Genesis y:25 信頼の名の下に
"SUICIDAL SIGN"


ネルフ侵攻作戦概要

葛城ミサト

ネルフ本部は日本国内における最大級の軍事施設である(資料 1)。

ネルフはその戦力の多くを 3 体のエヴァンゲリオンと呼ばれる汎用人型決戦兵器に依存している。

...

の 3 点である。1, 2. の点から、対エヴァンゲリオン戦闘は電源ケーブルの切断後 5 分間以上攻撃を避け続けることを原則とし、 3. の点から、心理的な戦術が効果的であることが予想される(資料 3, 4)。

ここでは、以下のような作戦を提言する ‥‥‥‥


「何が変わるかな、っと ‥‥」

レポートを提出したのはネルフの対槍の作戦実施の数日前のことで、 当時はまだエヴァは三体とも健在だった。 現在のネルフのバランスシートがどうなっているかは、 これからの解析を待たないといけないし、 作戦内容も多少の変更が要ることになるだろう。
ただ、作戦内容そのものにはミサトはあまりこだわっていない。 今は「ネルフを敵にまわすことができる」ということが周知されれば、 それで十分だった。

ひととおり眺めて、 たいした修正も要らないのを確かめたミサトは、 端末のレポートを閉じて電源を落し、 そしてビール片手に椅子の上で反り返りながら、 天井を見つめ、呟いた。

「JA2 待ち、か ‥‥」


「葛城さんの立案したこの作戦は、 基本的にはネルフの組織としての性向に依っている。
ネルフの出自が人工進化研究所という非軍事組織ということもあって、 ネルフの命令系統への強制力はみかけほどではない。
彼女がこのレポートでやってみせたのはシンジのその反抗性の分析であって、 夫からネルフの主要な戦力を切り離す、という点に主眼がおかれていた」

「仕事を離れ、シンジの母親という視点に戻って眺めれば、 シンジに手を焼いた様子が良く伝わってくるレポートになっていて、 むしろ微笑ましささえ感じる。
しかし、ネルフの一員としてこれを評価するとき、 その分析にはただ脱帽するしかなかった ‥‥」


数日後、2016 年 4 月 11 日。
第一中学校の始業日。 シンジ、アスカ、レイの 3 人が中学三年に進級したその日、 硫黄島新島では JA2 のテストが行なわれていた。

「では、JA2 プロトタイプ起動テストに入ります」


  ... おばさまの前ですけど、この(シンジの方を向く)シンジはまったく
 友達がいのない奴でしたし。
 方法はどうあれ、... というより、







あたしは、... まだ、あなたが私達を愛してくれていると、信じています。
そうであるかぎり、私達は、あなたを止めることができるでしょう...
あたしは、あなたにとても感謝しています... だから、
もうすこし、あたしも冷静になる時間が欲しい。
だから、... 私達は、あなたから少し離れます。


「対ネルフの切札。JA2」

ミサトは自室に戻り、軽く嘲った。
ネルフドイツにせよ、ネルフ本部にせよ、その組織の機動力、組織力に 本当に感心するのはこういう時である。 共同体も戦自もミサトの感覚からすれば動きが鈍すぎた。
すぐに実施される訳でもない作戦を紙に書いてばらまかなければならない。 今も機能しているかどうかは知らないが、JA の惨劇を操った能力からしても、 今回のレポートはネルフに筒抜けになっているとみてよい。

「なりふりかまってらんないのよ」


微妙な修正につぐ修正は、当事者でさえ現時点での状況の把握を難しくしていた。 とくに、計画初期に喧伝されたコトのかなりが単なる宣伝であることを知る者と、 宣伝であったことを知った者、いまだに宣伝であることを知らない者、いまごろにして ようやくそれを知った者 - 知っていることには違いがないが、その捉え方までは他人には分からないがゆえの 混乱が、あった。 その一つが、新市中央病院の瞬間治療 - 不老不死化 - の問題であり、 もう一つが、兵器としての AT フィールドである。 半永久機関としての S2 機関。 人の造り出したエヴァでさえやってのけた瞬時再生。 立案者でさえ出来るとは思っていなかったことを、エヴァでさえやってみせたために この宣伝を信じる者は関係者の中にも多かった。 単なる噂だと聞き流していた者も、事実をまのあたりにすれば認めざるをえない。 単なる宣伝だと思っていたことが覆されれば、 逆にこんどはそれが単なる偶然の産物だという事実には耳を貸さなくなる。 不信と盲目的信仰と。ゆっくりと、しかし確実に混乱が広がっていった。 AT フィールド理論の研究は進んでいない。 発生メカニズムよりは制御法の実用化が優先されたこと、なによりも碇ユイの「死亡」後、 資料が散逸してしまったためである。 碇ユイもまた 10 年という空白のために、 所有するノウハウが現在の理論の枠の中にどうあてはまるのか、 という肝心の点を理解していなかった。


新市防衛体勢への過大評価。それもまたこの作戦立案の一因である。 現実問題として、MAGI をもってしても都市全体をつねに把握している訳にはいかないのだ。 人口の二乗に比例する通信量の監視を考えただけでも、 それは理解すべきである ... ネルフが独占していた知識、情報はすでに拡散の一途をたどる。


"綾波レイ"
ふと、その文字を見つけてアルはレイの部屋のことを思い起こした。
ドアを開けたレイの向こう側に覗いている殺風景なレイの部屋。 部屋を見ればその人の人となり、精神構造はおおむね分かる。
レイをしばらく引っ張りまわしていたこと、 それにマンションの様子からの想像の範囲だったので、 それを見た時の驚きは さりげなく観察していたつもりらしいレイに気付かれることはなかったはすだが、


パサ

書類が放り投げられる音があちらこちらで起きた。 今日初めて配られた作戦詳細には多少、出席者のプライドを潰すようなところがあった。 JA2 開発担当の時田もそういう一人。 彼も作戦の詳細を見たのは実はこれが初めてで、思い返せば確かに JA2 の安全性についてミサトがしつこく尋ねてきていたような気がした。
ミサトが JA シリーズの安全性に煩いのは JA の時からだったため、 とりたてて印象に残っていない。
JA2 の安全性の危惧を全面におしたてた文章に、 立場上、口にする訳にはいかないがやはり憮然とせざると得ない。 確かにエヴァに比べれば防御にやや劣るとはいえ、 こういう使い方を提案されるとは彼は思ってもみなかった。
すでに研究開発が、葛城三佐の資料に基づく JA3 に移っていたのでなければ、 以前のように皮肉のひとつでも飛ばしていたかもしれない。

「こ、これは何だね! 葛城君! 君は JA2 をなんだと思っている!」

まず怒り出したのは JA2 の発注元である戦自の xxx 氏。

「こんなふざけた作戦があるかっ!」

時田とミサトは彼を冷やかに眺めた。


「で、君はこれをどう評価するのかね」

首相官邸で、zzz 首相は内務省から回ってきたそのレポートをに目を通した後、 尋ねた。


ミサトは自室に戻り、端末にレポートを呼び出した。 もういちど、最初から目を通す。

対した変更も要らないのを確かめ、ミサトはレポートを閉じた。


「ああ。問題無い」
「やれやれ。私はお前のその自信がどこから出てくるのか知りたいよ。 古来、100% の防御というものは存在しない。そのスキが実際に見出せなくとも、 その事実だけでこの作戦は成立する。それは認めんかね?」

冬月のぼやきにユイが口を挟んだ。


「あんのバカ! パスワード違うじゃないの!」 最後の連絡による、パスワード「俺達の最初の思い出」として思い浮かぶ、 コト。それでカプセルのデータは手に入った。しかし...


第 26 話 次回 力
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