センチメンタル ジャーニー 第七話 音声

山本 るりか
RURIKA YAMAMOTO
〜 中部戦線異状あり! 〜
記録: 神木(version 0.9)

「やーまもーとくーん、」
「おお、」
「妹は?」
「まだなおらんのだとー」
「またズルしちゃった、‥‥ もう 3 日目 ‥‥」
「おおい、日直はトレイ、あるでなあ、」

「あれぇ、るりか、日直じゃなかった?」
「え、そ、そうだった」
「ごめん、ごめんねぇ、」
「ううん、ちゃっちゃとやって、帰ろ」
「ちゃっちゃっとねぇ、もうすっかり名古屋弁だねえ」
「そうかなあ」
「もうめっちゃんこ自然だよ」
「めっちゃんこ自然かあ」
「日本シリーズで G が負けるの見ないかんで、ちゃっちゃといこー」

「ほらあ、さっさとしやー」

「わああ、」
「どうしよう、これ中津川で発掘したクラスの思い出なのに、
みんな怒るよね、 はばーにされちゃうかも」
「はばって、なかまはずれだっけ」
「うん ‥‥」
「大丈夫だよ、いっしょにあやまろ」

「いっしょにあやまろ、明日こそ、行かなきゃ」


「ばれてないよね、まだ ‥‥」

「ええ? 転校、うそぅ、どうして急に ‥‥」
「ちょっとまえに決まったらしんだけど、ならなか、言えんかったんだって」
「割り逃げ野郎の話しとんか」
「え」
「あいつ ?????」
「そんなわけないがん」
「うそぉ」
「でも朝の会で謝ったのはほんとだよぉ」
「一人で運んどっておとしたんだって」
「一人で、‥‥ そんなはずないよぉ」
「どうしてぇ」
「どうしてってこと、ないけど ‥‥」


「ごめんねぇ、恐くてほんとのこと言えなかった、いっしょにあやまろ、っていったのに、
あたし、‥‥ 嘘つきだ」


それから 6 年、あたしは嘘をつかない子になりたいと、思いつづけて生きてきた ──

「いってきまーす」
「おおい、るりか、俺のかわりなんだでな、ドジこいて迷惑かけんなよ」
「あんたねぇ、それがデートにそなえて、美容院いく兄貴のために
こほんこほん、
バイトかわったげる妹に言うことばぁ?」
「感謝は感謝、心配は心配だて、」
「そういう態度なら、みんなに彼女とどこまでいってるか、ばらしちゃうからね」
「あ、い、いったらぶっとばすでな、」
「へーんだ ????????」
「たーけぇ、やめろて!」
「なら見返りも、それなりにねぇ」


ピ、
「なんだろ、あれ、やだなぁ、なんかあぶないひとじゃないよね ‥‥
こほんこほん、
982 円になります、ありがとうございました」

「ふやああ、」
「あの、山本さんですよね?」
「は、」
「あの、これ、読んで下さい!」
タッタッタッタ‥‥

「え、うそ ‥‥ だよね」


「ああ、おったおった、眼鏡の子だろう?
名古屋ドームでバイトしとったころだわ、

「あ、あぶね!」

「ふう、大丈夫?」
「は、はい、」
「よかった」
「あ、あの、女の方ですか?」
「いや、男ですけど」
「彼女、いますか」
「いや、いまんとこ ‥‥」
「私、一目惚れしちゃったんですけど、」
「へ?」

「こほんこほん、
まさかそれで OK しちゃったわけ? この今中香澄ちゃんに ‥‥?」
「かわいかったしー」
「あの、これあたしの電話番号 ‥‥」
「電話するよ、絶対」
「はいっ」
「じゃあ、なんでいま別の彼女がおるの?」
「それがその紙、‥‥
試合の盛り上がりでわやくちゃになってまって」
「それでどっかに落としたってわけ」
「ん」
「たーけかぁ!」
「いやあ、だでまあ、縁がなかったんだなあと思っとったんだけど」
「あんたこないだ朝の TV に偶然うつったでしょお? あのコンビニでバイトしてるとこ?」
「ん、ああ」
「それみて東京から出てきちゃったらしいよ、
こほんこほん、
とにかく電話くださいってホテルに!」
「ええ? 俺いま彼女おるし」
「だで言いなさいよきちっと、ぜったい電話っするって言ったのにぃ」
ピポパピポパ
「うそついてごめんなさいって」
「ああ、おい、やめろて、こら、」
ガラガラピチャ
「名古屋テルミナホテルでございます」
「706 号室の今中さんお願いしたいんですけど」
「お待ち下さい」
「俺は嘘ついとらんぞ‥‥」
『もしもし』
「ええ、?」
『もしもし』
「は、ああ」
『もしもし?』
『もしもし?』
「あ、や、やまもとですけど、」
「山本さんですか、かかってくるとは思ってなかったから、すっごく嬉しいですぅ、 感激ですぅ、」
「え、いや、あの、」
「ちょっと声かわりました?」
「っていうか、実は、」
こほんこほん
「風邪ですか?」
「それはもう治りかけなんだけど」
「よかったあ、あの、変な手紙だしちゃって済みませんでした、 突然だし迷惑でしたよね?」
「いえ、そんな、それより」
「実は私、明後日から手術でアメリカに行くんです」
「ええ?」
「もしかすると、もう会えないかも、
‥‥ そう思ったら一日だけでも思い出が作りたくなって、なんか大胆なことしちゃって」
「そうなんだ ‥‥」
「でも山本さん、絶対もうつきあってる人、いますよね」
「え、それは」
「いいんです、ごめんなさい、電話だけでも感謝してます、じゃ」

「待って!」
「はい?」
「‥‥ 一日、だけなら」
「いいんですか」
「ん」
「やったあ」
「え、あの、」
「明日 10 時に、あ、ナナちゃん人形ってのとこでいいですか」
「う、うん」
「じゃ、会えるの楽しみにしてますね、おやすみなさい」
「おやすみ ‥‥
はあ、‥‥ めっちゃんこやばい、あいつは明日、デートだ ‥‥」


「ん、よし、
これならわからないよね」
「たーけかお前、ほんとにええんか、それで?」
「だってしょうがないじゃん」
「おれ途中で一瞬入れ替わる位ならできるぞ」
「ええ?」
「そんとき、俺からちゃんと言うからそれまでちゃんとつないどけよ、俺の代理として。
‥‥ ほらっ」
「昌宏 ‥‥」
「嘘つくの嫌なくせに、ったく ‥‥」
「ごめん」


「あ、」
タッタッタ‥‥
「おはようございます、‥‥ 一瞬、ほんとの女の子みたいに見えちゃいましたよ」
「え、え」
「私、ほんとに山本さんとデートしちゃうんだ、 なんか、今になってむちゃくちゃどきどきしてきました」
や、やめてよ、そんな幸せそうな笑顔されたら ‥‥

「ほんとはさぁ、名古屋っていうと山本屋の味噌煮込みとか、?屋の超安いラーメンとか、 クリームぜんざいとか、いろいろ紹介したいもんあるんだけど、
デートスポットっていうと、やっぱりこの ‥」

「あっはははははははは‥‥」

「うわあ、すごいですねぇ、名古屋ドームはどっちにみえるのかなぁ」
「やっぱドラファンなんだ」
「ドームはけっこ行ってます?」
「わりとね」
「‥‥‥ 彼女と、ですか ‥‥?」
「え、いや、彼女は、いない、から」
「ほんとですかあ」
「ほんとだって
(私には、彼女いないもんね ‥‥)」
「そっかー
あの、手、つないでいいですか」
手ぐらいなら、いっか‥‥
これが、最後かもしんないんだもんね
「つぎはあれがいいな」

「ふう、さむい」
「- 30 度だもんね、う、さぶさぶ」
う、胸に
「つないでいよう、ずっと」
「はい」
いっかん、どんどんそれらしい展開になってる
「なんかひえちゃったわ」

「やだ、山本さんはあっちですよ」
「は、はははははは」

「‥‥」

「なるべく、下をむいて。るりか、ダッシュだ!」

「なんであたしがこんな目に、嘘をついてるから、‥‥」
「はいっ」
「え」
「どっちがいいですかぁ?」

「やったね、」
「え」
「なんとなくそれかなって思ったんです」
「すごいじゃん、いっつもこれなんだ、実は」
「うふっ、また一歩、山本さんに近付いちゃった」
こんなに元気そうなのに、明日はアメリカで手術なんて ‥‥
「‥‥ おいしいですよね、ここのって」
「‥‥ いこうか、水族館」
「はいっ」


「あれ」
「はい」
「えっと、
だめだ、これはあたしであってあたしじゃないんだ、もし香澄ちゃんに見られたら ‥‥
お、大人一枚と高校生一枚、
まいったなあ、生徒手帳忘れるなんて、え?」

「ああ、山本さん、あれなんですか、あれ」
「ああ、あれ、しゃちまる君だっけかな」
「わあ、名古屋ぁって感じですね」
「名古屋人的には恥ずかしいけど」
「ちょっと乗ってみたいです」
「え、またこんどね、またこんど」
「‥‥ ありでいいですか? また、こんど ‥‥」
「香澄ちゃん ‥‥」

「わあ、もう 2 時半です、水族館、水族館!」
「え、2 時半? ‥‥ あっちゃー ‥‥ 電源切れてたー」


「ったく、あいつなにやっとんだ」
プルルルルル ‥‥
「もしもし、おまえなあ、おれ彼女にトイレ行く言ってまたしといたまんまなんだぞ?」
「ごめん、なんかしらんけど、ラブラブファイヤーで‥‥」
「はあ? なんでそうなるんだ」
「いれかわるヒマもうないでしょ、あたし、なんとかするわ」
ツーツーツー‥‥

「ごめんごめん、トイレこんどってさあ、‥‥」


「あの、なにか急用とか」
「え、違う違う、今日の、ほら、
広島のオープン戦、ビデオにとっといてもらおかなんて」
「気合い入ってるんですね」
「それより香澄ちゃん、はいろはいろ、香澄ちゃん、はやくはやく、こっちだよ」

「あ、‥‥‥ 」
「山本さんっ」

「ったー、‥‥
アンモナイト‥‥」

「大丈夫ですか?」
「え、ああ」
「よかった、なんか放心状態だったから ‥‥」
「ありがとう」
「じゃ、行きましょっか」
「あたし、なにをしてるんだろ、嘘は嫌だって思ってきたのに、
香澄ちゃんの前であたしはずっと嘘をつきつづけてる。
もうあえないかも、って、その一言に動かされて、ここまで来ちゃった。
‥‥ また今度が、絶対来ないわけじゃないのに」


「今日は本当に、ありがとうございました。
これで心置きなく、アメリカに行けます。
‥‥ もうひとつだけ、わがまましていいですか?」
「えぇ?」

「ファースト、キスはあなたにしたかったから、じゃ」
「え」
「なにか ‥‥?」
「おほんおほん、ごめんなさい、びっくりするとおもうけど、あたし、ほんとは」
「双子の妹のるりかさん、ですよね」
「え、どうして、それ」
「転んだ時、バッグの中の生徒手帳が、見えましたから」
「じゃあ」
「最初に手を握った時から、変だなあとは思ってたんです。
男の子にしては手、小さいし。でも、楽しかったからいいやと思って。
ヴァーチャル昌宏さん体験、って感じかな、うふふっ
実は私もごめんなさいがあって」
「え?」
「手術があるのは本当なんですけど、
私が受けるんじゃないんです」
「え、」
「おじがペンシルバニア大学で医学を教えてて、あたし、看護婦めざしてるから、
おせわになりにいくんです。
それを嘘にならない程度に同情ひくような言い回しして、ごめんなさい。
あ、」
「あはあは、はははははは、は、もうやだあ、ははは、はは」
「うふふふふ、ふふ、」
「ははははは、あははははは」


「なんだってそれ、そんなんありかふつう?」
「知らんけど、ま、面白かった」
「お前に心で誓われたあいつ、呆れとるぞ、きっと」
「えへ」

「ごめんなさい。‥‥ これで何度目のごめんなさいなんだろう、
どうして人って、本当だけで生きていけないんだろう ‥‥
あなたとなら、それが出来るかしら。
今日の反省でしたっ、山本るりか、まる」


データシート。
製作: サンライズ
放送: テレビ東京 May. 20, 1998; 25:45 - 26:15.
CAST: 山本 るりか今野 宏美
山本 昌宏石田 彰
今中 香澄矢島 晶子

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