わからんちん映画

12月26日(木)
 今朝は早く起きる。とはいっても九時過ぎだが。しゃあさんに叩き起こされた。またビールわらしが出没したらしく、昨晩あんなに買ったビールはすべて消え、冷蔵庫にはミロだけが空しく残っている。
 朝食の席では、しゃあさんが見たこともないでかい容器にたっぷりお粥を入れてすすっていた。四人前のスープを入れるような巨大なお椀。どうやらしゃあさん、ウェイターに命じて特別の容器を持ってこさせたらしい。

 そのまま午後まで睡眠……といきたかったが、しゃあさんに無理矢理連れ出される。そう、今日は映画鑑賞の日。日本未公開の「ロード・オブ・ザ・リング2――二つの塔――」が、こちらでは公開されているのだ。指輪マニアのしゃあさんは、上映時間を前日から確認してまではりきっているのだ。
 マーブンクロンセンターの七階にあるシネマコンプレックスで券を購入する。ひとり百二十バーツ。しゃあさん、チラシをもうひとつもらえないか交渉して断られていた。
「もうひとつ貰って、ヤフーオークションに出してボロ儲けしようと思ってたのに……」
 よしなさい。

 二十五日に封切りした直後とはいえ、平日の午前だけあって、四割程度の入り。映画上映前にみんな立ち上がるので、なにかと思ったら、国歌をBGMに国王のお姿上映が行われていたのだ。タイの人は王室を尊敬しているからね。じっさい、五年ほど前のクーデターのとき事態を収拾したのは国王だったし、天皇家とは違って実質的に機能している存在なのだ。
 映画に関しては、あまりにネタバレが過ぎるので別ページに。二月の日本公開のとき鑑賞する予定の人はお読みにならない方がいいかと存じます。あまりにあんまりな勘違いをしでかしていた、とだけここでは申しておきましょう。

 映画の上映時間が三時間を超えていたので、出たのはもう夕方に近かった。もうメシ食ってホテル帰って呑んじゃお、と衆議一決した怠惰なふたり。
 映画館の前で「きゃあ!」と叫んでなにか拾い上げたしゃあさん。それはいま見たばかりの、ロード・オブ・ザ・リング2のパンフレットだった。それを拾ったしゃあさんの顔は、喜びの笑顔に満ち満ちていた。タバコのオマケに時計をもらったときと、お粥を食べているときだけに見せる完璧な笑顔である。満面の笑顔パート3。
「これ、ヤフーオークションに出してボロ儲けするんだー」
 よしなさい。

 マーブンクロンセンター六階のクーポン食堂へ行く。ここはだだっ広い構内に椅子とテーブルが並び、それを取り囲むようにしてラーメンやぶっかけ飯や各種おかずやジュースなど数々の屋台が並ぶ、いってみれば屋台村のようなところである。入り口のクーポン売場でお金をチケットに替え、そのチケットで屋台に支払う。帰るときに余ったチケットは換金する(換金率100%)。ただし前日に使ったチケットは翌日になると使うことも換金もできない。
 ここでバーミーナムを食う。まあラーメンみたいなもの。黄色い縮れ麺は、茹ですぎて少々頼りないが、ぷーんと匂うカンスイの香りがチープでよい。スープは薄味のトリガラスープでおいしい。これにナンプラーや唐辛子や砂糖を入れてアクセントをつける。モヤシトッピング取り放題なのがうれしい。二十五バーツ。しゃあさんは牛肉を甘辛く煮込み、そのスープで米麺を食べる、かなり濃厚なものを食っていた。濃厚だが脂っこくはない。
 さらに持ち帰り用にいろいろ買う。でかい揚げ餃子六つで四十バーツ、春巻き四本三十バーツ、フライドチキン三十五バーツ、豚煮込みぶっかけ飯四十バーツ、ソムタム(パパイアの辛いサラダ)三十五バーツ。もちろん、下の東急でビールも買う。今日はさらにメコンというタイのウィスキーもどきとソーダも買う。

 時間もやや早いがさっそくホテルで宴会。
 揚げ餃子はみっちり肉がつまっていて美味。春巻きはどうってことなく、フライドチキンはやや期待はずれ。ソムタムはまあまあだが、もうひとつアクセントというか、コクがない。やはり売場にあったカニを潰して入れてもらうべきだったかなあ。
 いちばんうまかったのは、しゃあさんおすすめの豚煮込み。八角と砂糖醤油味で中華風にとろとろ煮込んだ豚の角煮は、簡単にちぎれるほど柔らかくなっている。つけあわせの煮卵にもじゅうぶんに味が染みている。
 メコンウィスキーはストレートで飲む気はしない味だが、これをソーダで割ると、妙に喉の通りがよくなるのだな。しかし、氷を買うのを忘れていた。


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