薄井ゆうじの森
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■ドードー鳥の飼育 <7> 戻る

 騒ぎは数日間つづいた。職員全員と警察、消防隊などが総出で動物園内をくまなく捜したが、ドードー鳥の行方は杳として知れなかった。
 僕は動物園長から呼び出しを受けて、ことの詳細を問いただされた。僕は自分の不注意からドードー鳥を逃がしてしまったことを素直に認めた。厳しく叱責されると覚悟していたのだが、園長は穏やかに言った。
「逃げてしまったものは仕方がない。今後はこのようなことのないように」
「今後? この責任をとって辞職するつもりです。ドードー鳥がいなくては、僕は用なしでしょうから」
「きみぃ」と、園長は言った。「鳥がいなくなった程度のことで、まさか仕事を放棄するつもりじゃないだろうね。きみには今後もドードー鳥の飼育を担当してもらわなくてはならない。きみは多数の応募者のなかからひとり選ばれて、ドードー鳥の飼育をするためにここへ来たんだ。その栄光と名誉を忘れたのか。いいかな、きみにとってドードー鳥の飼育は天職であり、今後もそれを遂行する義務がある。途中で投げ出すくらいなら、はじめからドードー鳥の飼育などに手を出さなければいいんだ」
 話しているうちに興奮してきたのか、はじめは穏やかだった園長は顔を真っ赤にして大声で怒鳴りはじめた。彼はドードー鳥を逃がしたことではなく、その飼育を放棄しようとしたことに対して怒っているのだった。頭上から降ってくる大声を聞きながら、僕は自分を恥じた。
「わかりました。飼育は、今後もつづけます」
「うんうん、そうしなさい。あのドードー鳥は、きみが飼育しはじめたものだ。あれはきみ固有のドードー鳥と言ってもいい。誰も、あの領域には入れない。やるならきみしかいないんだ。そこのところは、わかっているだろうけど」
 園長は、やっと穏やかな声に戻った。僕は一礼してその部屋を辞した。正直に言ってそのときは、園長の言った言葉の半分も、僕は理解していなかった。いままでとは違ってこれからは、はっきりと「いない鳥の世話」をすることになるのだ。どうして、いもしないドードー鳥の飼育をつづけなければならないのか、さっぱりわからなかった。
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