タイ旅行記その3:ダイビング講習記
10月27日(水)
昨日の二日酔いは、カクテルよりも部屋で飲んだラオカーオが効いたのではないかと、今になって思う。
とにかく今日からダイビング講習を受けねばならぬ。幸い今日は学科のみ。八時すぎにホテルを出、スクールの隣の店でコーヒーを飲む。客は欧米人ばかり。ここで東洋人というと、店員かトゥクトゥクの運転手くらいだ。そのためか呼び止めてもなかなかウェイトレスが来ない。かなり卑屈な気持ちになり、「あの、大変申し訳ないのですが、コーヒー恵んでいただけないでしょうか」という気分になる。情けない。
講習のインストラクターはカナさんという美人女性。二人きりで一室にこもり、マンツーマンで懇切丁寧に教えを受ける。この人は頭をよくしてあげる必要はないようだ。サーファーもどきの脱色頭に白い口紅、などというのではなく、黒髪、童顔、化粧っけなしの私好みの女性。ああそれなのに、私の臆病者め。だいたいダイビングの人って、美男美女が多いと思うのは私のコンプレックスなのかな。もうひとりのインストラクター、東さんも館ひろし似のちょっと渋い二枚目なのだ。
各機材の名称やら合図のしかたやらいろいろ出てきてかなり混乱する。私は二十五から物覚えが極度に悪くなり、「暗記はしない。忘れたら本を読めば書いてある」という方針でこれまで来たのだが、そう言ってもいられぬ。
海底では
「それではレギュレータのパージボタンを押してください」
「えいっ」
「それはBCDの排気ボタンです。パージボタンですよ」
「ぶくぶく……えいっ」
「それはタンクのバルブでしょ」
「ごぼごぼごぼ」
などということになり、死に直面するからだ。教習にはコンパスによる方向判定を行い海底で迷わないための実習もある。私は今日、ダイビングサービスに行くのにも道に迷ったのだぞ。昨日も来ていたというのに。
しかも潜水による減圧症になりやすい人として、二日酔い、運動不足、肥満、老齢など私に当てはまることばかり書いてある。こんなので大丈夫なのか。不安をよそにカナ先生はてきぱきと講義を進め、三時ころ終了。最後の五十問テストは四十四問正解で何とか合格。やれやれ。
ホテルに戻る。まだ夕食には早い時間だ。昨日は六時ごろ店に行ったら、まだ客が二組くらいしかいなかった。シーフードの店も店頭に海産物を並べていなかった。だいたい夕食時間は八時以降で、十時から十二時にかけてもっとも町が賑わう。そのかわり朝は遅く、今朝の八時など客のいる店をほとんど見なかった。朝帰りの客がいない歌舞伎町のようなところなのだ。
ちょっと一眠り、八時ころまで寝よう、と横になる。そのまま熟睡。目が覚めたら十二時。もうレストランは閉まっている。夕食は抜き。とほほ。今日の収支
残金 8000バーツ
朝 コーヒー 55バーツ
昼 ビール、チャーハン、トムヤムクン 270バーツ
残金 7700バーツ10月28日(木)
ここは朝九時までは人通りがまるでない。昨日はコーヒーひとつ飲むのにえらく苦労した。今日は朝食抜きか、と思ったが、このスマイルイン、軽食コーナーがあるではないか。モーニングセット60バーツ。トーストとコーヒーとジュース。安いが、コーヒーはインスタント。どうもこのスマイルイン、私以外に客はいないらしい。私が近づくと、黙ってキーを渡してくれるようになった。
今日は九時からプール講習。ダイビング用具のセッティングを習い、ソンテウに乗り込んでパトンビーチにあるプールへ。
初めてウェットスーツを着る。弾力性があってちょっと厚みがあって、たぶんウルトラマンショーなどで使う着ぐるみもこんな感じなのかな。三キロの重りのついたバンドを締め、足ひれをつけ、BCDとタンクのついたジャケットを着込み、水中眼鏡をして、いざ出陣。プールにゆっくりと身を沈める。じわじわとウェットスーツの中に水がしみこんでくる。何というかな、服を着たままで小便を漏らすような妙な感覚。
レギュレータを通じての息はわりと楽にしていられる。耳抜きも、飛行機に乗るときと同じだ、と思えば、唾を飲み込む方式で簡単に出来るようになった。スノーケルとレギュレータの切り替えも、焦りさえしなければ大丈夫。問題はバランス感覚、これなんだよなあ。
カナ先生はじっと水中で立て膝の姿勢ができるのに、私は浮いたり沈んだり、横倒しになったり逆向きになったり、我ながらばたばたしているのだ。BCDの空気を抜いて、あとは呼気で沈み、吸気で浮く。この感覚がなかなかつかめない。沈みたいんだけれど、私の身体は酸素を欲しているのだ。そうなると身体は正直なもので、息を吸い、ますます浮くというはめに。今日は午前中だけの講習だったが、えらく疲れた。それだけばたばたしていた、ということなんでしょうね。
明日はいよいよ沖に出ての実習。揺れるので酔い止めを飲んでおいたほうがいいと脅かされた。疲れてホテルに戻ったら、ちょうどチェックインする欧米人家族がいた。これで入居者あり。他人事ながら安心。
疲れたので夕方まで休むことにする。ぼおっとパンフレットを見ていると、プーケットファンタジーというテーマパークでタイ舞踊、マジック、象の曲芸などのショーが見られるそうだ。電話して聞いてみるとショーが1000バーツ、食事が500バーツ、送迎が200バーツということなので全部お願いする。
車で三十分くらい。寂しいカマラビーチに突如、ディズニーランドのような電飾きらきらの敷地が。これがプーケットファンタジー。中もディズニーランドのように意匠をこらした建物がいくつも。
ここの広大なレストランで夕食。世界最高の豪華ビュッフェを誇るが、しょせんはビュッフェだけどね。まあしかし、タイ料理はもちろん、ローストビーフ、刺身、寿司、デザートのケーキから果物までいろいろある。マグロの寿司が美味。
食後、隣のショップでTシャツを買う。320バーツ。高いが、まあここはタイではなくディズニーランドだと思って諦める。そしてショーへ。今日はカラヤニ王女のご来臨を仰ぐので遅れるという。プリンセスというとプリンセス・プリンプリンとか魔法のプリンセスミンキーモモとか、どうしても若く美しいのを連想してしまうが、実際はおばちゃんでがっかり。まあ、プリンセスにもいろいろあらあな。プリンス浩宮もいることだし。
ショーは総勢百人以上の人間、二十頭以上の象、あと水牛、山羊、鳩、鶏、虎を駆使した大レビュー。タイ舞踊に吊り、ケレン、電飾、爆発、レーザー光線など様々な効果を加えた、スーパー歌舞伎の如きもの。さらに空中ブランコあり、マジックショーあり、象の曲芸ありで一時間半を退屈させない。私の乏しい語学力で推測したストーリーは、どうやら次のようなものだ。昔々、正しい象王国がありました。そこの王子は遊び人で、天女の美しさに見とれて捕獲しようとしたり、その罰で魔法使いに虎に変えられたりしていましたが、あるとき畑仕事をする美しい田舎娘を見つけました。王子は娘とねんごろになり、婚約したのですが、そのとき邪悪な水牛王国の兵士が襲ってきて娘をさらって行きました。娘を取り戻すために王子率いる象王国の兵士は水牛城を攻略したのですが劣勢。そこへどこからともなく魔法の子象が現れ、奇跡を起こして水牛兵たちを打ち破りました。王子と娘はめでたく結ばれ、それを見届けた魔法の子象は、来たときと同じように魔法のように消えてしまいましたとさ。
ショーが終わって帰ろうとすると、売店で、「Tシャツ値下げ 200バーツ」の貼り紙が。これだからタイってやつは油断がならない。
今日の収支
残金 7700バーツ
朝食 モーニングセット 60バーツ
昼食 パンとビール 100バーツ
つめきり 50バーツ
ジュース、ビール 100バーツ
酔い止め薬 45バーツ
プーケットファンタジー 全1700バーツ
ビール(別料金) 190バーツ
Tシャツ 320バーツ
残金 5200バーツ10月29日(金)
いよいよ初めての海へ。
七時四十五分にダイビングサービスに集合、そこから車で十五分ほどの港から船で出航。一時間半ほどでラチャヤイ島のダイビングポイントへ。海は荒れていたが、遠くを見たり船の揺れに合わせて身体を傾け、重力の方向に対してつねに垂直を保つなどの努力のおかげで船酔いしなかった。代わりに疲れたが。
今日はボートダイビングの男性二人と同行。ひとりはダイビングのベテラン、もうひとりはずっとスキンダイビングで最近スキューバに転向したという。大阪からマニラ経由の飛行機で来たそうだ。この二人はファンダイブなので東インストラクターと潜り、講習の私はカナ先生と潜る。
九時半から最初のダイビング。教わった手順を思い出しながらもたもたと準備していると、乗務員がてきぱきと準備し、ジャケットを着せ、足ひれまではかせてくれる。有り難いのだがこれでいいのかしら。
ブイに結んだロープを伝わりながら、ゆっくりと下降。小さな魚が無数にちらちらと泳いでいる。十メートルほどで海底。砂地でところどころにサンゴが生えている。ベラやブダイ、チョウチョウウオなど色とりどりの魚が、砂底で餌を探したり、サンゴに生えた微生物をついばんだり。海底の石には、真っ青の大きなヒトデがアイアンクローのように岩を掴んでいた。
海に入ると、いきなり鼻の下がぴりぴりと痛む。どうやら剃刀負けの傷にしみるらしい。翌日からはアフターシェイブローションを使おう。先行したカナ先生が私を呼び止め、ボードに何か書く。
「コブシメ」
なるほど、モンゴウイカのような姿で外套膜が紫の美しいイカが三匹。明るい色が二匹と暗い色が一匹。どうやら、二匹の雄が雌を争っているらしい。
「交尾してる」
ははあ、そうですか。なるほど。それからもしばらく海底を散歩した。枝サンゴは幹のところが暗いオレンジ色をしていて、生きている先端部分が明るい白。キノコのようなテーブルサンゴもあった。そこを小さなチョウチョウウオが行き交う。上を見上げると、青い空をバックに黒い魚の影が無数にゆらめく。
ダイビングは、とにかくゆっくりと水中を見学できるのがいい。ふわふわと海中を漂いながら、のんびりと進む。上を見ても下を見てもいい。私はどこをどう進んだか、まるで憶えていないのだ。とにかく先導役のカナ先生の後をついて泳いだだけ。
どうやら元の地点に戻ったらしく、さっきの三匹のコブシメに再会した。カナ先生がまたもボードを示す。
「まだやってる」
いや、それはそうです。その通りなんですけどね。……ああ、でも麗しのカナ先生、その言葉は貴女に似合わない。もっと麗しい言葉を言っておくれ。この日は昼食をはさんで、もう一度潜水した。魚に会う度にカナ先生はボードで名前を教えてくれた。いっぱいいすぎて忘れてしまったが。
港から帰る途中、背中にこぶのある白い水牛が、もくもくと草を食っていた。
海から上がった直後は気にならなかったのだが、どうも耳が遠い気がする。どうやら内耳やら頭のサイナスやらに水が詰まってしまったようだ。どうしても取れない。困った。ひと眠りして、七時から夕食。カロン・カタ・ヒルという高級感あるレストラン。ムール貝のカレー炒めは100バーツで大きな貝が大皿山盛りでおすすめ。海老は、まあ、こんなもんか。220バーツで車海老が八匹出てくれば安いだろう。
露店でバナナの値段を聞いたら、でっかい房ひとつ18バーツというので思わず買ってしまった。数えたら十八本あった。一本一バーツが相場か。しかしこれ、どうしよう。食い切れないぞ。今日の収支
残金 5200バーツ
バナナ 一房 18バーツ
夕食 シーフード 650バーツ
Tシャツ(シンハ) 80バーツ
アフターシェイブローション 50バーツ
残金 4400バーツ10月30日(土)
いよいよダイビング講習最終日。
と、思っていたのだがつい魚の豊富さに、アドバンストコースを予約してしまった。いいのかな。普通、オープンウォーターでしばらくダイビング経験を積み、その上でアドバンストコースを受講する、というのが筋ではないだろうか。これって、教習所で免許取りたての新米ドライバーが、「タクシー運転手になる」と言い張っていきなり二種を受験するような暴挙ではなかろうか。あるいは、ボクサーのライセンス取りたての四回戦ボーイがいきなりタイソンに挑戦するようなものか。今日はアドバンストコース受講の女性二人、ファンダイブの女性一人とボートに同乗。この三人は東さんと潜り、私はカナ先生と潜る。
午前中は天気がよく、十八メートルまで潜る。サンゴ礁でミノカサゴ、クマノミ、カマス、ツムブリ、アジ他多数出演。ジャイアントヒュージラーという魚は、黄色と青と赤で身体を彩るフランス国旗のような魚だ。
午後は珊瑚が点在するポイントでオトヒメエビ、ロブスターとご対面。もっとも、ロブスターは穴に潜っていて触角しか見えなかった。砂地の穴からニョロニョロのように半身を出して揺れているガーデンイールも見る。海中では中性浮力という、浮きも沈みもしない状態を長く保つことが重要となる。浮いてしまっては海中観察が出来ないし、沈んで砂を掻きたてたり、サンゴを踏みつけたりしてはいけない。ましてやダイバーズナイフを振るってサンゴにKYなどと文字を刻むのは論外だ。それがHTであってもいけない。もっとも私はナイフを所持しないし、この海域にはテーブルサンゴが少ないのでそんなことは不可能なのだが。しかしながら枝サンゴの枝を折り取って残された枝がKYの形をなすようなオブジェを形成するのも、無論いけないことである。
サンゴのオブジェはともかく、この中性浮力がなかなかむずかしい。カナ先生は膝を抱えた姿勢でずっと止まっていられるのだが、私は呼吸のたびに浮いたり沈んだり、でんぐり返ったりよじれたり。
二回潜って帰途につく。帰るころになって海が荒れ、雨。まあ潜っているときに荒れるよりいいか。それにしてもまた右耳が妙だ。
夕食は地元誌で推奨していたママノイという店に行く。セルフサービス制でイタリア料理、タイ料理がいずれも一皿百バーツ未満。タイ語、英語、日本語のメニューも完備。この店で甲斐甲斐しく働く少女がいる。その写真を撮ろうと思った。しばらく待っていたら、このテーブルを片付けにやってきた。頼もうとして目があった。少女ではなかった。コビトだった。頼めなかった。
今日の収支
残金 4400バーツ
ビール、ナッツ 50バーツ
夕食(ママノイ) ポークカツレツ ビアシン 125バーツ
翌朝食(コーヒー、パン) 20バーツ
残金 4200バーツ10月31日(日)
アドバンスト講習初日。
カナ先生は二泊三日のダイビングクルーズへ出発。なんでも、ジンベエザメやマンタのような大物が見られるツアーだそうだ。
インストラクターは東先生に代わり、昨日からアドバンスト受講の女性二人と一緒に受講。ラチャヤイ島という、ラチャノイのひとつ先の小島まで行く。
まずマルチレベルダイビング。26メートルの深さから16メートル、12メートルと移動して潜る。普通の一定深度のダイビングはダイブテーブルという測定版を使うが、これはホイールという測定版を使って時間を測定する。これは便利だ。たとえば飲酒にもこんなものがないだろうか。飲酒レベルを測定するには、飲酒テーブルを使います。たとえば四合の日本酒を二時間で飲んだ場合、飲酒レベルはTとなります。その後六時間の睡眠を取ると、飲酒レベルはKとなります。その後迎え酒で二本の缶ビールを飲むと、残留アルコール二十六ミリグラムと摂取アルコール十八ミリグラムで四十四ミリグラムとなり、健康最大摂取量の四十二ミリグラムをオーバーします。つまり、二日酔い、肝臓障害など身体に好ましくない症状が出る可能性があります。こうした場合はただちに飲酒を中止し、水を飲みながら安全停止をおこない、帰宅してください。また、日本酒二合、その後ウィスキーに切り替えてロック三杯、などというようなマルチレベル飲酒に対しては、飲酒ホイール出飲酒レベルの測定を行ってください。また飲酒コンピュータを使うと、簡単に摂取可能アルコール量が測定できます。
二本目は海中でのナビゲーション。コンパスを使って正方形に泳ぎ元の位置に戻ってくる演習だが、予想通り、みごとに失敗した。まずコンパスの示す方向に、直線で三十メートル移動。うまくできたなと止まってコンパスを見ようとした瞬間、針がくるりと回ったのだ。どうやら、水平でなかったため針が押しつけられて動かなかったらしい。
今になって考えると、そこから直角に曲がればよかったのだ。そうすれば傾きの角度は違うが、ちゃんと正方形の進路で出発点に戻って来れたのだ。しかし狼狽えた私は、当初設定した角度プラス九十度に固執し、その方向に泳いだ。当然、正方形はできない。当然、帰って来れない。
ひとは私の行動をあげつらうだろうが、開き直って言えば、つねに冷静で合理的な行動がとれる人は、道になど迷わないのだ。ええ、どうせ私は迷い人。三本目は海中写真の撮影。これは難しいが楽しい。自分の潜水記録が画像に残るのだからね。誰が撮ったかよくわからないのをいいことに、自分が撮ったようなふりをして水中写真集を公開しよう。
ダイビングは楽しいな。なんだか野球チームよりも、ダイビングチームを作りたくなってきた。
名前はすでに考えてあるのだ。シーマンズ。無論マスコットはあのソフトのあいつだ。名前を聞いただけで李氏朝鮮の兵隊も明の兵隊も泣いて逃げ出す強豪チームだ。今日の収支
残金 4200バーツ
両替 五万円を18300バーツ
夕食 カレーとビール 150バーツ
短パン 380バーツ
絵はがき 20バーツ
ピピ島ボートチケット 300バーツ
水、つまみ、パウダー 80バーツ
残金 21600バーツ11月1日(月)
アドバンスト講習最終日。今日がアドバンスト講習初日になる四人と行動を共にする。やはり十一月に入ると、客が多くなるようだ。
午前はディープダイビング。二十八メートルまで潜り、計算力テスト、水圧の検証を行う。硬式テニスボールがぺちゃんこになっていた。また波長の短い光線がほとんど吸収され、赤いものが黒にしか見えない。昼は海中ナビゲーションだが、昨日済ませた私は休憩。ゆっくり昼を食べてお昼寝。もっとも、コンパスに失敗したのだから、追試が妥当なところなのだが。
午後は沈没船を見る予定だったが、視界が悪いので中止。中性浮力の練習となった。これ、苦手なんだよなあ。呼吸のたびに浮いたり沈んだり、やたら動くのだ。プーケットにはいろいろな魚がいる。カラフルなハゼ、チョウチョウウオ、クマノミ。青や赤のブダイ。外套膜が紫に光るコブシメ。ハリセンボン、マダラフグ。この中で私がいちばん気に入ったのはヒメジ。白い姿で砂底にはりつき、赤いひげを伸ばして砂底の微生物をあさっている。ダイバーもいないのに砂が巻き上げられていたら、たいていこいつだ。古代ローマではこいつをムルスと呼んで珍重していたらしい。白っぽい体色だが、釣られたりして死ぬ間際には紅くなるらしい。貴族は水槽の中で苛めて、紅くなるのを見て楽しんでいたそうだ。残念ながら海中では、苛めても逃げるだけで紅くはならない。
そしてめでたくアドバンストウォーター修了の検定を頂く。これで私は、インストラクターやガイドなしでパディと潜ることができる資格を手に入れたのだ。ううむ、私のナビで潜水するのと、私の運転する車に同乗するのと、どちらが危険だろうか。命が惜しくない人はかかってきなさい。
帰途、水面すれすれに石を投げたときのように、ぴん、ぴん、ぴんと海面を弾きながら飛んでいくカマスを見た。
夕食はダイビングサービスの人たちに、イサーン料理の店に連れていってもらった。タイ東北の料理。パパイヤサラダのソムタム、肉の炭火焼きのガイヤーンなど。美味。十人ほどで飲んで食って、ビール込みで一人当たり125バーツと格安。
東さんにカブトガニの英名を聞いた。Horse shoe crab というのだそうだ。馬蹄ガニとでも訳すのかな。なるほど。私はこれまで、アーマードクラブなどと出鱈目な英語で数多くのボーイを悩ませていたのだ。でも、右のような絵を描いて見せたら、だいたい理解していたけどね。大きなシーフードレストランで頼めばあるとか。日常食でなく、タイでも珍味の部類だという。肉でなく卵を味わうらしい。
タイでも日本の番組は多く放映されている。ほとんどアニメだが。こちらで見た番組。クレヨンしんちゃん。姫ちゃんのリボン。ゴーゴーファイブ。魔法陣グルグル。ママは小学四年生。よくわからない格闘ゲーアニメ(テレビ東京制作)。よくわからないセーラームーンもどきアニメ。キャプテン翼。タイ作成のアニメもあるが、まだ発明ソン太くん以下のレベルである。登場人物が全員よっちゃんとこの三つ子の稚拙な真似なのはともかくとしても、せめて背景のパースを合わせろ、とにかく。
今日の収支
残金 21600バーツ
アドバンストウォーター講習 8100バーツ
写真実習実費(フィルム代、現像代、プリント代) 400バーツ
酒、つまみ等 100バーツ
夕食 125バーツ
残金 12800バーツ