旅の終わりに

12月27日(金)
 いよいよバンコク最終日、なのだが、怠惰なふたりはホテルに閉じこもって日がな一日酒びたりになることを選択。ま、気が向いたら、夕方にムエタイでも見に行こうという話だが、けっして気の向くことはあるまい。なにせムエタイのリングサイドが千四百バーツという話を聞いて、両者がっくりしているのだ。三年前に比べても一.五倍という高値。しゃあさんに至っては「ロードオブザリングが十二回見れるうぅぅぅ」とうめいているし。二階席でも六百バーツ、というのは、タイの感覚ではぼったくっているとしか思えない。
 それにしても、昨晩はビールわらしの他にメコンわらしも出没したらしい。またも冷蔵庫にミロばかり。
 とにもかくにも朝飯。しゃあさんは、ついにこの日、お粥の鍋をそのまま持ってきた。あとの人のことも考えときなさい。
 そして隣のマーブンクロンセンターへ。昨日のクーポン食堂へ行き、揚げワンタン、鶏と卵の煮込み、など購入。東急スーパーで大量のビール、メコンとソーダ、氷など購入。ついでにおみやげ用食品を購入。

 前回は「(あき)ご」というけったいな名前のブランドを発見したが、どうやらこのブランド、妙な日本語が評判になってブレイクしてしまったらしい。ホテルの近くに「(あき)ごの店」というブランドショップがオープンしていた。各種駄菓子を販売している。
「かわいた果物」「映画を見ている時の最もよいペートナー」「お年寄りから苦者まで」などの変な日本語は健在だが、どうもウケたのでわざとそのままにしているらしい。
 今回発見したのは、「少林寺ミアそスうめん」という妙な麺類。

少林寺ミアそスうめん

 なぜ少林寺なのか、そうめんなのかうどんなのか、意味もなく混じっているミアスという言葉になにか意味があるのか、どう見ても中身はラーメンなのだが。「特性ラーメン」という言葉もあやしい。どういう特性があるというのだ。
 裏面の日本語もあやしいまでに狂おしい。こちらでの誤字脱字はなく、すべて印刷したままに伝えていることを確言します。

成分材料 少林寺ミスアそうめん1袋 エビ肉又は豚肉50ガラム しいたけ5−6コ とうふ20グラム ねぎ3−4本 みでん切りにんにく、食用油、しょうわ、砂糖、こしょうで好きのように加味して下さい。作り方:1.調理前約2分くらい少林寺ミスアそうめんを水に浸しててかう水を切り容器に入れて下さい。 2.豚肉又はエビ肉、とうふ、しいたけを油でいためてから容器に入れる少林寺。 3.水に浸した少林寺ミスアそうめんを用意されたネギしょうわ、砂糖と混せ好きのように味付けする。

 これによるとどうも、表にでかでかと書いた「ミアそスうめん」が間違っているらしいのだが。それにしても「いためてから容器に入れる少林寺。」というのがいい。なんだか俳諧の香りすら漂ってきそうだ。

 ついでにイモムシのカラアゲとドリアンチップスを購入。
 ドリアンチップスはもっとゲテモノっぽい味を予想していたのだが、甘味や臭味はなく、軽い塩味がしてうまい。サツマイモとジャガイモの合いの子をチップスにしたような味だ。ホテルで食いきってしまったのでおみやげにはならなかった。だれかバンコクへ行ったら買ってきてくれないか。マーブンクロンのクーポン食堂の隣の店で一袋四十バーツ。三袋で百バーツ。しゃあさんなら七十バーツくらいにしたかも。
 イモムシのカラアゲは、かりかりに揚がっていて、これはこれでサクサクしておいしい。ビールのつまみに上等。よく見ると、ちゃんと頭も脚も気門も揃ったままカラアゲになっていて、なんだかけなげ。

イモムシのカラアゲ
拡大図
拡大してみました

 そして夕方まで、テレビでムエタイやらプロレスやらセパタクローやら見たり、文庫本やら新聞やら読んだり、北朝鮮情勢についてしゃあさんと話し合ったりしながら、ビールとメコンでのんだくれる。
 そういえば日本語新聞に、これからの観光に影響がありそうな記事がふたつあった。
 ひとつは酒税の引き下げ。これは醸造所への課税引き下げで消費者への影響は小さいが、同時に酒類取り締まりが緩和されたらしい。タイの焼酎ラオカーオは、これまで密造酒扱いで、田舎や個人商店でこっそり売られているだけだった。それが法律的に認められ、バンコクのスーパーや酒店でも売られるようになるらしい。ラオカーオ好きの私にとっては朗報である。
 もうひとつはコピー商品取り締まり。これまで何回もおふれが出されたが有名無実だったが、今回は製造者や販売者だけでなく、その店を貸していたテナント業者にも罰金を科するという。来年四月までにコピー商品を一掃するよう、マーブンクロンセンターやワールドトレードセンター、市場などに警告が発せられたそうだ。思えば今回私が買った商品の多くはコピー商品。なかにはバーバリーのポロシャツ(二百九十バーツ)のようなすごい品もある。これらが買えなくなると思えば淋しいが……反面、昔の日本のように「アディオス」「オコシテ」などの傑作パチもん商品が取って代わるのではないかと、ひそかに期待している。

 夕方になったらなぜか酒が切れた。ついに妖怪ビールわらし&メコンわらし、日中まで出没するようになったらしい。やむなく買い出しに出かける。
 フジスーパーにでかけて日本酒とその他ビールなど買い込み、スクンビット通りをしばらく徘徊する。Tシャツや食い物の屋台が並んでいる。象まで徘徊している。いよいよ幻覚症状が現れたかと驚いたが、どうやら近くの高級ホテルに泊まる観光客向けに子象使いが出ているらしい。欧米人の子供を背に乗せて写真など撮っていた。
 ついでに屋台でヤキトリを買っていく。一本五バーツ。いろいろ買ったが、ふつうの正肉がいちばんうまかった。なにしろタイでもっとも安く、もっとも簡便な熱源は炭だから、屋台はすべて炭火焼きなのだ。しかもタイのニワトリはブロイラーでなく、郊外の農家を歩き回っている赤い地鶏だ。これでうまくなかったらどうかしている。
 一緒にネームの炭火焼きも買ったが、炭火であぶると酸っぱさが薄れ香ばしさが加わって、いっそう美味くなる。

12月28日(土)
 早朝五時に起床、荷物をまとめてホテルを出る。それにしても二日酔い。ビールわらしとメコンわらしと日本酒わらしの他に、妖怪むかつきと妖怪吐き気ばばあと妖怪頭ぐらぐらがやってきたらしい。
 ホテルでタクシーを呼んでもらったが、こやつがノンメータータクシーだった。空港に着いて「四百バーツ」とかふっかけてきたが、しゃあさんが一喝し、「ノン! 三百バーツ」と叫ぶと「オゥ、オーケー」と弱気に降参した。すごいぞしゃあさん。
 またも中華航空台北経由で日本へ戻るが、とにもかくにも二日酔い。メシもまともに食えず、デザートもむざむざしゃあさんの腹中に。ああ行きは風邪帰りは二日酔い、どっちにしろまともに機能しない。せめて台北であの燻製ジュースを再体験しようと思うが、乗り継ぎ時間が一時間ほどしかなくて断念した。
 これでおしまい。


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