」ではなく、「p」のところで口を閉じます。
- 「r」: 巻き舌音。舌を巻いて「ル」と強く発音すると近くなります。
- 「s」: 日本語の「サ」行と同じ音です。
- 「t」: 舌先を歯で少し噛むようにして発音します。音節の最後にある「t」は、日本語の「ト」ではなく、「t」のところで舌先を歯で少し噛むようにして発音します。
- 「w」: 日本語の「ワ」行と同じ音です。
- 「y」: 日本語の「ヤ」行と同じ音です。
■補註
- 1974年3月18日付のインドネシア共和国教育文化相発令により、ラテン式バリ語綴字法が制定されました。上述した発音の解説はそれに基づいたものです。ここでは少し専門的な注意点を記しておきます。1974年以前にバリ語で発行されたされた出版物を読むには、以下の知識が必要になります。
- 以下の綴りは、以前は存在しましたが、現代バリ語にはありません。
「dh」:舌先を上の前歯のつけ根あたりに当てて発音します。インドネシア語の「d」と同じ発音です。例:Buddha>Buda(ブッダ、仏)
「th」:舌先は「dh」と同じ位置にします。インドネシア語の「t」と同じ発音です。例:tirtha>tirta(水=尊敬、聖水)
「dh」は「d」に、「th」は「t」にそれぞれ置き換えられましました。
ただし、あくまでも表記上の規定であり、実際の会話からこれらの音が消滅したわけではないので、注意してください。
- 以下の音はバリ語にはなく、外来語の音です。
「f」「kh」「q」「sy」「v」「z」
「f」は主として「p」に、「kh」と「q」は「k」に、「sy」は「s」に、「v」は「w」に、「z」は「j」にそれぞれ置き換えられました。
例:trivansa>teriwansa「三つの貴族階級」(サンスクリット語から)、zaman>jaman「時代」(アラビア語からムラユ語を経て)
- インドネシア語とマレーシア語は、起源を同じムラユ語(Bahasa Melayu、マレー語)としながら、独立前の宗主国(オランダ、英国)の違いから表記法が異なっていました。その後、インドネシア・マレーシア両国間に共通綴字法が制定されました。バリ語などインドネシア各地の民族語もそれに倣っています。そこで、1972年8月17日以前にインドネシア語で発行された出版物を読むには、以下の知識が必要になります。
左が古い綴字、右が現行の綴字です。
「oe」>「u」(例:Oeboed>Ubud「ウブッド」)
「ch」>「kh(例:chusus>khusus「特別な」)
「dj」>「j」(例:Djawa>Jawa「ジャワ」)
「j」>「y」(例:Jogjakarta>Yogyakarta「ヨクヤカルタ」)
「nj」>「ny」(例:njonja>nyonya「夫人」)
「sj」>「sh」(例:sjarat>syarat「約束」)
「tj」>「cs」(例:ketjak>kecak「ケチャ」)
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