藤子漫画で平和になろう!

 藤子な瞬間特別編2 


週刊FFMM 120号(2002/01/09)より



※戦争反対を訴える藤子作品を紹介します。
 今週は【古田真也】氏のオススメ作品です。
(あなたのオススメ作品がありましたら fujiko-adm@y7.net まで!)

▼その10『エスパー魔美』「黒い手」

あらすじ

交通事故で子どもを死なせた若者が刑期を終えて出所した。その彼の前に、怪しい男が現れ、指を見せた。その男は毎日現れ、見せる指の数は1本ずつ減っていった。その男は死んだ子どもの父親、指の数が0になるのは事故の日、すなわち子どもの命日。若者は、その日に父親が自分に復讐するつもりだとおびえる。

▼米軍などの攻撃によるアフガニスタンの民間人の死者が、昨年9月の事件での死者数を上回ったとか。まったく、新年早々胸やけのするようなニュースが入ってきます。今回は、このテロとその後のアフガニスタンへの攻撃を、エスパー魔美の「黒い手」と重ね合わせながら考え直してみたいと思います。

 配役は、アメリカが子どもを亡くした父親、テロの犯人とその親玉とアフガニスタンのタリバン政権の三者が若者です。

 子どもを亡くした父親は、その犯人が早くもこの社会に戻ってきた事に憤りを感じ、復讐をたくらみます。多くの犠牲者を出したアメリカは、その犯人を憎み、実行犯は既にいないので親玉(と目される人物)に、さらにその人物が身を寄せる国に怒りの矛先を向けます。
 若者は、黙って復讐の日を指で示す父親に思いとどまるよう頼みますが、父親は聞く耳を持ちません。アフガニスタンのタリバン政権は、事件の親玉(と目される人物)を引き渡す条件を示しますが、アメリカは聞く耳を持ちません。
 若者は仲間とアパートの一室で、父親の理不尽さに怒りつつ返り討ちにしようと画策します。アフガニスタンはアメリカが提示した条件があまりに理不尽だったため、戦わざるを得ませんでした。
 父親はとうとう若者を刺し、復讐を果たしました。しかしその瞬間、正気に返ったのでした。アメリカはとうとうアフガニスタンへの攻撃を始め、多くの犠牲者を出しました。しかもまだ攻撃を続けています。「魔美」でいえば、若者の仲間を殺し、なおナイフを手に若者を探しているようなものでしょうか。
 父親が刺した若者は、実は魔美と高畑が用意した人形でした。それを知った父親は、改めて若者を殺そうとすることなく黙って去っていきました。ここが「魔美」と現実で大きく違う部分です。現実には魔美と高畑に相当する役割を果たす国はありませんでした。

 もし「黒い手」で魔美と高畑が何もしなかったらどうなったでしょう。父親は復讐を果たしたか失敗したか。いずれにしても殺人か殺人未遂の犯人となります。もしかしたら若者達に返り討ちにされたかもしれません。誰一人として救われていません。これが今の現実世界。
 魔美と高畑のお節介があったからこそ、若者も父親も怪我一つなく、また殺人犯になることもなかったのです。この魔美と高畑に相当する役割を果たす人、または国が存在しなかったこと、とても残念に思います。自分がその役割を果たせなかった事も無念です。「自分が」なんて思うのはかなりの思い上がりですけどね。

 魔美の頬を伝ったのは「汗か涙か」でしたが、私の頬を伝うのは間違いなく涙です。(古田)

【関連リンク】

▼「日・パ旅行社」、アフガニスタンの隣国パキスタンで駆け回るオバハンの「緊急レポート」
「日・パ旅行社」

▼作家、池澤夏樹さんのコラム「新世紀へようこそ」

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