センチメンタル ジャーニー 第一話、音声トラック

遠藤 晶
AKIRA ENDO
〜 少女のためのヴァイオリン・ソナタ 〜
記録: 神木(version 0.85)

ブラームス ヴァイオリン・ソナタ 第 3 楽章 ニ短調 作品 108 より
第一楽章 Allegro

ンー、カタンコトン、カタンコトン ‥‥
次は思案橋 〜 思案橋 〜
カタンコトン、カタンコトン ‥‥
「ん、」
「あ」

キー、キシキシ‥‥ プシュー ‥
あと電車続いております、押しあわないよう御乗降ねがいます‥‥ 間もなくの発車です ‥
チンチンッ、
「あ、降りますっ」
ンーン、ガタン、ゴー ‥‥

「西海橋までお願いします」
「西海橋? けっこうあるけど大丈夫?」
「お金ならあります。往復で」
「往復!?」
「すぐすみますから」
「すぐ、なにが?」
「用事が、です」
「あ、そう ‥‥ じゃあ、」
タン、ブールルルル ‥‥

回想、サイレント。

拍手

「さいかい、か ‥」
「見えて来たよ」
「え」
「どうするの?」
「あ」

「‥っ!」
「!」

「Au ...」

「おぅっと」
「じゃあすみません、また長崎市内まで」
ブルルルル‥

「Hah ...」


「ねぇ、ほんとにいいのぉ? 遠藤 ‥‥?」
「ん? なにがぁ?」
「だって日曜はいつもレッスンでしょぉ?」
「いいかげん解放してやったんだ、自分を」
「「?」」
「おぅ、これなんか解放的ぃ」

「はい、ありがとうねぇ」
「んん、やっぱアイスは屋台に限るよねぇ」
「「ほんとほんと」」
「くす、‥‥ あ?」
「あははは、やだぁ、晶ったらあ」
「やぁ、うふふふ、ははは」
「あ?」
「え?」

タタタタ ‥
「Halt! (待って!)
はあはあはあはあ ‥
キィ ‥

「はあ、はあ、はあ、‥‥」
コーン、コーン、コーン、‥‥

「あ、
これ、‥ 私のバイオリン ‥‥?」
「Es /wasion/ nicht so eine /haffa/. (大変だったよ)
Es /wasion on fir nich tif/ von Ihnen. (無茶をするお嬢さんだ)

‥‥ ハックション!
「どうして、私なんか ‥‥」

回想、サイレント ──

「はぁ、私、もう止めたんです。せっかくですけど」
「Warum? (なぜ?)
きみには、さいのうが、ある、やめる、りゆう、ないはずだ。 オーストリアに、りゅうがくして、」
「神様が言ったから」
「Was? (なんだって?)
「私、願掛けしてたんです。優勝したら、想いがかなうって。でも 2 位だったから ‥‥」
「Ga - Ka - Ke?」
「が、ん、か、け」
「GA - N - KA - KE?」

「GA - N - KA - KE ...??」

「? ...? AKIRA ? AKIRA !」


「2 位じゃしょうがないもんね ‥‥」

チャリン、
「よいしょっと。神様ごめんなさい、
けちってるわけじゃなくて、御縁がありますようにってことですから。
願掛け行きます!
ピンッ
柏手。

シュルルル ‥‥
「秋のコンクールで優勝できたらあの人に会える、
秋のコンクールで優勝できたらあの人に会える、」
チャリン、

「ようっし、」

「って、思ってたのに、ま、神様もそこまでは甘くないってことだよね」

第二楽章 Adagio

ミーンミーンミーン ‥‥‥‥

回想、サイレント。
テロップ ──

「あなた誰? どうして止めるのよ!?」
「ヴァイオリンのせいにしちゃかわいそうだよ」
「それに ‥‥」
「もう少しでステキな音が出そうな気がしたんだ」
「転校生(あいつ)のせいでやめられなかった」

「何か ‥‥ 燃えるような音色だね」
「分かってなんかないくせに ‥‥!」

「そんなとこじゃなくてこっちに来れば」
「気が散ってしょうがないじゃない」

「遠藤さん、よくなりましたね」
「音の表情が豊かになりましたよ」
「今度のコンクール、絶対優勝だね!」

拍手

「それから ‥‥」
「また風のように転校(きえ)ちゃったね」


第三楽章 Un poco presto e con sentimento

「っしょっと」

「はあ、‥‥ え?」

キキ、

「な、なんで?」

ピンポン

シャッ
「止めたって言ってるじゃない ‥‥」

カチャ

「Darf ich Ihnen doch zum mindesten diese Violine zurueckgeben? (せめてこのヴァイオリンだけでも受け取ってくれませんか?)
「ごめんなさい、私、ふつうの女子高生になるんです」
「ふつうの、じょ、し、こせ?」
「わかってたんです」
「Halt! (待って!)
「私、自分のバイオリンを聴いてほしい人がいなくなって、
だから、だめになったんだって、だから、万年 2 位なんだって ‥‥
だから、‥‥」
「Halt! Warten Sie! (待って! 待って!)
「ごめんなさい」

タタタタタタ ‥‥

「"Eine ganz normale Schuelerin" hat sie gesagt. ("ごく普通の女子学生" と言ってたのか)


スパン、

「ありゃ?」
「あははは」

「ふつうの、じょしこうせい ‥‥」

キキ、
コンコン
「ワット、アーユードゥーイングヒア? (What are you doing here?/あんた、ここで何してんの?)
「Was?! Ah, ha, Nein fuer, wollte, Ich meine nicht besonders, ... Ich wollte nur "ふつうの女子高生"
(え、あ、いや、その、特別な意味で見てたわけじゃなくて、‥‥ これは、 単に "ふつうの女子高生" について ‥‥)
「ああ?」

「あ、これいい感じゃない?」
「うーん、」
「これは?」
「良い良い! ねぇ、晶? ほら!」
「‥ うん」

キャンキャンキャンキャン
「う」

「しょうがないじゃない、聴かせたい人がいないんだから」

「Dass du nur sprechen und ihr sagen koenntest dass du dich /gebessen fuehlest/. (君も言葉がしゃべれるといいんだがな ‥‥「寂しいよ」って ‥‥)

ブルルルル ‥‥


「きょうは、おそかったね ‥‥」
「塾があったから」
「さいごなんだ! あしたのよる、わたしはオーストリアにかえる、いい返事をくれないか」

トントントン、タタタタタ

「──。エストゥ ツミアライツ、リーベンジヴォール。
(Es tut mir leid./ごめんなさい。 Leben Sie wohl./いつまでもお元気で)
「..... Schade ... aber es hat mich gefreut, Sie wiedergesehen zu haben. (‥‥ 残念だ ‥‥ 私も言おう。君に会えて良かった)
さよなら」

バタン、ブルルルン、ブー ‥‥


第四楽章 Presto Agitato

── 官僚の腐敗だよ、だいたい今の日本経済は彼らが原因で低迷しているんだ! ──

── ああ、きれいなお部屋ですねぇ、窓からの眺めも ──

── ズン、おしくも 5 位に終った長島ジャイアンツ ──

── けるさんと交際されているという噂があるんですが ──

── ジャーン、ジャジャ、ジャン ──
「む」

「はあ ‥‥」

プルルルル、プルルルル、プルルルル、プルルルル、

「む」

タタタタ、

「さよならって言ったじゃない ‥‥、みんなさよなら」

プルルルル、プルルルル、プルルルル、プルルルル、

カチャ

ヒュイーーン、

「さよなら ‥‥ 」

「こんどの大会やれそうな気がしてきた。応援してくれる?
ありがとう ‥‥ がんばるね」
「さようなら、‥‥ さようならあ!」
回想、テロップのみ ──
「遠藤さんは」
「ヴァイオリンを弾いているときが一番カッコいいよ」
「これって?!」

タタタ

「これって! 泣いてる、みたいな音色 ‥‥」

「うそでしょ?!」

「は」

「そうだ ‥‥、私、わたし、ただバイオリンが好きで、 だから弾いてたはずだったのに、 いつの間にか、いつの間にか ‥‥」

バタンッ!

「ああっ?!」
「AKIRA ...」
「どうして ‥‥」
「がんかけ」
「願掛け?」
「Ihr Lehrer hat mir von diesem Stueck erzaehlt. (君の先生からこの曲のことを聞いてね)
So wollte ich auch mal selbst probieren. (私もしてみたんだ)
Ah, これをひいたら、あなたに、あえますように ‥‥ OK?」
「バイオリン ‥‥‥‥、
イッヒコメナッハ、エスツライッヒ。 (Ich komme nach Oesterreich. /私行きます、オーストリアへ)
「ああ ‥!」


ヒィィィーン ‥‥

「私、いつのまにか逃げてたみたい。あなたとの思い出の中に。
でも、これからは未来に向かってがんばるね。 だから、素敵な思い出を、ありがとう」

ピンポンピンポン、お客様にお知らせします ‥‥
サンワイツ航空、206 便、オーストリア行きは、ただいまより搭乗手続きを ‥‥

── FIN.


いろいろと suggestion をいただきました。 ありがとうございます。
Thanks for your suggestion, ワタルさん (パラケルススのホームページ) !


ドイツ語で /.../ と囲ったのは聞き取れない単語。

データシート。

製作: サンライズ
放送: テレビ東京 Apr. 8, 1998; 26:15 - 26:45.
CAST: 遠藤 晶鈴木 麗子
ピアニスト土師 孝也


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